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東日本大震災に学ぶ創造的な復興シナリオ ~実現の最初のカギは、4分の3を超えるエネルギーの発揮~

 2011年3月11日に発生した東日本大震災から、まもなく3ヵ月が経過しようとしている。震災直後は、何よりも人命救助と被災者の目先の生活を保護するための支援が優先され、日本政府も利用可能なリソースを惜しみなく投入してきた。しかし、現在の日本は被災当初の緊急事態への対応から、既に「復興」を目指す次フェーズの真只中にあると言える。単に元に戻すための対症療法的な「復旧施策」ではなく、より強い日本を作るための創造的な「復興施策」が日本政府には間違いなく求められており、今後の取組みのカギとなっている。

 同様に、民間の企業においても今回の震災によって自社の経営体制の脆弱さを痛感し、最悪のシナリオを前提とした、より強い経営体制を作る必要性を感じた企業も多かったはずだ。
 では、より強い経営体制を作るためにどのような切り口から取り組めばよいか。まず、多くの企業が真っ先に目を向けたのは、自社の「業績」に直結する取り組みだろう。特に、被災した地域に関連拠点を持ったモノ作り企業では、被災地において生産活動ができないだけでなく、サプライチェーンが途切れることで、被災地以外の生産体制にも大きな打撃を被った。また、今回の震災の影響で、海外の製造業が日本抜きのサプライチェーン作りに走り出せば、自社の地位がアジア等の有力メーカーに奪われかねない。そうなれば業績の悪化どころか、企業としての存続の危機にすら晒されることにもなりかねず、今回の震災の教訓から、早速今後想定される最悪のシナリオを前提とした「部品・原材料の調達先」や、「自社の事業所拠点」等の最適なポートフォリオの再設計を行った企業も少なくないはずだ。

 一方、より強い経営体制を作るための切り口として見過ごされがちなのは、「人」的資産の管理と活用だ。非常時は、自社の社員を「自宅待機」させ、平時になって単に社員を職務に復帰させるだけでは今回の震災を通じた教訓を生かし切れているとは言い難い。 非常事態を理由に「人」的リソースを持て余しておくのではなく、非常時だからこそ競合他社より、いち早く復興し、優位性を確保するための人的リソースの活用方法を社内で検討しておくことが重要だ。

 そのためには、まず社員の行動指針を明確にし、その内容について予め社内で合意・周知しておくことが必要である。 今回の震災では、直接的に被災していない都内においても、十分に働ける状態にある社員が、自宅待機となっていたケースが多かった。自宅待機が解かれるタイミングは、企業によってまちまちだったが、個々の社員が果たすべきミッションを、社員へ咄嗟にメッセージすることのできた企業は、ほんの一握りだ。
 そんな中、今回の地震発生直後、迅速な行動をとり一目置かれる対応を取ったのが、日本IBMだろう。同社では、「3月11日午後2時46分に襲った東日本大震災直後の、わずか4分後に、対策が始動。1時間で被災地を含む全拠点の状況をほぼ把握。一夜明けた12日には救援物資の補給体制を確保し、被災した顧客への対応を始めた。」という。わずか「4分」という凄まじいスピードで、社員が今なすべきことを判断し、実際に一連の対処を行ったこの事例は、単に「震災対応」という枠の中での評価に留まらず、正しく「強い経営体制を備えた企業」であることをステークホルダーに示す結果となった。
 また、今回の震災の経験から、行動指針の大胆な転換と人材を活かす「手段」についても、複数のオプションを用意しておくべきだろう。NTTデータは今年の夏、「首都圏で働く約1万人の従業員全員にノートパソコンを支給し、全員が在宅勤務できる体制を整える」という。「オフィスをフロア単位で輪番操業する試みと併せて、電力需給が逼迫する今夏の節電対策とする考え」というが、災害等の非常事態にいち早く社員が働ける環境を整えた点において、大胆な転換を図った取組みといえる。
 近い将来、IT技術の更なる進化と共に、実際に出勤しなくても仕事ができる環境整備は、益々進むはずだ。加えて、分散型のエネルギー供給と自給自足型の電気エネルギーの供給体制が整えば、非常時の「人」的リソースを活用も現実味を帯びてくる。どのような形であれ“「人」を活かせない企業”の経営力は低下していく。「人」的資産の管理と活用の不備は、客観的に見えづらいものだが、非常事態においても、社員を「活かす」備えをしておくことも重要である。

 さて、非常時にも強い経営体制を作るために重要なことについて、南アフリカの運動生理学者、ティモシー・ノアキス氏が非常に興味深い事を提唱している。『脳にある中央司令塔がタスクの重さに応じて、どこで疲労を出すべきか設定しており、そのポイントが「全工程の4分の3」である』ことが多いというものだ。これは、一般に言われている、42.195キロのフルマラソンでの場面に照らして考えると、『30キロの壁』があり、30キロ辺りで疲労を感じる人が多く、100キロマラソンの場合は、30キロ・40キロ地点では特別な疲労は感じず、『70キロ』を少し過ぎてから突如として疲労感に襲われることが多い、と言われる根拠を支える一説であるとも言える。
 仮にこの説が正しいとするならば、「本来達成したい目標」を達成するためには、計算上は「本来達成したい目標」の約33%以上高度な目標を掲げる必要があり、かつその目標達成にかかわるメンバーが、目標を自身の目標として認識することで、初めて達成率を100%に近づけることができると言える。反対に、目標そのものを、「本来達成したい目標」の約33%を下回るレベルで、メンバーに認識されている場合は、「本来達成したい目標」を、達成し得るだけの十分なエネルギーをメンバーが発揮することは難しく、「本来達成したい目標」を達成できない可能性が高まる。

 以上のことを踏まえると、如何なる目標でも100%達成するために必要なことは、まず「達成したい目標の約33%以上高度な目標を掲げ」、その目標を各自が自身の目標として認識するということだ。
 困難な局面に直面すると例外なく叫ばれるのが、「リーダー必要論」であるが、「より高度な目標の達成をメンバーに信じませ、各メンバーから最大限のエネルギーの発揮を促すこと」が、リーダーの役割として一般的に認知されているからであろう。実際に、どんなに優れた戦略でも、リーダー(組織上の職位・明確なポジションを問わず、上記役割を果たせる能力を備えた人材)の関与なしに、完遂された例は聞かない。

 東日本大震災発生後から、まもなく3ヵ月。既に、より強い経営体制作りのためのシナリオを持ち、そこに向かって着々と歩み始めている企業と、そうでない企業の力の差が出てくる頃ではないだろうか。
社内により強い組織を遂げるシナリオがある企業は、組織にそれを実行できるリーダーがどれだけいるのか、改めて社内を見渡してみて欲しい。もしリーダー不在の組織であるならば、設定した目標を100%達成することは「難しい」という認識から持つべきではないか。

           


 

                                                 

マカロン

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