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ペットの位置づけ変化の可能性

 街を歩いていると、ペットを散歩する人をよく見かけるが、先日久方ぶりに「ペットの屋外飼育」を見かけた。広い庭の隅に三角屋根の木製の小屋があり、鎖で繋がれた犬が退屈そうに寝そべっていた。もはや絶滅危惧種と言っても過言ではない程、最近では見られなくなった光景だと思う。それ程にペット室内で共に生活することが主流であり、故に「ペットは家族の一員だ」という意見も多くなっている。

 

 実際に私もペットと生活をしているが、一つ屋根の下で寝食を共にし、時には遊び、時には喧嘩し、正に家族と同様に暮らしている。私にとって様々なポジティブな要素をもたらしてくれる存在であり、私の人生においてなくてはならない存在だ。しかし、ペットも生き物である以上、いつかは寿命がくるだろう。人が父や母の死を哀しむのと同じく、ペットの有事(病気や逝去 等)の際には、そばに寄り添って看取ってあげたい。

 人間の家族であれば、忌引きはもちろん、看病で臨時有休をとることにはなん問題もないが、ペットの場合はどうだろう?

 自身が家族としていたとしても、ステークホルダー(企業、上司、顧客など)の納得を引き出すのは難しいのではないだろうか?ペット=家族という関係性が、国として公的に認めているわけではなく、ペットには戸籍や社会的な権利もないため、人間と同様の対応を求めるのはむずしく、休みづらいのが実態ではないだろうか。

 しかし、日本のダイバーシティ推進の背景もあり、LGBTQのようなマイノリティを理解し、多様性を重んじる風潮は出来上がり始めている。実際、家族の新しい形として、同性婚なども認められている。このような情勢を踏まえると、ペットを家族と考えている人も、LGBTQのような多様性の一つとして認められる可能性があるのではないだろうか。

 

 日本のLGBTQの人数は正確なデータはないが、2020年の電通ダイバーシティ・ラボによると、人口の約8.9%程度(約1063万人)[1]とされ、世帯割合(2022年の5583万世帯)にすると、約19%となる。一方、ペット飼育者の割合は、犬が世帯数の9.69%、猫が8.63%であった[2]。犬猫を一緒に飼っていないと仮定し、犬猫の割合を足すと約18%となる。若干届かずではあるが、非常に近しい状態であるので、多様性の一つとして認めるかを単純な総数で判断するのであれば、認められる可能性は高い。

 また、ペット飼育者の中でも、ペットを家族として考える人の割合として、72.9%がペットを家族(人)と「全く同等」「ほぼ同等」の存在だと回答しており、その内の半数以上が、ペットの飼育で「人と同じように扱う」ことを意識していると回答。次いで「かかりつけ医を決める(35.1%)」やペットとの生活を重視する「留守番を短くする(33.0%)」という結果が多かった[3]。

 

 このように、ペットの飼育者の中で、家族として考える人は多いが、彼らは社会との関りとしてではなく、あくまで個人の思いの中で家族としてペットと接している。しかし、ペットに有事(死亡や疾病など)があったときに、社会との関りが重みを帯びてくる。ペットを家族化しているのは個人の中だけであり、社会的(特に所属している企業)には認識されていない。企業側も、社員の一人がペットを家族として捉えているような情報を持ち合わせていないだろう。また、ペットに有事があったという理由で、仕事を休むことや、大事な打ち合わせを飛ばすことを認める企業は多くないと感じる。このような状況で、ペットに有事が発生した際に、ペットへの思いを行使しようとすれば、社会な不理解によって、まさに今も社会的な自由度を抑圧されている方々(LGBTQ等)と同じ状態に置かれることになる。

 

 ペットの死亡を例とすると、愛犬が逝去した場合、その対処(供養、葬儀、遺体の処置)のために80%以上の人が仕事を休むことを検討する。しかし、実際に休んだ(遅刻・早退含む)方は35%前後であり、“休む”という権利を行使しにくい状況にあることが伺える[4]。

 ペットが逝去した際の休みの申請では、亡くなったことを伝えて休む人が23%、言わずに休む人が38%、休むこと自体NGという人が31%であった[5]。「伝えて休めた人=会社が認めてくれた」、「言わずに休む人・NGな人=会社が認めてくれない(可能性があることも含む)」とした場合、後者の割合は約7割となっており、企業側の不理解を想定し自ら休むことを躊躇している構図も見えてくる。

 実際に、ペット飼育者向けの福利厚生のルールを導入している企業の割合は、日本企業385万社のうち0.0002%とされており、これだけでも企業側の不理解の様子が見えるだろう。

 

 一方、ペットを理解することや、ペットの存在が社員(企業)にポジティブな効果を期待する企業もある。ペットに関する福利厚生ルールを導入している企業の事例として、ユニ・チャーム株式会社では、2017年から自宅で飼育したペットの逝去時に特別休暇を付与する制度を導入している。また、アマゾンジャパン株式会社では、通常の有休に加えて家族の看病などで使用ができる「パーソナル休暇」があるが、2010年から家族の一員であるペットにも適用できるように範囲を拡大した。

 

 欧米では、ペットがいることで仕事にポジティブな効果をもたらすとされている。アメリカ人道協会の研究結果によると、犬がオフィスにいることで、社員同士のコミュニケーションが活性化され、信頼関係の構築に寄与しており、組織力の向上や生産性の向上効果が見られるとしている。米国Amazon社では、社員110万人に対して1万頭の犬が一緒に出社している[6]。

 また、国内企業の各サービスも、ペットを対象にしながら、徐々に変化し始めている。例えば、飲食店や宿泊施設では、徐々にペット同伴が可能になってきている。老人ホームでのペットとの同居生活や、保険業界がペットに関連する保険商品を開発するなど、これまで“人”のみが対象だった領域にペットが入り始めている。

 

 現状では、“ペットを家族としている人”たちの権利が、LGBTQの様に認められる対象とはなっていないが、ダイバーシティを推進していく使命がある大手企業は、多様な価値観を認めていかなくてはならないだろう。

 なお、今回論じてはいないが、バリアフリーアニマルの様に人の手足となって共存をする動物も増えてきている。人と同様に「ペット=家族」として、その権利が認められる世の中になっていくのか、今後の動向に期待したい。

 

Land

 


[1] 株式会社電通グループ「LGBTQ+2023」参照

[2] 一般社団法人ペットフード協会「2022年(令和4年)全国犬猫飼育実態調査結果」参照

[3] 株式会社サンセルモ「ペットの家族化に関する意識調査」参照

[4] 株式会社PLAN-B「働き方や環境に関するアンケート」参照

[5] クロス・マーケティング「ペットと仕事に関するアンケート」参照

[6] 東京経済オンライン「ペットの福利厚生が広まらない日本と米国の差」参照

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