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目指すべきスケールフリー性

 DXが声高に叫ばれ始めてから約20年近く(DXというキーワードは、2004年にスウェーデンのウメオ大学教授、エリック・ストルターマンが提唱したとされる。)が経とうとしている昨今、COVID-19の影響もあって企業も生活者もデジタル化がますます加速しているというのはもはや目新しい話ではない。どの業種業態においてもDXがこれからの経営戦略の重大テーマとなっているのは明らかであろう。特にB2C(B2B2C)ビジネスを展開するような企業群においては、DXを進める中で如何に顧客接点を多くもち、顧客の情報をビッグデータとしてつかめるかが重要になってくるのは想像に難くない。「アフターデジタル」という本の中でも、リアルな世界の中でデジタルをどう活用するかというO2Oの世界から、リアルとデジタルが融合した世界をどう築くか、もっと言えばデジタルの世界の中でリアルをどう位置付けるかというOMOの世界に大きく転換していると語られており、そのような状況では、顧客接点をどう作りどう個別最適なニーズをデジタルも活用してかなえていくかというプラットフォーマー主導の世界に変わっていくと述べられている。

 

では、プラットフォーマーになっていくためにはどうすればよいのか。「アフターデジタル」の著者の一人である尾原氏は“DXが起きる場の一つの大きな解は、スケールフリーネットワークにある”と語り、スケールフリー性を生み出せるかどうかが分かれ目になると述べている。この“スケールフリー性を生み出す”というのが本稿で最も着目したいポイントであり、これからの世の中においては企業にとっても個人にとってもかなり重要な視点になると私は考えるので以降詳述していきたい。

 

まず企業における対社外の視点で見ていきたい。

尾原氏の著書「スケールフリーネットワーク」より、スケールフリー性についての理解を深めていくとこから始める。

「スケールフリーネットワーク」とは何か?それは、1998年にネットワークの研究をしていた米ノートルダム大学(当時)のバラバシ教授が発見したもので、各構成要素が一定数のつながりをもつ均等なランダムネットワークと違い、特定の構成要素が大多数のつながりを持つ一方で多くの構成要素は限られたつながりしかないような不平等で偏りのある(格差を生む)ネットワークのことを指す。例えるならば、ランダムネットワークは高速道路のネットワークのように各都市のほぼ同数の高速道路がつながっているようなネットワークを指す一方で、スケールフリーネットワークは航空網のネットワークのように多くの小さな空港が特定の大きなハブ空港でつながっているようなネットワークを指す。なぜこのスケールフリーネットワークという考え方が重要なのかというと、そこに包含される多様性(無数の小さなつながりをまとめている点)と浸透性(べき乗則でハブから波及していく点)にあり、これはイノベーションを起こすうえでも大事な視点になるとされる。実際、巨大なプラットフォーマーといわれるGAFAはまさにこのスケールフリーネットワークを築き上げることでプラットフォーマーになっており、リアルとデジタルが融合された世界で影響力を持つうえでは欠かせない視点といえるだろう。

具体的に言うと、例えばGoogleはページランクという概念を導入することでWebのスケールフリー性を生み出し加速させた。「信頼性の高いページからリンクされているページほど信頼性が高い」という考え方を入れ、すべてのウェブページをリンクの質と量で評価することでWebのスケールフリーネットワークを築き上げGoogleは検索エンジンとしての圧倒的な地位を築き上げることができ、それによって膨大なユーザーが利用しやすいプラットフォームとなることができた。また、Facebookの場合も人間関係をスケールフリー化することに成功し、プラットフォーマーとしての地位を築いているのだ。

GAFAの事例を見ても、ハブをどう生み出し、スケールフリーネットワークをどうデザインするかがこれからの企業が考えるべき一つの大きな視点であると考えられる。言い換えるならば、顧客ネットワークの作り方/デザインやサプライチェーンネットワークの作り方/デザインなど多岐にわたって、スケールフリー性を意識して組み上げていくことが重要になってくるだろう。

 

次に、企業における対社内および個々人の視点での重要性についてみていく。

このスケールフリー性は上記に述べたような競争環境における優位性発揮の観点だけではなく、社内における組織ネットワーク構築の中でも一つの重要な視点になるとする研究が発表されている。昨今、変化の激しい環境下で迅速に目的を達成するために、アジャイル手法を採用する企業がますます増えているが、アジャイルチームの編成におけるメンバー選定に、まさにこのスケールフリー性の観点から見るべき大きなポイントがあるとされる。というのも、何か新しいことを始めるアジャイルチームを組織するときには、重要なポストにいわゆるスタープレーヤーを配置したいという誘惑が生じるが、一概にそれが大きな成果に繋がらないケースが散見されるのだ。一例として、開発部門のエースである人物をとある技術イノベーションの製品化プロジェクトの責任者にしたがうまくいかなかったケースが挙げられている。当初より製品化する上での研究が重要視されていたのは間違いないものの、そこにばかり注力していて営業部門と製品開発部門をないがしろにしていてうまく連携が図られなかったことが原因とされ、研究部門―製品開発部門―営業部門の3部門にネットワークを持つ別の人物をリーダーにした方がうまくいったという分析がされている。

ポイントなのは、こういうネットワークのハブとなるような人物は日常会話やSNSでのチャットなどを通じて、日ごろいろんな部門と細かくよくコミュニケーションをとっているというだけで、企業の業績に直接的な貢献をしていないケースも多く「隠れたスタープレーヤー」であるという点だ。まさにスケールフリーネットワークでいうハブとなる人物であるが、必ずしも誰もが知るスタープレーヤーと一致しない。組織をマネジメントする立場で見れば、そのような人材価値をしっかりと捕捉し適切な起用をしていくことが1つ大事な視点であるし、個人視点でいえば、そのような人材がこれからの世の中で大きな価値を認められていくとすると、そのような人材になれるように研鑽するか、もしくはそのような人材とのコネクションを作っていくことを意識することが必要になるかもしれない。

 

 上記の通り、対社外においても対社内においても、組織視点においても個人視点においてもこのスケールフリー性という観点は未来の世界の中で大きく価値を生み出していくために必要な観点であると考えられる。インフルエンサーマーケティングや両利きの経営というような様々な戦略キーワードも、その共通した本質の1つにスケールフリー性があると捉えると、多様な業界における今後の動向を見る上で新たな示唆を投げかけてくれるだろう。人財の採用や育成においても、この要素を磨いていくということが今後より求められるかもしれない。個人的にはこれから世に出る商品やサービスがそのようなネットワークを生み出しうるのか、それによって商品やサービスの成否が分かれるのかを注視し検証していきたいところだ。

 

ハッピーホーム

 

出典:

「アフターデジタル」 藤井 保文, 尾原 和啓:著

「スケールフリーネットワーク」 島田太郎, 尾原和啓:著

HBR2021.7月号

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