先日、家族で金沢まで足を運んだ。幼児を伴う移動のため、行き先にある程度の制限がかかるものの、金沢を訪れるのは初めてということもあり、兼六園、金沢城、金沢21世紀美術館、近江町市場など、メジャーな観光名所を回った。そして、兼六園で、妻からこんな言葉を投げかけられた。
「兼六園、確かに美しい庭園だけど、本当の良さがわかるのは、もう少し年齢を重ねてからかな?」
しかし、私はこの言葉に、そこはかとなく違和感を覚えた。
「果たして、年齢を重ねるだけで、良さがわかるようになるものなのだろうか?」
取り敢えず、すぐには答えを導き出せそうにはないので、旅行を楽しもうと思い、その場は忘れることにした。
金沢には、金沢三茶屋街と呼ばれる3つの茶屋街(※1)が存在するのだが、最終日、帰路までの空き時間を利用して、「にし茶屋街」を訪れることにした。そこで、翌日から始まる喧騒に身を投じる前に心を落ち着かせようと、とあるお茶屋さんの戸を開いた。人気が感じられないため、声を上げると、2階から家主と思われる老人男性が降りてきた。中に通していただき、茶菓子を用意してもらったのだが、何と、勝手に金沢の歴史から兼六園の素晴らしさまで語り出した。私は静寂なひとときが欲しいがために入店したので、無論、こちらからお願いなどしていない。始めは、適当に相槌を打ちながら、早く終わって欲しいと思いながら聞いていたのだが、気付くと質問ばかりして、すっかり夢中になっている自分がいた。
「金沢に来て一番始めに話を聞いていたら、もっと色々な良さに気づき、楽しめたのに」素直にそう思った。
と同時に、昨日の疑問に対する答えも浮かび上がった。
「兼六園の良さがわからなかったのは、年齢の問題なのではなく、自分の興味・関心を十分に向けられておらず、兼六園の良さをわかるための“数多の”情報(ここで言う情報とは、兼六園にて五感を刺激するモノ、更には茶屋街の家主の語りを含む兼六園に関する全ての情報を指す)をシャットダウンしていたからではないか」と。
貴方にも似たような経験はないだろうか。例えば、何回も同じ道を通っているにも関わらず、新しい趣味(Ex.ゴルフ)を始めたら、そのお店や看板が目につくようになった等である。
どうやら、我々の脳は、情報過多になってパンクしないように、無意識のうちに情報を選別しているらしい。そのため、興味・関心を持ち、意識を向けることで、新しい情報が飛び込んでくるのである。実際、クライアントの方々にも、「(自社・自組織に対する)問題意識や興味・関心を高めて、情報感度を高めることが大事」だと伝えているが、そんな一言で、急に問題意識や興味・関心を高められる人は稀である。
では、どうしたら、問題意識や興味・関心を高められるであろうか。
今回は、脳科学の視点から、一計を案じてみたい。
まず、脳に関する基礎知識として、「ニューロン」と「シナプス」という言葉を理解しておきたい。人間の脳には平均して1000億個のニューロン(結合してネットワークを形成する神経細胞)があり、殆どのニューロンが膨大な数の別のニューロンとつながりを持ち、絶え間なく交信しながら密接に連携するネットワークをつくっている。そして、細胞同士が接合する部分は「シナプス」と呼ばれ、接合が繰り返される度にシナプスの強度は強くなり、信号が伝達するスピードも速くなる。
これを前提とすると、「問題意識や興味・関心を高める」ということも、もしかしたら繰り返すことで、強化できるかもしれないことに気付く。そして、それは筋力を鍛えるのと少し似ている。
少し、話は変わるが、本屋を覗くと、論理的思考力やロジカルシンキングをつけようとするノウハウ本が目につく。しかし、そういった類いの本を読むだけで、楽に身につけられると考えているのは、あまりにも滑稽である。実際、身の回りでも論理的思考が得意だとのたまわる人が増えてきたように感じられるが、少し話してみると、全く身についていないことがすぐにわかってしまう。ダイエットするために腹筋が大事だと本に書いてあったとしても、一晩だけ腹筋してそれでおしまいでは、腹筋が割れるはずがない。毎日毎日、繰り返してやり続けないと決して筋肉はつかない。論理的思考はもとより、同じ脳の構造であるならば、「問題意識や興味・関心を高める」ことについても、繰り返すことが重要であり、決して、先天的なものだとは言えないのではないだろうか。
また面白いことに、筋力と同じだと思うのは、年齢が若い方が強化しやすいという点だ。40歳過ぎたら腹筋を割るのは大変だが、30代なら半年で腹筋が割れる。20代なら3カ月で割れる。この点は、これまで様々な人を介して得た結論として、論理的思考力についても同じことが言えるので、「問題意識や興味・関心を高める」ことについても同じかもしれない。確かに、自分や周囲の人を振り返ってみると、幼い頃から何にでも興味・関心を持つ子は、大人になってもその特性を引き継いでいるケースが多い。だとすると、やはり「繰り返しの力」の作用を認めざるを得ないかもしれない。
そこで、私が提唱するのは「ウォーリーを探せ」もとい「○○を探せ」である。ルールは簡単で、就寝前に何か一つキーワードを決めて、翌日の就寝前までに、そのキーワードに関連するもの(看板でも記事でも何でも良い)を10個探すというものだ。意外と簡単なように思われるかもしれないが、実際にやってみると、かなり意識的にならないと難しいことが肌身にしみるはずだ。人間は、何か新しいものを知る・経験すると、一種の幸福感を覚えるため、やると感動する人も多いと思う。是非、一度チャレンジしてみてほしい。
<脚注>
※1:【金沢三茶屋街】
「ひがし茶屋街」「にし茶屋街」「主計町(かずえまち)茶屋街」
ノラ猫
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