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2026.07.13

組織変革で本当に向き合うべき相手とは

 コンサルタントとして企業の組織変革に携わっていると、「自分の組織をもっと良くしたい」「部門の壁を越えて変革を前進させたい」と願う方々と数多く出会います。しかしながら、このような「組織を変えたい」という想いを持っているにもかかわらず、思うように変革が進まず、悩みを抱えている方は少なくありません。

 

組織変革に携わる中で、次のような言葉をよく耳にします。

 

「現場と議論をしても、なかなか話が噛み合わない。」

「現場は変革への危機感が薄いのではないか。」

「変革への温度差があり、このまま一緒に進めていけるのか不安になる。」


話を伺っていると、その方々は決して対峙する相手を責めたいわけではありません。むしろ、「どうすれば一緒に変革を進められるのか」と真剣に悩んでいます。一方で、そのような話を伺うたびに、私は一つの問いを持つようになりました。

 

 私たちは無意識のうちに、「変革を進める側」と「変わってもらう側」という構図で相手を捉えてはいないだろうか。

 

このように捉えてしまうと、変革が進まない原因を、「相手の危機感が足りない」「当事者意識が低い」といった、人に起因するものだと考えがちになります。もちろん、それらが全く関係ないとは言い切れませんが、それだけでは、なぜ多くの企業で同じように変革が進まないことが起こるのかを十分に説明することはできません。

 

 では、組織変革が思うように進まない原因は何でしょうか。私は、その原因を人ではなく、組織の構造から考える必要があると思っています。

 

 ローレンスとローシュの「組織の条件適応理論」は、この問いを考える上で重要な示唆を与えてくれます。彼らは、組織は環境に適応するために分化すると述べています。ここでいう分化とは、単に営業部門、技術部門、管理部門といった組織上の区分だけではありません。営業は市場や顧客に適応し、技術は品質や安全性に適応し、管理部門は全社最適や統制に適応するように、それぞれが置かれた環境に適応した結果、仕事の進め方だけでなく、何を重要と考えるか、どのような時間軸で判断するかといった価値基準そのものが異なっていくことを示しています。つまり、変革が思うように進まない原因の一つとして、それぞれが異なる環境に適応した結果として、価値基準そのものが異なっていることが考えられるのです。

 

 また、経営学者の宇田川元一氏は、このような組織変革の場面では、「多義性」を見定めることが重要だと述べています。多義性とは、“一つの問題や施策に対して、複数の解釈や意味づけが存在している状態”を指します。例えば、全社的にDXを推進する場面を想像してみてください。DX推進部門は「自社のビジネスモデルそのものを変革する取り組み」と考えている一方で、事業部門は「既存業務を効率化する施策」と捉えていることがあります。DX推進部門にとってDXは会社の将来を左右する変革そのものですが、事業部門にとっては既存業務をより効率的に進めるための改善施策という意味合いが強いのです。つまり、同じ言葉を使っていても、その施策によって実現したいものが異なっているのです。この意味の違いを認識しないまま議論を進めると、推進部門は「現場は経営課題を理解していない」と考え、事業部門は「自分たちの状況を理解してもらえていない」と感じます。つまり、同じ施策について議論しているつもりでも、それぞれが異なる意味として受け止めていることが原因となり、議論は噛み合わず、変革も前に進みにくくなってしまうのです。

 

 組織変革では、「変革を浸透させる」という言葉が使われます。そのため、多くの企業では説明会を開き、研修を実施し、動画や社内報を通じて変革の必要性を繰り返し発信します。もちろん、これらの取り組みは必要です。しかし、それだけで変革が前に進むわけではありません。

 ここまでも示してきたように変革が進まない原因は、「理解していない」のではなく、それぞれが置かれた環境の中で形成された価値基準の違いが、施策に対する意味の捉え方の違いとして現れているからではないかと考えます。価値基準も、施策に対する意味づけも異なるのであれば、まず必要なのは、自分たちの考えを伝えることではなく、相手の世界を理解しようとすることではないでしょうか。

 

「相手は何を重要だと考えているのか。」

「相手は何を失うことに不安を感じているのか。」

「相手はなぜ、その価値基準を持つようになったのか。」

「この施策は、相手にとってどのような意味を持っているのか。」

 

さらに、

 

「自分たちは何を当然の前提として考えているのか。」

 

こうした問いを持つことで初めて、「意識が低い」「危機感がない」という表面的な見方ではなく、その人が大切にしている価値基準や、その施策をどのような意味として受け止めているのかに目を向けることができます。また、変革を推進する側は、自分たちの施策が相手にどのような意味として受け止められているのかを問い続けることで、多義性そのものを認識できるようになります。その積み重ねが、異なる価値基準や意味づけを持つ人たちが、同じ方向を向いて議論できる土台をつくっていくのだと思います。

 

「相手に理解してもらうこと」から始まるのではなく、「相手を理解しようとすること」から組織変革は始まるのだと考えています。組織を変えたいという想いが強い人ほど、「どうすれば相手に伝わるか」「どうすれば動いてもらえるか」を考えます。もちろん、それは変革を推進する立場として自然なことです。しかし、その前に一度立ち止まり、「相手はどのような価値基準で仕事をし、この施策をどのような意味として受け止めているのだろうか」と問い直してみてはどうでしょうか。

 

 もちろん、相手を理解することは、相手の価値基準に合わせて変革の方向性を変えることではありません。例えば、全社として「業務効率化」を推進しているとします。そのような中で、物流部門は日々、業務効率化を最優先に仕事をしていて、今後は品質向上がより重要だと考えていたとします。そのような部門に対して「もっと業務を効率化しよう」と伝えても、「私たちは、これ以上効率化を進めるよりも、品質をさらに高めることに取り組むべきではないか」と受け止められてしまいます。

 

ここで大切なのは、「業務効率化」と「品質向上」のどちらが正しいかを議論することではありません。物流部門がなぜ品質を重視しているのか、その背景にある価値基準を理解した上で、「全社が目指す業務効率化は、物流部門にとってどのような意味を持ち得るのか」を共に考えることです。その結果、物流部門では「業務効率化とは、人を減らすことではなく、品質をさらに高めるための時間を生み出すことなのではないか」というような意味が生まれます。一方で、全社としても、「業務効率化だけを追い求めるのではなく、品質を維持・向上させ続けることも組織変革が実現すべき価値なのではないか」というような新たな意味にたどり着きます。

 

 組織変革とは、異なる価値基準をなくすことではなく、それぞれの価値基準を理解した上で、組織として目指す方向に対して双方が納得できる意味を共につくっていく営みだと考えています。相手を変えるためではなく、まず相手を理解するために問いを立て、その理解を出発点として、新しい意味を共に見い出していく。その姿勢こそが、「変革を進める側」と「変わってもらう側」という分断を乗り越え、組織全体で変革を前へ進める第一歩になるのではないかと考えています。


 

Pinova

 

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参考文献:

 

宇田川元一(2024)『企業変革のジレンマ 「構造的無能化」はなぜ起きるのか』日経BP 日本経済新聞出版

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