先日、日本本土に超大型台風が襲来し、大きな被害をもたらした。
被災された皆さんへは心よりお見舞い申し上げるとともに、被害に合われた地区の皆さんには今後の生活の安寧と一日も早い復興をこの場を借りてお祈りさせてもらいたい。
私の住む地域は東京の西側にあり、例外なく超大型台風の直撃を受けたが、事前情報による準備と比較的高台に位置していたこともあり、幸いにも無事であった。だが、もう一つ前の台風のときは、交通機関が完全にストップし、朝の通勤ラッシュ時というのもあり駅が人であふれかえっていた。その日の出社を見合わせる方も大勢出たことだろうと容易に推察できる。
さて、本稿はそのような交通機関が災害でストップし、駅前が人であふれかえる光景を目の当たりにしたときに巡らせた妄想についてここに書き留めるものである。
本題に入る前に、タイトルに掲げたOMOの考え方について、簡便に紹介したい。OMOとは、Online Merges with Offlineの略で、この言葉自体は、グーグルチャイナの元CEO李開復氏が2017年9月ごろ提唱し始めた。参考までに、彼の著書の中での記述を以下に引用する。
「ソファに座って口頭でフードデリバリーを注文することや、家の冷蔵庫にあるミルクが足りないことを察知してショッピングカートへの追加をサジェストすることは、もはやオンラインでもオフラインでもない。この融合された環境をOMOといい、ピュアなECからO2Oに変わった世界をさらに進化させた次のステップである」
メーカーや小売りなどで一時代前に声高に語られていたO2O(Online to Offline)の世界観は、“オンラインをどう活用するか”というリアル起点でデジタルを発想する考え方であり、企業目線で語られる内容であった。しかし、OMOの世界観は、デジタルが急速に進化を遂げる時代を受け、“データを軸にリアルをどう便利にするか”というデジタル起点でのリアル活用の視点に進化を遂げ、それは常に顧客目線で最適解を求める思考が当たり前になる世界に変貌を遂げることを意味する。
具体的にわかりやすい例を挙げるならば、皆さんは知らない土地に何か用事があって出向く際、まずスマホでマップを表示し、目的地までのルートを探してから、目の前に広がる道路や標識を捉え、歩を進める方が多いのではないだろうか。スマホがなかった時代は、道の標識を探したり街並みの雰囲気などを見たりして、歩むべき方向を選び歩を進めていたかもしれないが、そこからは大きく変わった。食事する店を探すときも、看板の雰囲気や外観、漂う香りなどで決めることよりも、まず食べログなどからお店の情報や位置を取得して決めることが多くなってきているだろう。それこそデジタルが当たり前、デジタルのほうがリアルよりも先に利用している世界になる。それの延長線上にOMOの世界がある。
中国のフ―マーマーケットや平安保険グループなどOMOの世界における先進企業として名前があげられるが(詳細は、文末記載の参考書籍をご覧いただきたい)、それらの企業に共通しているのは顧客の行動データをオンライン/オフライン両面から数多く取得し、それらを基に顧客目線で最適な価値を提供している点である。つまり、顧客データの量・質とその活用が肝となっている。
さて、冒頭の話に戻るが、私は交通機関のストップによって駅前に人があふれている光景を目にしたときに、このOMOの世界が頭の片隅にあったこともあり、なんて数多くのデータがそこに密集しているのかと感嘆した。きっとデータサイエンティストを本業にしている人が見たら、駅というのはそのようなデータ集約拠点として機能していると見て取るのではないだろうかと。駅の再開発といえば、JRや私鉄各社の動向をみても、基本的には沿線価値の向上であり、駅そのものをどうこうするというよりも、駅周辺の施設開発などを推し進めていることが多い。だが、もしOMOの世界観から駅の再開発を考えるとすると、大きなパラダイムシフトが起きるのではないだろうか。
駅における顧客行動データというと、現状は、おそらく交通系ICカードによるデータ取得とその活用がメインになっていると思われる。しかしながら、駅周辺に様々なIoTセンサーが設置され、それ以外の行動データが交通機関と連携されて活用できるようになると、例えば次のような世界が訪れるかもしれない。
1)交通機関における広告最適化とAR/VR活用によるサービス体験の実現
今の車内ビジョンでながれる動画広告や車内に吊るされている広告は、マスに訴えかける内容である。だが、それだけではなく、興味をもった(更なる妄想としては、興味をもったというような感情面の機微もセンサーで検知し、自動検出されるようになると面白いが)個々の乗客は、自身のスマホに特定の広告内容に紐づくキャンペーンチケットのようなものをダウンロードすることができ、乗降した駅構内でそのチケットを使うことで、その商品が置かれていなくてもAR/VRを活用して商品やサービスを疑似体験できる(広告の追加コンテンツを楽しむことができる)ようになるかもしれない。そして、それは企業側にとっても興味を持った潜在顧客データが届けられることとなり、さらなる商品・サービス開発に活かされるようなスキームができあがる。そうなると駅がデータプラットフォームとして様々な企業が活用をはじめる対象チャネルとなる。
2)心身の健康状態に合わせた最適な交通手段の提案と交通機関内でのサービス提供
定期購入時にデータ提供に同意した顧客に対しては、ウェアラブル端末などに紐づいた心身の健康状態のモニタリングデータを基に、毎日の通勤・通学がより快適になるようなルートやそれに紐づくサービスの提供が実現できるかもしれない。(例えば、ストレス度がピークに達していれば、比較的空いている乗車時間・乗車車両への誘導が乗車時間までの近隣にある喫茶店やマッサージ店のクーポン券と合わせてスマホに通知が届くなど)
3)行動データに基づくダイナミックプライシング
飛行機などではすでになされているが、電車でも同じように駅利用者の混雑状況に合わせて最適化された価格設定を実現し、混雑緩和、通勤ラッシュ解消などにつなげることも想像できる。(国策と紐づく企業の取組としてはハードルがあるかもしれないが)
ちょっとした妄想の域をでない話の数々であるが、駅に限らず商業施設や高速道路のPA/SAなど、リアルにある様々な施設・拠点をOMOの世界観から眺めてみると、皆さんの生活価値を大きく変革向上させる取り組みがみえてくるのではないだろうか。まさに、デジタルが席巻し始めた今の時代に生きる一人の人間として、そのような視点で、様々な企業の次の戦略・アクションを注視していきたい。
参考書籍:「アフターデジタル」 著―藤井保文・尾原和啓
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