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養鶏業におけるIoT化技術によって、中小養鶏事業者は生き残れるか?

『物価の優等生』と聞いて、皆さんは何を思い出すだろうか。タイトルから察しがつく方もいると思うが、一般的には、タマゴ、モヤシ、牛乳あたりがよく『物価の優等生』と言われている。インターネットで『物価の優等生』と検索するとまず挙がってくるタマゴは、実は30年以上小売価格がほぼ変わっていない。また、タマゴは『物価の優等生』という面だけではなく、『ほぼ完全栄養食』と言われるほど栄養価が高い。事実、タマゴは、健康を維持するために必要な栄養素の内、ビタミンCと食物繊維以外の栄養素が含まれている。それに加え、料理使われるレパートリーの多さから、タマゴは日本の食生活に深く根付いており、日本人にとって欠かせない食材の一つと言えるのではないだろうか。
 
さて、昨今、あらゆる分野で急速にIoTを活用したサービスが出現している。農業や畜産業に着目してみると、IoTサービス活用の最大の特徴は、一般的に大きく2点あげられており、一つ目はリアルタイムに生産に関わる情報を収集しモニタリングが出来ること、二つ目は遠隔地から生産現場の情報を確認・操作をすることが出来ることがある。それにより、農家での深刻な人材不足の改善、生産効率化などの効果が期待できる。
タマゴを生産する養鶏業でも例外ではなく、大手商社系飼料メーカーが主導し、養鶏IoTサービスによって、鶏舎内情報のモニタリング、鶏舎の管理・操作が出来るようになっている。1
私は、こうした養鶏業におけるIoTサービスの普及や技術革新を、中小規模の養鶏業者は脅威と捉え、独自の差別化要素を早期に見出し、国内外問わずニッチな市場を自ら積極的に創出していく以外に、生き残る道はないと考えている。
 
なぜなら、①国内人口減少により国内需要が縮小していく一方で、国内生産率は99%(国内生産量÷国内需要)にまで到達していることから、このまま維持され続ければ鶏卵相場は低水準で推移し続け、中小規模の生産者の経営状態は今以上に悪化する。②規模の経済性が働く大規模生産者はIoTサービスの導入によって、更に生産コスト低減、生産効率化が図られ、コスト競争力が増す。➂コスト競争力が増した大規模生産者は販売力が強まるため、中小規模の生産者は販路を奪われるからである。
 
 理由を紐解く前に、タマゴの価格はどのように決められているのかを補足しておく。大きくは2つに分かれる。1つは相場を付ける機関(農協系企業)に、毎朝入荷されたタマゴの量とその日のタマゴの販売予定量に応じてサイズ別に相場が付けられ、その鶏卵相場を基準とした価格決定が行われている。※2.要するに需要と供給のバランスによって日々相場が変化する。
もう1つは、生産者が個別にタマゴへの拘りや安全・安心などの差別化を図り、キログラム当りまたは1パック当りなど、取引形態によって単価が決められている。
また、国内のタマゴの流通は、約半分がパック卵として一般家庭に流通し、残りの半分は業務用として外食産業向けや加工用として製造業などへ流通している。※3. 家庭向けも業務用も指標とする相場は異なるものの、価格の決め方に大きな違いはない。
 
それでは、前述した理由を紐解いていきたい。
まず①国内の鶏卵市場について、需要面を考えてみると、日本の人口は2018年1億2,623万人、2019年1月現在の1億2,650万人から、2020年は1億2,533万人、2030年1億1,662万人、2060年8,674万人と減少すると予測されている。※4. 一方で、日本人は1年間で一人当たり約21kgのタマゴを消費しており、2018年までの8年間でほぼ変わっていない。5 よって、日本国内での需要は食習慣の大きな変化によってタマゴの消費量が増えない限り、国内需要は人口減少とともに減っていくことが予測される
次に、供給面を考えてみると、日本全国の鶏卵生産者年平均5%で減少している一方で、1戸当りの生産羽数は年平均6%増加し、実際の生産量は、年平均1%増加している。国内需要に対する、国内での生産量の比率は、2013年は約94%から2018年は約99%まで上昇し、実際の鶏卵相場は過去5年間で最も低水準で推移している。安定的な経営が出来る相場水準まで上昇させるために、生産量を抑制する要請が専門誌で全国の生産者に向けてされている1ことからも、このままの生産量の水準では相場は低水準で推移し続け、生産者の経営状態は悪化する一方なのである。
 
次に➁養鶏業界におけるIoTサービスへの投資は、資金力のある大規模生産者の方が普及が早くサービス導入費の割合は大規模生産者の方が規模の経済性によって相対的に低い。また、IoTサービスによるノウハウの蓄積が早ければ早いほどコスト面での先行者優位に繋がる。これにより、大規模生産者は、これまで以上にコスト競争力が増すこととなる。
 
➂大規模生産者は、小売・卸・加工筋などへの独自の販売先や物流網を持っており、販売を他社に任せていることが多い中小規模の生産者よりも、販売力の面でも優位性を持つ。それに加え、➁で説明したように大手生産者がこれまで以上にコスト競争力を獲得すれば、中小規模の生産者は販路を奪われることになる。
 
以上により、中小規模の生産者にとってIoTサービスの普及が進むことで大手生産者とのこれまで以上に厳しい価格競争にさらされることとなり、更に経営環境の悪化に陥るため、生き残る事は大変困難であると言える
いち消費者としてみれば、安心・安全で美味しい卵が安く購入できれば、それでいいかもしれない。しかし、昔から日本のタマゴ市場を下支えしてきた中小規模の生産者が、健全な経営が出来ず倒産・廃業に追い込まれてしまっている状況は非常に残念に思う。
 
それでは、中小規模の生産者が、今後も生き抜いて行くためにはどうしたらよいか。
それは、鶏卵相場による取引ではない、価格決定権を持った流通網を確立することである。同地域にいる他事業者(例えば、鶏肉生産者や他の畜産業、農業、食品加工業など)、大学、市町村と連携し、地域ブランドを立ち上げ、国内外問わずこれまでとは異なる独自ルートでタマゴを流通させていき、6次産業化を図って行くのである。IoTサービスに係る設備投資の資金は、農商工連携による国の支援策を活用して調達し、生産コスト低減と生産効率化だけでなく、地域ブランド独自の差別化要素を早期に見出すことにもIoTサービスを活用していく。具体的には、専用のECサイトを立ち上げ、受注データとIoTデータを連動させたオーダーシステムを構築した上で、タマゴの黄身の色や味を飲食店のオーナーや消費者の好みに応じて自ら選べるようにする。さらに鶏を個体識別管理を行い、その鶏が食べた餌や飼育環境のデータ、親鳥とタマゴの紐付けされた情報を合わせて、定期便として受注先に届ける。
また、他の連携事業者の食材とタマゴを使用した加工食品の開発によって高付加価値化を行い、地域ブランド商品ラインナップを拡充させ、地域内外へ積極的なプロモーションを実施する。コアな固定客や愛顧客を獲得するために、地域ブランド商品を直接購入できるアンテナショップを出店し地域ブランドを浸透させていくといったことも必要である。
このように、中小規模だからこそ実現できる”仕組み作り”を行い、自社だけではなく地域資源を活用した取り組みによって、既存の鶏卵相場に影響を受けないニッチな市場を創造していくことが、中小規模の生産者が生き残る道でなのある。
6次産業化の取り組みは、国の支援はあるものの、鶏卵事業者1社で進めることは資金的にも、経営者の労力としても難しいので、地域の他事業者や大学、市町村と連携して、地域ぐるみで取り組むことが必要だ。収入の増加を鶏卵相場や一般市場価格の上昇に準ずるのではなく、積極的に地域社会に働きかけ、自ら価格を決められる市場を創造し、地域経済を全体を活性化する取り組みを推進していくように変えていかなければならない。IoTサービスによる働き手の負担軽減や生産効率化といった目先の利益だけでなく、得られた情報を如何に活用し、これまで気が付いていなかった付加価値をどのように創出していくか、ということに目を向けるべきである。こうした1次産業を基点とした6次産業化の取り組みがこれまで以上に各地で起こり、地域経済が活性化していくことで日本経済全体が活性化していくことを願っている。
 
最後に、タマゴには、一般的に意外と知られていないことが多いので、いくつかクイズ形式で紹介していく。
問1.殻が白色のタマゴと茶色のタマゴではどちらの方が栄養価が高いでしょうか?
問2.タマゴの黄身の色で産ませることが出来ない色は何色でしょうか?
   A:白色 B:青色 C:黒色 D:どれも可能
問3.ゆで卵の殻が取りやすいのは、新鮮なタマゴか?消費期限間近のタマゴか?
 
<参照>
※1.鶏鳴新聞:2018.6.25【今秋から養鶏IoTサービス 伊藤忠飼料ら3社開発
        2019.3.5【需要に見合った生産体制構築 JA全農たまごが2度目の要請
※2.JA全農たまご:【ひよっ子でも分かるたまご相場】
※3.全国農業協同組合連合会:【鶏卵における流通の現状】
※4.内閣府:【将来推計人口でみる50年後の日本】
※5.農林水産省:【鶏卵の需給動向2017年】
 
<クイズの答え>
問1.殻の色の違いで栄養価は変わらない
問2.D:どれも可能
問3.消費期限間近のタマゴの方が剥きやすい
 
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