世界の医療関係者らは、2022年に新型コロナウイルス感染症を沈静化させることができると予想する。その理由の1つは、従来と製造方法が全く異なるmRNAワクチンの認可にかかるスピードが速くなったことと製品の世界への供給と摂取が行き届くことにある。ワクチン製造法が変わった事により、得られる結果が変わったとするなら、私たちは未知のウイルスとの戦い方を変える事に成功したと言えるのかもしれない。新型コロナウイルスの感染によって多くの方が亡くなった事は誠に残念である。その一方で、mRNAワクチンによって助けられる命の数も想像しなくてはならない。今回のパンデミックを契機に、医学・医療の進歩は、いったいどこまで進んでいるのだろう?革新的な技術や未来の治療法について、デスクリサーチをベースに関心を寄せてみた。
脳への新しいアプローチ
脳に電極を埋め込み、脳と脊椎の問題を解決することに投資すると、テスラ経営者イーロン・マスク氏が発表した。この電極は、幅23㎜、厚さ8㎜である。これを脳に埋め込む事で様々な治療に役立つと考えている。SF映画の中ではよく出てくる話だ。イーロン・マスク氏が想定するのは、脳内のあらゆる情報を取り込んだ上で、それらのデータを解析するアルゴリズムを設計し、脳内データにもとづくAI診断プログラムへの応用である。更には、脳でイメージした画像をそのまま送信することも研究の対象になっている。実は日本でも脳に電極を埋め込む術式による治療法が既に存在していた。「聴性脳幹インプラント」というもので、外から入ってきた音に対し、電極内の電気刺激を周波数に変え、即ち「音」に変えるものだ 。治療目的は、聴覚障害による、音がこえない人を治療するもので、電極を利用した診断や治療法が根本的に変わっていく未来が見え始めている。
新しい癌の診断と治療
癌診断に関しては、遺伝子検査で癌リスクをある程度知る事ができることはよく知られている。また、画像診断では医師よりもAIの方が癌を見つける能力に長けており、現場の診断では積極的に活用されるようになった。そんな中、最近注目されている肝臓がんの新しい診断法がある。具体的には、肝臓癌に有効な検査薬を使用するもので、この検査薬の特徴は、癌がもつ特有のたんぱく質と結合させることで蛍光を発するという造影剤だ。
既にこの造影剤を活かし「蛍光ガイド手術」といった術式が確立している。同術式では、まず造影剤を投与し癌に集め、蛍光を発色させるための近赤外光をあてる。すると、癌だけが蛍光発色するため確実に癌細胞を捉えることができ、正確に癌細胞を切除することが可能になるというものだ。
他の癌治療法はどうだろう。最も画期的な治療法として注目されているのは、「光免疫療法」だ。この治療法は、アメリカ国立がん研究所において日本人主任研究員である小林医師によって発明された治療法である。「光免疫療法」の仕組みの概略はこうだ。
まず癌細胞と結合するある抗体に、「近赤外光」で反応する化学物質(小林医師によって発案された物質)を配合する。この抗体は血管を通って選定した癌細胞にだけに集まり、癌細胞に抗体と共に化学物質が結合する。そこに「近赤外光」を当てると癌細胞の皮膜に傷が入り、患者の体内の水分を吸収し膨張する。そうすることで癌細胞が破裂する。それだけではなく、破裂した癌細胞のたんぱく質やDNAが体内に放出されると同時に、免疫細胞はその情報を記憶し癌に対する防御力が備わるという全く新しい治療法である。
現在、「光免疫療法」は、国内では頭頸部癌にのみ条件付き認可がなされ、国立がん研究センターで治療が始まっている。中でも、 従来型の頭頸部癌の治療は全て終え、治療の結果がおもわしくなかったある患者Aの治療例には驚かされた。
「光免疫療法」による治療を患者Aに施したところ、1か月後に治療した部位の癌が完全消滅という結果が出た。全く新しい治療が奏効したのだ。
企業家の視線
脳科学の電極利用と同じく、「光免疫療法」にも企業家が投資していた。楽天の経営者三木谷氏である。ご尊父様の癌治療法を探していた際に「光免疫療法」の情報に遭遇し、極めてイノベーティブな治療法に私費を投じたという。イーロン・マスク氏とは投資の動機は違うが、企業家として投資に値する価値=イノベーションを見出したのだろう。「光免疫療法」の第一人者の小林医師が言うには、抗体が癌細胞にくっつきさえすれば、必ず癌細胞を消滅させられるという。
つまり、抗体の種類を増やして光でスイッチを入れる事ができれば、あらゆる癌細胞への適用範囲を広げることが期待できる訳だ。抗体の種類を増やすための研究は、新しい癌治療の未来を切り開く可能性があり、自ずと期待が高まる。
「光免疫療法」の重要な成功要因は、遺伝子技術の進歩によって生み出された2つの薬剤が鍵を握っていることがわかった。 1つは「分子標的薬」、もう1つは「免疫チェックポイント阻害剤」である。「分子標的薬」は、癌細胞の発生や増殖に関わる特定の分子を攻撃するもので、正常な細胞へのダメージが少ないのが特徴だ。「免疫チェックポイント阻害剤」は、癌細胞を攻撃することを忘れた体内の免疫細胞に再度攻撃すべきターゲットを思い出させることを促進させる薬である。(癌細胞は体内の免疫に自分は攻撃対象ではないという信号を出す事で、免疫の攻撃を避ける能力を持っている)
何れにしても、これまでにない技術が生み出す価値に対する起業家の視線は熱い。将来これらの技術が生み出す経済的価値の大きさは想像に難くない。
まだまだ、調べていくと新たな診断法や治療法が多数ある。オーダーメイド医療、iPS細胞を活用した損傷部位の再生等への期待も大きい。身の回りに溢れた情報を少し調べただけでも私たちの未来が科学技術の進歩で大きく変わることは間違いない。
日々新たな研究成果がもたらされ、これまでにない速さで病の診断と治療に採用されている。診断と治療の前提が変われば、日本人の死因が癌ではなくなる日も近い。そうなれば、いよいよ人生100年時代の到来だ。平均寿命が100歳になれば、ビジネスパーソンとして70歳で定年を迎えたとしても、30年間の平均余命を残す。残された30年間=ラスト30をいかに生きるかは、まさに今起きている未来の課題である。
人生100年時代をどうつくる
人生100年時代、ラスト30年の人生設計に考える課題は多い。経済的自立、健康維持・増進、終の棲家の選択、地域社会とのつながり、財産相続等・・・。
高齢者になってから考えるのは難しい。可能であれば60歳前後で、一度考える機会があると望ましいのではないか。現在、これらの多様な課題も含め、当事者に代わって考えるようなサービスは見当たらない。当然のことながら未来の長寿社会に対し、国も行政もまだまだ準備が整わない。三井物産が4億人の医療データを梃に創薬支援や健康管理に投資をしていることが、つい先日の日本経済新聞の記事で明らかにされたように、迅速な動き を見せるのは、起業家や、個人の医療情報を含むビッグデータを持つ企業となるだろう。
診断と治療のあたらいしい技術への投資が進み、企業が先んじて個人の健康管理に資するビッグデータ活用が進めば、人生100年時代のリアリティは急速に近づく。
これからやってくる長寿社会は、より多くの人が幸せになれるサービスが整っていくはずだ。
これまで高齢化社会はネガティブな面にばかり注目されてきたが、幸せな長寿社会づくりという捉え方に変えられることを期待したい。
60歳は厄年だと言われるが、その先の厄年はない。人生100年時代なら、その先の厄年があってもいい。どうせなら、厄年ではなく、ラスト30年の新しい役目を考えるための「役年」としてもいい。寿命が延びると、新しいモノゴトが生まれるのもまた事実だが、経済的価値だけでなく文化的な新しい価値も考えていくことで、豊かな社会をつくってみたい。
以上
Blue turtle
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