SNS(交流サイト)などで虚偽の情報である「フェイク(偽)ニュース」が流れる事例が増えている。偽ニュースは一般に、社会を混乱させたり、利益誘導をしたりするために発信された虚偽の情報のことだ。7月21日投開票の参議院選挙にからんでも、ツイッター上で複数が確認された。例えば参院選の開票日前には「来月から国会議員の月給が100万円から120万円に引き上げられる」「安倍首相が『富裕層の税金を上げるなんてバカげた政策』と答弁」といったテキストや動画がSNSのツイッター上に投稿された。後にメディアによって偽ニュースと判断されたが、投稿を信じた人による「不公平だ」などのコメントが殺到。安倍首相の動画は700万回以上再生された。
フェイクニュースを作る技術は日々進化している。人工知能(AI)による画像処理を使い、映像の中の人物を他の人物と入れ替える技術「ディープフェイク」や、映像内の人物の表情を自在に変えられる技術「Face 2 Face」が登場。実物そっくりのフェイクを誰でも簡単に作れるようになった。
またフェイクニュースの方が事実より拡散スピードが速く、拡散範囲が広いという研究結果が2018年にサイエンス誌に掲載された。論文では10万件以上のツイートを分析し、その結果真実が1500人にリーチするにはフェイクニュースよりも約6倍の時間がかかることやフェイクニュースの方が70%も高い確率で拡散されやすいことが明らかになっている。
ソーシャルメディア上で偽情報があまりに容易に広がるという事実は単にやっかいだで済む話ではない。虚偽のニュースは我々の選挙と民主主義の根幹を脅かす可能性がある。なぜこれほどまでにフェイクニュースが存在するのか、そしてどうすれば抑止できるのであろうか。
フェイクニュースがつくられる理由は政敵に勝つため、主張を強固なものにするためという意図もあるだろうが、大きな理由の1つは金銭的理由である。例えば米大統領選挙では東欧の小国であるマケドニア共和国に住む学生たちが大量のフェイクニュースを作成、100以上の米国の政治情報サイトが運営されていたことが分かっている。彼らは政治的立場からトランプ氏を勝たせたかったわけではなく、その狙いは記事の作成・拡散による多額の広告収入にあった。彼らは米国の右翼サイトなどから寄せ集めした情報を公開し、拡散を図った。特に右翼的なテーマほど拡散されやすいことからトランプ氏を擁護するようなフェイクニュースが大半を占め、数か月で親の生涯年収分をかせいだ者もいる。
ソーシャルメディアにおける収益モデルはコンテンツの拡散度合いに依存する。現在のデジタル広告のビジネスモデルは虚偽ニュース拡散を促す側面もあるといえる。なぜなら偽情報は正確な事実報道より早く、より広く拡散するからである。
フェイスブックの創始者にしてCEOのマーク・ザッカーバーグが公聴会で何度も誓ったように、プラットフォーム企業にはクリックベイト(ユーザーの興味を引きクリックさせるために、実際の内容と異なる扇情的なタイトルをつけること)を減らし、より有意義で信頼性の高いネットワークを作る責任がある。プラットフォーム企業にとって広告料が生命線ならば広告主の大企業が影響力を行使すれば流れは変わる。フェイクニュースと共に表示される企業広告は企業イメージを毀損するため、ソーシャルメディアがより社会的責任のある運営をするようになるまで、大企業は広告を出さないような見直しをすべきだ。
また企業任せだけでもいけない。フェイクニュースの明確な定義が難しく、プラットフォーム企業のファクトチェックがまだ効果的に働かない今、拡散媒体となっている消費者の我々も知恵をつけ、見る目を養い、情報を鵜呑みにせず、嘘を見破るための自衛のスキルを身につけなければならない。
具体的には情報の質、真偽、偏りをより意識することが重要となる。無論すべての情報について、真実かどうかをチェックするのは不可能であるが、受信する情報について、偏っているかもしれない、自分の見たいものだけ見ているかもしれない、デマかもしれないと考えて接することはできる。完全に防ぐことはできないが、これらを認知したうえで情報に接するのと認知しないで接するのではその意味合いは大きく異なる。
情報社会になって情報が氾濫し、共有方になったことにより、あらゆる情報を無料かつ無制限に享受できるのが当たり前になりつつある。しかし、そのような時代だからこそ我々は情報の質についてよりいっそう深く考える必要があるだろう。
エウロパ
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