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先延ばし活用術

 皆さんも日常の中で「明日やろう」「あとでやろう」といった考えに囚われた経験はないでしょうか?目の前のタスクを後回しにすることは、一時的に楽に感じるかもしれませんが、その結果、後から追い詰められる状況に陥ることも少なくありません。これらはビジネスマンに限らず、多くの人に共通する問題として挙げられます。

 しかし、先延ばしすることに対し、過度に自責の念を感じる必要はありません。無理に全てのタスクを実施することでキャパシティを超えると、能率が悪くなる他、トラブルに繋がる場合もあります。よって、先延ばしのメカニズムをしっかり理解をし、戦略的に活用することができれば、仕事の生産性向上に繋がると考えます。今回は、先延ばしの根本的な原因を探り、上手く活用する方法を考えてみましょう。

 

 先延ばしの経験がある人は「なぜ自分はこんなにも先延ばしをしてしまうのか?」と疑問に感じたことがあるでしょう。様々な原因が考えられますが、その多くは「油断」と「不安」によるものです。

 -油断の例:お客様への納品に向けたタスクが溜まっているが、納期まで1ヶ月あるし大丈夫だろう

 -不安の例:先輩・上司に報連相すべきことがあるが、指摘されることが怖いので一旦話さないでおこう

 上記の様に、人間は見通しやすい短期的に得られる報酬には敏感に反応しやすく、見通しづらい長期的な目標達成に向けたモチベーション維持が難しい傾向にあります。このような事例に関して、アメリカの作家であるティム・アーバン氏がTED Talksで提唱した「合理的意思決定者」と「インスタント・グラティフィケーション・モンキー(すぐに得られる満足へ誘惑する猿)」というキャラクターを用いた理論[1]があります。

 合理的意思決定者は、未来を見据えた行動を促し、長期的な利益を考えます。一方、インスタント・グラティフィケーション・モンキーは、目の前の快楽や短期的な報酬に飛びつき、長期的な利益から目を遠ざける傾向があります。この2者が頭の中でせめぎ合うことが、私たちの先延ばしの根源にあると考えます。

 

 では、実際に先延ばしをしている人はどの程度いるのでしょうか。アメリカの心理学教授であるジョセフ・フェラーリ氏によると、成人の20%以上が慢性的な先延ばしを認めており[2]、上海交通大学が実施した調査によると、中国の大学生の85.9%が「先延ばし癖」の状態であったことが判明しています。このような慢性的な先延ばしは様々な場面で影響を及ぼします[3]。特に仕事面では、創造性を求められる職業や自由度の高い職場環境は自己管理が重要になるため、先延ばしが大きな問題となりやすい傾向があります。

 また、大分県立看護科学大学の調査によると、先延ばしをする人はストレスレベルが高く、自己評価が低い傾向にあります[4]。仕事や学業のパフォーマンスにおいても、先延ばしをしない人に比べて低い成果を上げる傾向にあるという結果もあります。このような状況を考えると、先延ばしは単なる時間管理の問題ではなく、自己効力感やモチベーションの維持といった心理的な側面が深く関わっていると考えます。

 

 上記の様に、先延ばしに対して悩んでいる人もいると思います。この悩みを解決するためには、先延ばしが「一種の心理的な逃避」であることの理解が重要です。目の前のタスクが大きすぎることや、難易度が高すぎる場合、私たちは無意識のうちに恐怖や不安を感じ、先延ばしという形で逃げようとします。これらを理解して対策を講じることで、先延ばしを上手く活用することが可能です。対策方法は多岐に渡りますが、以下にいくつかの例をお伝えします。

 

その1.タスクをステップに分ける

 大きなタスクがあった場合「やるべきことが多すぎて、どこから始めればいいかわからない」という状況に陥る場足があります。そこで、複数の小さなステップに分解することで、少しずつでも前進することで自己効力感を高めながら、取り組み易くすることが可能です。

 

その2. 締め切りを設ける

 ティム・アーバン氏の提唱には、もう一つのキャラクター「パニックモンスター」がいます。彼は、先延ばしタスクの締め切りが迫ってくると目を覚まし、過剰なまでに騒ぎ立てて焦らせてくれる役割をもっています。彼が目を覚ますことで心理的に負担がかかる側面もありますが、タスクを前進させるためには必要であるとも考えます。よって、先延ばしをしやすいタスクには、複数のマイルストーンを設定することや、余裕を持って締め切りを設けることが有効です。その際、周囲に締め切りを宣言することで、より強制力を持たせることができます。

 

その3. 環境を整える

 作業に集中しやすい環境を整えることも、先延ばしを防ぐための一つの方法です。例えば、誘惑を排除することです。上記で伝えた中国の大学生の先延ばし癖要因として、携帯依存症も挙げられています。よって、タスクを実施環境からスマートフォン等を排除し、没頭できる環境を作ることが大切です。また、集中しやすい時間帯を見つけることも重要です。それに合わせてスケジュールを組むことで、効率的にタスクを進めることができます。

 

その4. 自己対話を見直す

 先延ばしで悩む人は、脳内の自己対話量が多く、かつ内容が否定的であることが多いとされています。「自分にはできない」「どうせ失敗する」という考えが頭をよぎると、それが行動のブレーキになります。よって、自己対話を見直し、ポジティブなフレームに切り替えることが重要です。例えば、「今の自分にはできることは限られるので、少しずつやっていけばいい」と考えることで、心理的なハードルを下げることが可能です。

 

 先延ばしは、誰にでもある程度は起こることであり、それ自体は悪いことではありませんが、悪影響を与えかねないことも事実です。もし悩んでいる人がいれば、まずは自分の行動を冷静に分析してみてください。初めは、どんなに先延ばしを理解していても、悩まされることもあるでしょう。但し、理解さえできれば、悩んでいる原因を最小限に抑える対策を講じることが可能です。

 このようなコラムを書きながら、私自身が締め切りに追われていましたが、皆さんは理解する&対策を講じることで脳内にいるキャラクター達を飼い慣らし、有効的に先延ばしを活用してください。

 

Land


[1] Ted Talks ティム・アーバン “Inside the Mind of a Master Procrastinator.” TED, 2016.

https://www.ted.com/talks/tim_urban_inside_the_mind_of_a_master_procrastinator

[2] American Psychological Association「ジョセフ・フェラーリ氏へのインタビュー」参照

https://www.apa.org/news/press/releases/2010/04/procrastination

[3] 産経新聞「先延ばしがさらなるストレスに学生の“携帯電話依存”影響か_上海交通大が論文 」参照

https://www.sankei.com/article/20220131-FBD6P35TTVHEHCFQXBDUPCJSNU/

[4] 大分県立看護科学大学「看護学生の先延ばしと大学の適応感との関係」参照

https://www.oita-nhs.ac.jp/site/daigakuanai/4675.html#gsc.tab=0

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