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『人生は選択の連続である?』

 先日、私の友人が占いへ行ったそうだ。彼女は、友人の「予約が1か月待ちの人気占い師に占ってもらったところ、恋愛も仕事も占いの結果通りになった」という話を聞き、早速同じ占い師を予約し、相談時間1時間で1万5000円支払ったという。彼女が最も気になることは恋愛に関することだったようで、次の恋愛相手の特徴である年齢や職業とその男性に出会うタイミングについて聞いたらしい。その後、そのタイミングに向けて一生懸命自分磨きをし始め、運命の相手に出会える時を今か今かと待ち構えているのだ。私も別の友人と占いに行ったことはあるが、予約などはせずその場で占ってもらい、20分2000円で終了だった。私の場合は、エンターテイメントとして行ったので、その日に言われた今後に関する占いに対して、ワクワクしたり、何か行動に移したりするわけではなかった。占い師に告げられた運命の相手に出会うため自分磨きをし始めた彼女と、何も変わらず通常通りの日常を過ごす私では、何が違うのか。

 私とは違い、私の友人は占いの結果が一種の外発的動機付けになり、「次の恋愛相手に出会うために自分磨きをする」という行動へつながっている。このことからも当たり前のようではあるが「占いを信じやすい人」は「占いによって行動を変える」可能性が高いといえる。では、なぜそのような人たちは「占いによって行動を変える」というような意思決定が行われるのだろうか。

 

 『人生は選択の連続である』、これはシェイクスピアの言葉だ。食事のタイミングで今日は何を食べるのか、外出のタイミングで今日はどんな服を着るのか、就職先をどこにするのか、どこに住むか、次の仕事のアクションは何か、など、日々細かくて気が付かないことでも、無意識のうちに自分の行動をいくつかの選択肢から選択して決定しているのだ。

 人間は自分自身の行動をどのように意思決定しているのだろうか。自分がこれから何をするか決める時の思考を思い出してほしい。無意識のうちに他の選択肢と比較して、与えられた状況を勘案し、最善だと思える行動を選んでいるのではないか。必ずしも毎度毎度比較するわけではないだろうが、意識無意識の差はあれ、より良いと思える行動を選択しているだろう。比較検討し決定しているということは、脳による判断が介在していることに疑いの余地はない。実際に、何かしらの報酬が期待・予測されるときには、ある特定の神経細胞分野が活発に活動しているという実験結果もある。

 ただ、人間は必ずしも合理的に行動するわけではない。例えば、「Aの商品よりもBの商品の方が高いが応援している企業なのでBを購入する」という場合もあるだろう。このように、意思決定の際に、「感情」や「状況」、「他者の存在」や「他者の行動」に左右されることがある。(※)

 人間が行動する際に、感情や直感を重視することを念頭に置き、人間の動きを知るために個人の理解が必要として、心理学を参考に分析方法を深め、経済理論を発展させたもので行動経済学というものがある。

 行動経済学の中には、ナッジ(nudge:そっと後押しする)という一つの概念がある。人間を分析し、ヒジを軽くつつくような小さなアプローチによってある方向へそっと誘導することができる。ナッジは「人の思考のクセを利用した選択肢の提示方法」である。人の思考のクセは大きく以下の3つのタイプがある。(※)

①    「限定合理性」:できる限り、簡便な問題解決方法を用いて満足できる選択肢を発見しようとする

②    「限定自制心」:リスクについては過大評価し、時間については待つことを嫌う

③    「限定利己心」:自身の利益を犠牲にしたり、周りと違う意見・姿勢を貫いたりすることを難しく感じる

 これらを利用したナッジ理論の例として「臓器提供の意思表示」がある。日本では、自分が死んだ後に心臓や腎臓などの臓器を提供するという意思表示をしている人は12.7%である。ドイツや英国は日本と同様にあまり数字が高くないが、フランス、オーストラリアなどは99%を超えている。この違いは、臓器提供の意思の確認の方法にある。日本など臓器提供の意思表示をしている人の割合が低い国は、「オプトイン方式」といい、臓器提供に同意する人にのみ意思表示をしてもらう。それに対し、割合が高い国は「オプトアウト方式」といい、臓器提供に同意しない人にのみ意思表示をしてもらう方式を取っている。

 人間は一般的に現状を変えることに抵抗があり、大きなパワーを必要とするので、それを避けようとすることを利用し、無意識のうちに誘導しているのである(※)。また、別のナッジの例では、レジの前の足跡マークがある。これによって人間は無意識のうちに適切な並び位置に誘導されている。特に現在は新型コロナの影響により、ソーシャルディスタンスを保つため、足跡マークや立ち位置が足元に書かれている店舗が増えている。「ソーシャルディスタンスを保ちましょう」と言葉で示すよりも、無意識のうちに訴えかけて誘導するほうが効果的な場合が多いのである。

 

 このように、人間が行動する時には、自分で選択しているパターンと無意識のうちに誘導されているパターンがある。冒頭の、占いの結果で「自分磨きをしよう」と動いた私の友人は、自分で選択し意識的に自分磨きを始めたと思っているようだが、もしかしたら無意識のうちに占い師から影響を受け、「次の恋愛相手に出会うためには自分磨きが効果的」と占い師に刷り込まれていた可能性も否定できない。占いを終えた帰り道でみかけたエステや美容外科の広告を、いつもよりも注視し、無意識のうちに手に持っているスマホでカウンセリングの予約を入れていたかもしれない。これはまさに、意思決定の際に「合理的な判断」より「他者の存在」に左右された例と言えるだろう。

 

 冒頭に私と私の友人では何が違うのかといったが、それは意思決定の際の思考における大きな差異であり、占いを信じやすい人は、意思決定の際に「感情」や「状況」、「他者の存在」や「他者の行動」などに左右されやすい可能性が高く、占いのような信じられる他者による薫陶が外発的動機付けになりやすい。

 「ナッジ」や「占いによる薫陶」はマネジメントにも応用できるかもしれない。例えば、部下に残業時間を減らして欲しいとする。その際、「あなたの残業時間は1日4時間です」と言われた部下と「あなたの残業時間は社員全体の70%より長いです」と言われた部下では、後者の方が残業時間を減らす確率が高いだろう。これは「ナッジ」を利用した例だ。一般的に人が育つ要素として「職務経験:7割、薫陶:2割、研修:1割」といわれているので、占いが「信じられる他者による薫陶」だとすれば、「あなたは残業を2時間減らすことで、プライベートも充実させることができ、仕事の能率もあがるでしょう」という結果が出れば、残業時間を減らし業務効率アップするかもしれない。

 特に「他者の存在」に影響されやすい人には、「占い」のような薫陶の新しい形でのコミュニケーションも部下の行動変容を促すために有効なのかもしれない・・・。

 

雪うさぎ

 

(※)意思決定の科学と新たな人間観

http://rci.nanzan-u.ac.jp/ISE/ja/publication/se30/30-13suzuki.pdf

(※)【ノーベル賞を受賞】「ナッジ理論」を用いて「自発的に」人のパフォーマンスを上げる方法とは?

https://blog.wistant.com/library/1048

(※)ナッジ理論とは何か?

https://www.jsda.or.jp/gakusyu/edu/web_curriculum/images/mailmagazine/Vol.176_20210624.pdf

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