近年、グローバル市場における日本の製造業の存在感の低下が目立つ。例えば、日本が強みとしていた家電、半導体などは、世界シェアを軒並みサムスン電子、LG電子などの韓国勢に奪われ、水をあけられた形だ。今後は、ハイアールを筆頭とする中国企業が勢力を広げることが考えられ、サムスン電子やLG電子などの韓国勢が日本勢を追い抜いたのと同じように、中国勢が韓国勢を追い抜き、世界トップに立つことも考えられる。そうなるとますます日本の製造業の存在感は薄くなることが懸念される。事実、成長市場として注目されている太陽光発電市場では、首位のサンテックパワーを筆頭に、中国メーカー4社が世界シェアのトップ10に入っている。2006年までトップだったシャープや国内2位の京セラといった日本勢は、ここでも年々シェアを落としている。 2011年のIMD世界競争力ランキングによると、日本の総合順位は26位で、1998年以降、20位前後を行き来する状況が続いている。1993年まで5年連続世界首位であったことを考えると、満足のいく結果でないことは明らかだ。一方、項目別にランキングを見ると違った面も見えてくる。「科学インフラ」は、ここ数年2位をキープしており、世界トップクラスを維持しているのだ。つまり、日本が強みとする技術力は、国際競争力に活かしきれていない、という見方ができる。 日本の製造業がグローバル競争でシェアを奪われている原因は、もちろん企業側だけの責任だけでなく、高い法人税率、労働規制、自由貿易協定の遅れ、円高加速、政治停滞などの外部要因も影響している。しかし、外部要因を憂いていても前に進まないため、自社がコントロールできる範囲内で成長に向けた手段を考えるべきである。国内市場のシュリンクが見込まれる中、さらなる成長を遂げるには、グローバル市場に打って出て闘う他ない。では、このような厳しい状況の中、日本企業はどのように世界で闘っていくべきであろうか。日本が強みとする技術力だけでは世界で闘っていけないことは明白である以上、従来の闘い方からのパラダイムシフトが必要である。 そこで、日本の製造業の多くの企業が3つのパラダイムシフトを今後の成長戦略に掲げている。1つ目は、“単品売りからソリューション売りへの転換”、2つ目は、“日本中心からの脱却”、3つ目は、“成長事業への集中”である。しかし、残念ながらこれらをやりきっている企業は、非常に少ないように思う。 1つ目の“単品売りからソリューション売りへの転換”に苦戦している理由は、日本の製造業がこれまで持ち前の技術力を武器に品質を磨き上げることや性能を高めることを得意領域としてグローバル競争を戦ってきたことにある。ソリューション売りの目的は、継続的な稼ぎを得ることであり、そのためには、アップルのiTunesやマイクロソフトのWindowsのような強力なプラットフォームの構築し、その上に継続的に多様なサービスを乗せることが必要なのだ。強力なプラットフォームを構築するためには、技術力以上に、差別性のあるビジネスモデルが必要である。差別性のあるビジネスモデル構築、プラットフォーム構築は、日本勢がこれまで得意としてこなかった領域であり、いきなり得意でなかった領域に転換することは難しい。事実、日本企業がグーグルやアマゾンのようなグローバルスケールのビジネスモデルを他社に先駆けて構築したというケースは非常に少ない。差別性のあるビジネスモデルを構築するには、経営者が先を見通す力、全体を俯瞰する力、挑戦を恐れない熱意を持って、道なき道を切り開く必要がある。 2つ目の“日本中心からの脱却”に関しては、ようやく海外中心へのシフトを加速させる企業が増えてきてはいるものの、海外進出に成功しているとは言えない企業も多い。その理由の1つは、日本基準の品質や性能が海外でも通用することを前提としているからである。海外、特に新興国では日本基準の品質や性能は、「過剰で高いだけ」なのだ。余分な機能のないシンプルな製品でとにかく安いものの方がウケがいい。サムスンやLG電子は、まさにそこをうまく突いてシェアを伸ばしてきた。現地に張り付いてニーズを見極め、仮説と検証を繰り返すことが必要である。理由の2つ目は、国際事業部のような部署を設けるのはいいが、国内の事業部よりも権限が弱いことが多い。国内事業の方が現時点で規模が圧倒的に大きいからだ。したがって、国際事業部には、国内事業以上のリソースを割くことができず、スロースタートでスローステップの進出をしている間に、全力で攻めてくる新興国企業に占領されてしまうのだ。国内事業部は、エリア別事業部の1事業部という位置づけにして、国内も海外もフラットに判断できる体制を作ることが先決である。 3つ目の“成長事業への集中”は、情緒的な理由で白黒をつけることができない思い切りの悪さが邪魔をしているケースが多い。成長の目途が立たず、衰退することが見えている事業であっても、長年培ってきた事業、創業者が最も心血を注いだ事業、現経営者が長年携わってきた事業の場合、「もうしばらく様子を見よう」「打開策はあるはずだ」といった様子見を繰り返し、成長事業に割けるべきリソースを既存事業に残し、成長の足かせになっている。投資できるリソースは限られるので、成長の見込みが立たない事業からは思い切って手を引き、成長領域に集中投資することが必要である。 このように3つのパラダイムシフトを実現できていない背景を振り返ると、日本の製造業に足りない力量として、「ビジネスモデル構築力」、「ニーズ理解力」、「権限委譲力」、「意思決定力」が見て取れる。また、「挑戦と失敗への恐れ」「既存へのこだわりとプライド」といったスタンスが実現を阻害しているようにも見える。これらは、日本の製造業が今後成長する上で克服すべき課題である。ただし、これらの課題を克服するきっかけは、平常時ではなく、危機的状況から生まれると思っている。日本の製造業は、過去に危機的状況に何度も直面するも、それらを見事に乗り越え、その度に大きく成長を遂げてきた経験がある。現在も東日本大震災、歴史的円高、タイの洪水被害など、まさに日本の製造業にとって危機的状況と言える出来事が立て続けに起きている。今こそ、日本の製造業が変わることのできるチャンスの時だ。 日本が強みとする技術力だけではもはや勝負できないことは明らかであるが、日本の技術力は依然として高く、間違いなく武器になる。この武器を最大限使いこなすためにも、3つのパラダイムシフトを急ぐ必要がある。日本の製造業がパラダイムシフトを成し遂げ、技術力を武器に再び世界で活躍することを期待している。
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