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人生は成長の旅デアル

 2021年の春ドラマのクールが終わりすっかり夏になった。春ドラマでは、“ドラゴン桜2”を非常に興味深く視聴した。偏差値の低い学校に弁護士の桜木が学校の立て直しにやってきて、生徒と共に東大合格を目指すというストーリーだ。特に興味を惹かれたキャラクターが、藤井という人物である。

 

 藤井は、物語の前半では、自身の弱さから東大専科(東大合格を目指すクラス)メンバーを見下し、悪態をつくなど嫌われ役ながらも、後半に進むにつれて人間的に大きく成長を遂げるのだ。幼い頃から、出来の良い二人の兄と比較され続けてきた藤井は、兄に強いコンプレックスを抱き、その兄や兄と比較した周囲を見返すために東大を目指していた。

 

 だが、共通テストで思うような点数が取れず肩を落とす藤井に、桜木は周囲を見返して東大に確実に合格するために志望学部の変更を勧めた。藤井は、桜木の申し出を一旦は受け入れるものの、「工学部でロボットを作りたい」という自分の意思を明確にし、困難な道でも自分の意思を貫くために当初志望していた学部を受けることに決めたのだった。

 

 また、東大二次試験の当日、専科のメンバーが他の受験者に試験妨害を受けていることを知った藤井は、メンバーを助けたことで右手にケガを負った。最終的に、不合格になるのだが、クライマックスのシーンで藤井は、「前の自分なら絶対助けたりしなかった。でも、助けに行けた。そういう自分になれたことが、嬉しくて、嬉しくて。」と晴れやかな表情で語った。この一回り大きくなった藤井の成長物語が、このドラマの醍醐味の一つであろう。

 

 藤井を見ているうちに、人はもがいている時に、自身が気付いていない自分に出会うことで、大きな成長につながるのではないかと思えるようになった。本コラムでは、上記について考察してみたい。

 

 心理学の世界には“自己概念”という考え方がある。自身の経験や価値観から形成されるアイデンティティのようなものだと捉えてほしい。心理学者の大家カール・ロジャースによると、人は“自己概念”を高めるには、自身が把握する“自己概念”とは“異なる自分”を認識することから始まるという。

 

 また、自身の把握する“自己概念”と“新たに把握した異なる自分”の双方が融合されることで、“自己一致”という状態に変化し、“自己概念”は高まるのだそうだ。そして、自己概念を高めることは、人間関係の構築や仕事の質の向上などあらゆる分野で応用が利き、パフォーマンスを発揮することができると言われている。

 

 実は、自己啓発本や自己啓発セミナーで紹介される内容のほとんどは、この考え方をベースに構築されたものであるといっても過言ではない。

 

 冒頭の事例をこの“自己概念”の考え方に当てはめてみよう。藤井は、東大に行かなければ周囲に認めてもらえないということに固執していた自分に気付き、ロボットを作るために東大に行くなど「自分の心に従うことを大事にする」という新たな自分を認識した。“自己概念”の考え方で言えば、自身が把握していた“自己概念”とは異なる自分を認識したということだ。

 

 さらに、新たな自分の思いを認識したことで、以前なら自身の東大合格を優先していた藤井が、自分の心に従って行動し、メンバーを助けたことで、一回り大きな人間になることができた。“自己概念”の考え方で言えば、新たに把握した自分を意識しながら行動し、自己一致の状態に至ったということだ。

 

 藤井の事例は、まさに“自己概念”を高めるステップを踏んでいたのだ。ここでは、「自身が把握していた“自己概念”とは異なる自分を認識する」ことをステップ①:「無意識の意識化」と呼び、「新たに把握した自分を意識しながら行動し、自己一致の状態に至り、その状態が無意識レベルで継続する」ことをステップ②:「意識の無意識化」と呼ぶことにする。

 

 藤井は、偶然この2つのステップを踏むことで“自己概念”を高めることに成功したが、2つのステップを意図的に踏むことができたら、自分が気付いていない自分に頻度よく出会えるようになり、“自己概念”を高める確度を引き上げることになると考える。

 

 では、“自己概念”を意図的に高めるために、ステップ①:「無意識の意識化」はどのように行えばよいだろうか。それは、自己対話や内省、もしくは第三者からの客観的なフィードバックにより、自身が見えていない自分を知ることから始めるとよい。

 

 自己対話や内省であれば、自分がどのような事象に対してどんな感情を抱くのかを日々観察する。例えば、怒りの感情が芽生えた時はどういう状態であったのか、楽しいという感情が芽生えたのはどんなシーンであったのかなどを記録し、日々振り返ることで把握できていない自分に気付きやすくなる。

 

 また、第三者からのフィードバックでは、友人から見える自分の強みや弱みなどを率直に聞いてみることやプロのコーチングを受けることをお勧めする。筆者の場合、コーチングでは、自身の強みが「会議の冒頭で口火を切ることが場を盛り上げることに貢献している」とフィードバックされて、自身が見えていない無意識な自分を意識化することができた。

 

 ただ、ここには重大な落とし穴がある。無意識下では自身の行動や価値観を縛る“アンコンシャス・バイアス”が存在している。それが、自身の「無意識の意識化」を阻害している場合があるのだ。「自分は自分のことを分かっている」といった固定概念に囚われていると、折角、気付いていなかった自分が見えても見過ごしてしまう可能性がある。

 

 “アンコンシャス・バイアス”の落とし穴にはまらないように、「自分には無意識な思い込みや偏見があるという前提をもっておく」ことや「自分が思い描いている“自己概念”は、環境や他人に影響された”自己概念“であるかもしれないと思う」ことなどが、ステップ①の「無意識の意識化」を確実なものとし、ステップ②に移行することができる。

 

 続いて、ステップ②:「意識の無意識化」はどのように行えばよいだろうか。これは、ステップ①で新たに把握した自分を明確に意識して日々を過ごし、その状態が無意識になるまで継続することである。

 

 先ほどの筆者の事例で言えば、「会議では必ず口火を切ることを意識して、考えなくてもできるように習慣化する」といった具合だ。家族や友人とのコミュニケーションや新聞や書籍を見る際など、日常生活の中で意識して行動してみることも無意識レベルに到達しやすくなる。

 

 そして、2つのステップは1度実施したら終わりというものではない。PDCAサイクルを何度も回し改善を積み重ねていくように、このステップを繰り返し循環させることで、“自己概念”を高め続けることができる。

 

 これまで見てきたように、“自己概念”を高めて成長し続けていくには、“アンコンシャス・バイアス”に囚われずに、自身が気付いていない自分に出会う「無意識の意識化」と、新たに出会った自分を元の自分と融合させた「意識の無意識化」という2ステップを双循環で回していくことが重要なのである。

 

 これは、読者が何かしら成長に伸び悩んでいるのであれば、是非とも実践してもらいたい。日々努力しているにも関わらず、成長が伸び悩むのは、努力の仕方が間違っている場合もあるが、自身を縛り付ける“アンコンシャス・バイアス”が要因である可能性が高い。

 

 例えば、“今の仕事でずっとやっていくつもりはないから、活躍できなくてもよい”とか、“このくらいの給料しかもらっていないから、この程度の仕事をしておけば十分だ”という考えは、自身の行動を正当化するバイアスがかかっているかもしれない。しかし、そのバイアスを作っているのが他ならぬ自分自身であるということに気がつけば、伸び悩んでいる成長曲線はきっと上向くはずだ。

 

 教育学者であり哲学者のジョン・デューイは、「幸福な人とは、成長している人である。また、不幸な人とは、いかなる原因が背景にあれ、成長が止まった人である。」と述べている。人生は死ぬまで成長の旅デアル。新たな自分に出会い続けることで、どんな体験も糧にして前向きな人生を送ろうではないか。

 

                            自戒の念も込めて U2

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