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2010.01.15

ヒット商品の“生みの親”と“育ての親”

 先日、日経流通新聞(1/6付)で、月刊女性誌「Mart」の読者が、ヒット商品の火付け役として流通業界で注目されている、という記事が掲載されていた。「Mart」は、光文社が2004年10月に創刊した生活実用情報誌で、JMPA(日本雑誌協会)の発表によると、2009年7月~9月の発行部数は172,134部を数え、2008年10月~12月の139,500部から、着々と部数を伸ばしている雑誌である。
 記事では「Mart」の影響力は、「Mart」が火付け役となったある調味料を例に挙げて、単に読者が発掘したお気に入りの商品を写真付きで誌面で紹介するだけでなく、読者自身が自分のブログで情報を発信し、インターネットの世界での「口コミ」によって、その商品の話題を広げていくことで生まれる相乗効果にあるとしている。しかし、このような読者のアイデアを取りこみながら企画を構成しているのは、「Mart」だけが行っているわけではなく、他の多くの生活実用情報誌でも同様に展開されているものだ。
では、多くの生活実用情報誌が、同様に読者と連携した企画を展開する中で、なぜ「Mart」が特に注目されるような企画を展開することができるのだろうか。その理由は、記事によれば、「Mart」は厳正な審査によって、「自ら進んで商品の良さを発掘し、自分たちの楽しみ方や楽しんでいる姿を積極的に発信する消費者」を、誌面の企画に参加する読者会員として確保している点にあるとしている。さらに同誌編集部では、読者会員たちに対して、自分たちが楽しんでいるレシピや雑貨などの使い方を、誌面の「企画案」として提案するよう働きかけているという。確かにこれなら、誌面を飾るような興味深いネタも、きっと集まってくることだろう。

 ところで、これらの生活実用情報誌からヒット商品が生まれてくる要因について考えると、注目すべき点は、消費者が単にお気に入りの商品を紹介するだけではなく、自分自身で考えた商品の使い方や楽しみ方を紹介している点にある。なぜなら、メーカーなどの作り手側や量販店等の売り手側の宣伝文句を見ると、商品の機能面で過去の商品や他社の商品との差別化しやすい機能面でのアピールになりがちで、消費者の生活がどう変わるか、どんな楽しみが増えるのかが想起しにくいことが多い。それに対して、生活実用情報誌に出てくる消費者のアイデアは、作り手側や売り手側の想定を超えるような消費者目線での商品の使い方、楽しみ方を具体的に教えてくれるのである。こうした情報の方が、買い手としては、より購買意欲を掻き立てられることだろう。
いわば、作り手が商品の「生みの親」となることに対して、消費者が商品の「育ての親」となり、その商品が使えそうな場面や楽しめそうな場面を引き出す、ということが生活実用情報誌では起きているのである。そして、他の多くの消費者が、他人の使い方や楽しみ方を学習することで自分たちも使いだし、さらに商品の活躍の場が広がるという、消費者の学習の連鎖による商品育成が起きているのだ。

 実は、先述の「Mart」が、他の生活実用情報誌と異なっている点がもう一つあり、それがこの消費者の学習の連鎖による商品育成を、誌面上で継続的に行っている点だ。
一般的に、一度特集記事に取り上げた商品やテーマはその号限りであることが多いが、「Mart」の場合、ある商品を継続的に何度も取り上げ、その度に読者会員からの新しい使い方・楽しみ方を掲載している。そうすることで、「Mart」の読者の周辺や、読者会員のブログなどを見た消費者たちによって、商品に対する学習の連鎖が広がっていき、自然と商品の認知度も上がり、売れ筋商品と化けていくのだろう。
つまり「Mart」が、今注目されるヒットメーカーとなっているのは、選ばれた読者会員による企画の面白さと、誌面上に消費者たちが学習し、さらに商品を育んでいく「場」を提供していることにあると言って良い。

 さて、この「Mart」の事例であるが、これはメーカーに対して、自社商品を「ヒット商品」へと導くためのアプローチについて、1つの示唆を与えてくれている。いずれの企業も、「ヒット商品を作る」為にマーケティングから商品開発、そしてプロモーションに至るまで多くの時間と費用をかけながら、様々な商品を世の中に送り出している。それにも関わらず、「ヒット商品」と呼ばれるものは僅かしか生まれないのが現実だ。
しかし、「ヒット商品」になれなかったものの中には、長い間そこそこ売れ続けていたり、最初は非常に売れてすぐ下火になったりしたような「ヒットまであと少し」といった惜しい商品もあるはずである。また、とても優れた機能を持ちながら消費者に理解されないまま忘れ去られてしまったような、「空振り」に近い商品も多いことだろう。もし、メーカーが消費者に対して、惜しい商品やポテンシャルの高い商品に関する「学習の場」を提供し、消費者目線での便利な使い方・楽しみ方を見出していたとしたら、結果は変わっていたかもしれない。

 現代は、IT技術の普及もあり、簡単に商品情報を手に入れることができる。インターネットの世界では、ご丁寧に商品毎に価格比較表や性能比較表などが用意されている。おかげで興味さえあれば、消費者が売り場の店員さん並みの商品知識を得ることも、難しいことではなくなってきた。また、試供品も数多く配布され、中には雑誌の付録で付いてくることもあり、商品そのものに触れることもできる。従って、このような情報過多な時代に、さらに商品自体の良さばかりを訴えたとしても、消費者の心はそう簡単には動かすことはできない。
「その商品を使ってみたい、買ってみよう」と消費者に思わせる為には、メーカーが消費者に自社商品に関する学習の場を提供し、メーカーと消費者が一緒になって商品の使い方・楽しみ方を考え発信することで、自社商品を「ヒット商品への育てていく」、といった取り組みが必要になってくるはずだ。そして、そのようなメーカーと消費者が一緒に商品を育てるような取り組みは、自社のファンを広げていくことにも繋がることだろう。世に自分たちの商品を出そうという時に、自分たちのファンがそこにいてくるとしたら、これほど心強いこともない。
既に企業によっては、自社の商品を購入した人向けのユーザーサイトやメーリングリストなどを作って、消費者とのコミュニケーションを図ろうとしているところもある。しかし、その多くは企業からの次期商品・他商品の宣伝であることが多く、消費者と一緒になって購入してもらった商品の新たな使い方・楽しみ方を再発見するようなものは、ほとんど聞いたことがない。やはり、自社商品の優位性ばかりを謳った一方通行の情報提供よりも、誰でも自由に参加できるコミュニティをメーカー自ら提供し、そこでメーカーと消費者が一緒に学習しながら新たな使い方・楽しみ方を共有できる方が、もっと有効だろう。また、メーカー側から、生活実用情報誌に企画を持ち込むといったことをしても面白い。何も消費者からの反応を待っていなくも、こちらか仕掛けていくこともできる。
今後、企業は消費者と一緒になって学習し、学習成果を発信しながら商品を育む場を提供することまでをマーケティングのプロセスに取り込むべきである。積極的に消費者と共に自社商品を学習することを厭わず、「商品を育てる」ことに力と愛情を注ぐことができた企業こそが、「ヒット商品」の「生みの親」となることができるだろう。
 

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