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自動車営業の未来はどうなる?

 自動車ディーラーの営業の業務は平日に顧客とのアポイントを取り、週末に来店した顧客に対して顧客の情報収集や新車の提案を行うように、1週間単位で組み立てられる。週末は、新規顧客が来店するので、その対応を行い、閉店後は翌来週末へ向けてのアポ取りや書類作成に追われ1日の業務があっという間に終わってしまう。 

 

 営業成績を上げるためには、特に週末の来店顧客への対応が重要になるのだが、来店顧客の購買行動はここ数年で少しずつ変わってきている。以前は、自動車の情報収集、試乗、見積もり取得が主な来店目的で、毎週末には多くの顧客で店内は混雑していた。しかし、昨年のコロナウイルス流行で、来店する顧客が減少し、また来店される顧客のほとんどが、事前にネットによるYouTubeやSNSを使って情報収集をしているケースが多くなっている。その為、顧客も従来と違って来店時にはすでに購買意欲が高い状態で来店することが多く、商談のペースも早くなっていた。 

 

 来店顧客とのやりとりや商談では、顧客の疑問に対して、いかにわかりやすく伝えるかが、営業メンバーの重要な能力の一つである。そのようなやり取りによって、顧客との信頼関係を築き、購買につなげていくことになるのだが、顧客が事前に情報収集するようになったことで、顧客からの来店時の質問は激減し、いままで重要視されてきた営業メンバーの能力発揮機会は大きく失われつつある。ちなみに、本趣旨とは少し意を異なるが、自動車販売の拠点である、ディーラーの位置づけも見直さざるを得ない状況になりつつある。 

 

 ECの加速により、ECでの購入経路が拡充され続け、ネットには情報があふれている。 

 フォレスター・リサーチ社の調査によると、「購入商品が決まっている場合は、営業担当者から購入するより、ネットで購入する方が便利」との回答が約75%、「既に買うものが決まっている場合はネットで購入する」との回答が約93%という結果が出ている。 

 ECでの購入単価は、ECの信頼度があがるにつれて(信用度やサービスレベルが低いECは淘汰される)少しずつ上昇し、今ではかなりの高額商品を購入するような意向を表す顧客も増えてきている。 昨年のコロナウイルス流行以降、ECでの高額商品購入者が増加している要因として、店舗へ来店することで、人との接触を減らすほか、店舗に向かう時間コストを削減できることが挙げられる。 

 株式会社マクロミルの調査によると、EC市場全体の傾向として、購入者当たりの利用金額が2020年10月~12月に55,575円と大きく上昇した。(2020年3月∼5月の利用金額が39,682円) 

 また、調査結果から顧客が高価だと感じる商品をECで購入することへの抵抗感が薄れてきていることが分かった。実物を手に取って確認できないECにおいて、家電・インテリア・オーディオ・高級グルメといった、おうち時間を豊かにする目的でECを利用したケースが増えている。 

 

 では、自動車も例外ではないのだろうか。自動車の販売方法は、自動車の普及期から50年以上経った現在でもあまり大きく変わっていない。 

 自動車メーカーが、開発・製造した完成車を、傘下の販売会社(ディーラー)に卸し、ディーラーを介して顧客に自動車を届けることになる。自動車メーカーが直接顧客に販売しないモデルは、自動車会社が完成車在庫を抱えることなく収益を上げることができる。ディーラーはメーカーから仕入れた自動車を数多く販売することで、メーカーから奨励金をもらい、それが収益の柱となっている。 

 ディーラーは一台でも多くの自動車を販売するために、対面営業を強化し営業メンバーの拡充と教育に多くの時間とコストをかけてきた。国内の自動車営業は、 

「資料作成送付」→「アポイント取り」→「商談」→「クロージング」→「成約」→「納車書類作成」→「納車対応等」のようなプロセスが基本となっている。 

 

 だが、このプロセスの中で営業メンバーが時間を費やす活動はアメリカの自動車販売営業とは大きく異なっている。特に顕著なのは、日本の営業は顧客との接客対応の前後での、資料作成、事務処理にかける時間が長く、勤務時間は全体3割程度にとどまっている。一方、アメリカの営業は接客に5割程度の時間を費やしているのである。 

 

この差は、テクノロジーによって生じている。アメリカの営業には以下のテクノロジー(セールステックツール)が多く利用されている。 

・MA(マーケティングオートメーション) 

マーケティング業務の一部を自動化するシステム 

・SFA(セールスフォースオートメーション) 

商談管理や活動管理といった営業活動の一部を自動化するシステム 

・CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント) 

カスタマーサポートやアフターサービスの一部を自動化するシステム 

 これらのセールステックツールを駆使し、営業プロセスを管理している。営業の各プロセスにおいて、人が関わる部分を最小限にすることで、顧客に対する時間を作ることができる。 

 日本でセールステックツールが浸透しない理由の一つとして、企業側のITリテラシーの低さが挙げられている。また、営業現場のオペレーションを変更しなければならない場合、現場側で導入準備をする工数を負担と感じ、ITツールの導入時に明確に現場にメリットが提示されないと導入に繋がらない。 

 このように、アメリカでは営業メンバーの活動のほとんどをセールステックツールに代用させることを目指し、今後のAIやデジタルの進化と顧客のマインド変化も見据えて、自動車営業の無人化をも視野にいれている。 

 

 すでに自動車営業の無人化を進めているのが、自動車メーカーのテスラだ。テスラは最新の電気自動車メーカーとして2003年に創立されたが、いまや企業価値としてはトヨタを上回り、世界シェア7位にまで成長している。 

 テスラは自動車を効率的に顧客に提供するために、自動車の販売を(一部を除き)ネットで行っている。その為、顧客との窓口になるディーラーが存在せず、メーカー直販が基本になるので、ディーラーの人件費や奨励金が不要になり、その分を顧客に価格で還元することができる。 

 

 そして、テスラは最新のEVシステムによる、圧倒的な感動体験を顧客が経験することで熱心なファンを今まで増やしてきた。このファンにとっては既に、営業メンバーによるサポートはないことが前提となっている。トヨタなどの従来のメーカーから自動車を購入している顧客にとっては営業メンバーによるサポートは常態化しているため、新興企業として差別化したモデルとも考えられる。そして、圧倒的な感動体験をした顧客は、押し売りされることなく、自らテスラの情報を獲得し、SNSを通じて口コミが拡散されることで、新たなファンが増える宣伝活動となり、更なる発展をしている。 

 

 日本でも、ホンダが新車のネット販売を始める。狙いとしては、コロナ禍で対面での活動を避けたいということもあるだろうが、顧客の購買行動変化から、ネット販売でも十分に顧客を獲得できるという確信と、人手を介する販売モデルやディーラーを介した自動車流通モデルを革新する時期に来ていることを見据えているのではないか?ネット販売を前提にモデルを作り上げているテスラに対抗するためには、ディーラーを介した販売網ではコスト面で勝ち目がない。 

 この動きが更に他の国産車ディーラーに広がれば、ディーラーの存在意義が「車を購入する場所」から「車を受け取る場所」「車をメンテナンスする場所」に変わることになり、ライバルは町の修理工場になる。店舗網の再編と再構築、サービス内容や提供方法も大きく変わることになるだろうが、いずれにしても現在の規模は不要だろう。 

  

 それでは、これからの営業として働いている従業員はどうなるか。ホンダのネット販売が成功すれば、他社も追随することは間違いない。 

 一方で、訪問して営業のサービスを受けたいという需要が一定数存在することも事実である。そういった顧客に対して、満足する最高のパフォーマンスを発揮することで、ネットで購入するというある意味無機質な購入体験ではなく、営業の丁寧な対応と、顧客のニーズを把握したうえで、人間味のある提案をしていくことがより一層求められるのではないか。また、高価な買い物をしたという特別感を演出することで、「営業」というサービスが受け入れる土壌は残っていく。既に高級車ディーラーでは、高級ホテルのラウンジ以上のファシリティを備えたVIPルームでの商談や、納車時に花束を渡し、納車式を取り行うなど、高級車ならではの満足感を演出するように工夫している。「すべてが高級」という満足感をも買いたいというニーズにマッチさせ、その相応の対価をも負担してもらうことで成立する。営業メンバーの丁寧な接客やサービスを欲しいと思う顧客は、お金を出して買う(販売価格が若干高くなる)という時代になることが想像できる。 

 営業メンバーが顧客に高品質の「営業」を提供するのは、営業メンバーが顧客情報を詳細に収集・管理しているポジションであり、顧客にとっても営業メンバーが窓口であるからだ。営業メンバーは今後も顧客との接点を切らさず、徹底した高品質な「営業」を提供し続け、自動車メーカー・営業メンバーのファンを継続させることが、営業メンバーにとっての大きなチャンスになる。  

 そのためには、営業メンバーによる営業活動も変化する。営業メンバーは更なる、高品質の「営業」を提供するためにセールステックツールの利用を浸透させ、顧客情報をテクノロジーで管理する。よって高品質な「営業」を提供するための時間を作り出し、その結果、営業メンバーはお金を出してでも欲しいと思ってもらえるサービスを顧客に提供することができる。 

 そして更なるレベルを追求し、その腕を徹底して磨いていくことが、セールステックツールに営業としての価値のすべてを乗っ取られないための対抗できる付加価値となりうる。営業メンバーが、自動車販売に専念するという流れは消え、多くのお客様にサービスを提供する新しい「営業」としての役割を担う。デジタルの時代だからこそ、アナログともいえる温かみのある接客やサービスを求める顧客もまた存在し続けるだろう。 

 自動車ディーラーは、今後ECが加速すると、サービスを不要とする顧客にとっては、「車を受け取る場所」「車をメンテナンスする場所」となる。ただ、「営業」の高付加価値を求める顧客が存在する限りは、営業メンバーは営業活動を行う場所として使うことは変わらず、ハイブリットな役割を担い、存在し続けるだろう。 

 今後、街中にある自動車ディーラーが、デジタル部分を進めながらも、既存顧客にとって抵抗感のない、アナログ部分を残した新しい店舗運営へ変化していくことを想像しながら今後の動向を着目したい。 

 

トーイック 

 

参照 

コロナで変わるネットショッピング~利用世帯が初の50%超え | JP - Criteo.com 

https://www.criteo.com/jp/blog/ 

ホンダ 新車のオンライン販売へ 日本の自動車メーカーで国内初 | 新型コロナ 経済影響 | NHKニュース 

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210920/k10013267991000.html 

 

書籍:「営業はいらない」 著者,三戸政和 

 

2020 年 EC 市場分析から見えた利用拡大のヒント:カギは「3 つの生活者トレンド」「ミドル昇格層の不安解消」 - Think with Google 

https://www.thinkwithgoogle.com/intl/ja-jp/marketing-strategies/data-and-measurement/2020-ecmarket-analysis/ 

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