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舞台演劇の未来

 コロナの影響がまだ色濃く残る昨今、皆さんは余暇をどのように過ごしているだろうか。私は、緊急事態宣言の解除を受け、久しぶりに劇団新感線の「狐晴明九尾狩」の舞台を観に行く機会があり、舞台演劇の非日常感・ライブ感に大いに刺激を受けることができた。私自身、社会人劇団に所属し小劇場の舞台に立たせてもらっているが、日ごろから小劇場の舞台演劇には問題があると感じてきたので、今回の観劇をきっかけに今後舞台演劇というのはどういうものになっていくのだろうとふと想いを馳せてみた。

 私が感じている問題は、数多くの劇団が無名のまま消えている現実であり、企業においても多様性というのが価値を高める通説が謳われる中で、このままでは演劇の多様性が喪失していく、ひいては演劇という芸術が衰退していくのではないかということである。なぜ数多くの劇団が無名のまま消えていくのか。それは、単純に儲からないからだといえる。下積みの役者は貧乏人が多いというのは皆さんもどこかで聞いたことがある、もしくは身近にいらっしゃるのではないかと思う。立ち上げメンバーの熱意を支えに活動を続けている劇団は数多くあると思うが、やはり収益が上げられなければ継続して活動をしていくのは厳しい。実際、無名劇団の小劇場舞台というのは、お客様も役者仲間や直接の友達などのいわゆる身内に支えられているケースが散見される。

 では、どうやってこの状況を打開すればいいのか。これからの激しい市場変化で生き抜くためのキーワードとして多くの企業でも語られているようないくつかの視点から今後の舞台演劇復活の道を仮説的に考えてみたい。

 

1.DXの実現

 舞台演劇の進化と舞台技術の進化は切っても切り離せない関係がある。古くはシェイクスピアや近松門左衛門が現役の時代まで遡ると、当時の舞台は太陽の光がないと上演自体が成り立たなかったため、日中の公演に限られていた。これは白熱電球の発明によって大きく進化を遂げ夜間公演が可能となる。その後、せり上がりなどの舞台装置の進化、最近でいえば音響照明技術や映像技術の進化でより迫力あるもの、より表現の深いものに進化を遂げることができた。では、今後はどのような技術進化と舞台演劇が融合されていくのだろうか。映画でも4DXなど体感型コンテンツに進化を遂げており、そのようなものはすぐ舞台演劇にも入ってくるだろう。だが、冒頭で述べた顧客を増やし売上を増やすことで活動の継続性を高める上では、特にDXというキーワードは避けて通れないのではないのだろうか。つまり、デジタルを前提とした観劇スキームを組み上げることは顧客数を増やすうえでも一顧客当たりの観劇機会を増やすうえでもとても重要になるだろう。幸いにもコロナ禍でZoomなどのオンラインツールの活用が進み、Webを経由したコミュニケーションに多くの人が慣れてきた。これまでオフラインでかつ、まとまった時間でしか楽しめなかった小劇場の舞台は、オンラインかつ隙間時間でも楽しめる内容にしていくことがベースになるかもしれない。しかしそこに至るには一つ大きな壁がある。それは他の映像コンテンツなどのエンタメと大きな差別化要因であった舞台演劇だからこそのリアル感・ライブ感をどう担保するかという壁だ。東京オリンピックのライブ観戦などでも活用が検討されていたVRや触覚デバイスなどの進化がどれほどこの点を後押しするのか注目していきたい。

 

2.プロセスエコノミーへのシフト

 まず、プロセスエコノミーとは何かについて説明したい。最近書籍等も出始めたが、アウトプットエコノミーと対比する概念として語られている。どういうことかというと、アウトプット、つまり“成果物”や“完成形”に価値を見出してもらい収益を上げるモデルがアウトプットエコノミーなのに対し、その“過程”“プロセス”“物語”に価値を見出してもらい収益を上げるモデルがプロセスエコノミーである。メーカーが作るいわゆる“良いモノ”がすぐにコモディティ化してしまう時代においては、完成形で差別化するのではなくその過程で儲ける形がよいという概念である。例えば、AKBに代表されるようなアイドルの“推し”などは成長する“過程”を楽しみ、その“過程”にお金を払っておりプロセスエコノミーの考え方にのっとったビジネスといえる。このプロセスエコノミーという考え方は舞台演劇と非常に相性が良いのではないか。舞台演劇でお金がうまく回らない(儲からない)のは、“完成形”が生み出されるまでにコストがかかりすぎているという点がある。舞台ができあがるまでには、脚本の製作期間、キャストを集める期間、稽古期間など長くの時間と多くの費用がかかる一方で、実際にパフォーマンスしお客様がお金を払うのは数回の舞台に対してのみである。映画に比べて舞台演劇の観劇料が割高に設定されているのはこれによるところが大きい。この準備期間でうまくお金を稼ぎ、むしろ成果物は安く観られる仕組みに変えることで経済面において悩まされている数多くの無名劇団は生き残れるのではないだろうか。例えば、主役のキャラクター設定やセリフ枠を事前に募集・販売し、採用されたものでストーリーを組み立てるなどが考えられる。(イメージとしては、**を寄付した際に寄付支援者の名前が**に掘られます、というような自分のアイデアが採用されるスキームである)芸術分野なのでプロ意識の高さゆえに一部の才ある人たちで作り上げるものだという常識からは抵抗感のあるアイデアであるし、ネタバレ禁止といった常識をも覆すことになるが、そういうパラダイムシフトで舞台演劇の未来は大きく変わるかもしれない。王道=正解という時代は終わりを告げているのではないだろうか。

 

3.SDGsへの対応

 ニューノーマル時代の新たな資本主義を形成する指標としてドーナツエコノミーと呼ばれる指標が登場し、世界における豊かさの考え方が大きく変わっている。その目標としてSDGsが唱えられて久しいが、多くの企業がこの取組に対する評価の影響を受けることとなり、市場の一般消費者も次第にこの意識が浸透してきているといわれている。では舞台演劇においてもこの考え方を踏襲しているかどうかが顧客を集められるかどうかの評価軸になるかもしれない。例えば、リサイクル材の使用や廃棄のでない舞台大道具の活用、紙媒体の廃止、すべての人が楽しめるバリアフリーな舞台、などが考えらえる。

 

 以上、いくつか勝手に妄想し、仮説を述べてみたが、上記に述べたような内容については、すでにいくつかの事例が実現されてきているようだ。一舞台演劇ファンとして、これからも舞台演劇の行く末を自身も足を運び楽しみながら見守っていきたい。

 

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