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2012.01.11

工場見学のブームに乗じた、製造業の自社アピールと製造現場の改善

 工場見学がブームとなっている。テレビ番組の影響があってのことと考えられるが、昨年1月に株式会社昭文社から出版された『工場見学 首都圏』が発売1ケ月半で20万部を突破し、旅行本部門の2010年11月22日~2011年11月20日の年間ランキングで1位を記録した。工場見学はほとんどの施設で参加費が無料で、モノづくりの現場を実際に見ることができ、さらに工場限定などのお土産までもらえるということで、今や子供だけでなく大人にも大人気のレジャーとなっている。製造業各社にとって、これは自社の活動を見学者にアピールする絶好の状況であり、この機会を活かさない手はない。

 そこで、現在、企業が工場見学でどのような取り組みを実施しているかを見るために、ビールメーカー各社の工場見学に参加してきた。工場見学の流れは、主にビデオ鑑賞から始まり、製造現場の見学、環境貢献への取り組みの説明と続いて、最後に試飲ができるというものであった。所要時間に多少の差はあるが、最高級品質のビールを提供する姿勢、自然との調和を目指して環境問題に取り組む姿勢がアピールされていた。一般的に工場見学を実施する社外的な目的は、自社の企業活動に対して、現在または将来の顧客や株主などのステークホルダーから理解を得ることだ。一方、社内的な目的としては、見学者に工場に訪ねてもらうことで、製造現場で働く社員に外部の目を意識させ、現場に緊張感や責任感を醸成させる狙いがある。ここで、これら2つの目的を、工場見学に参加して見てきたことと照らし合わせたところ、いくつかビール工場見学に改善点があるように思えた。

 まず、対社外について考える、日本を代表するビールメーカーの企業理念を見てみると、主に、最高級品質のビールを提供することと、その原料を生み出す地球環境の保全への取り組みに力を入れることが掲げられている。最高級品質のビールを提供することについては、各社、ビールの原料となっている麦芽を試食してもらったり、ホップの香りを体験してもらったり、製造工程の工夫を説明したりすることで、十分にアピールされていた。しかし、地球環境保全への取り組みについては、各社ビデオ鑑賞や展示物を使って簡単に紹介するにとどまっており、インターネットや雑誌で十分調べられる内容以上のアピールはされていなかった。ただし、各社ビデオ鑑賞や展示物での紹介にとどめている内容の中には、例えば、再生可能エネルギーの利用や、エネルギーの再利用による環境負荷軽減の取り組みのように、工場施設内で実態を確認できるもの存在する。最初の改善点は、このような工場施設内で取り組んでいる環境保全活動を、設備を実際に見てもらいながら紹介することだ。ビデオ鑑賞や展示物やガイドの説明を通して環境保全活動を伝えるよりも、実際の設備の見学を通して、製造工場で実施している環境保全活動を伝える方が効果的だ。 “現場を見せる”ことによって企業から発信しているメッセージの実態を顧客や株主に伝え、自社の活動をアピールすることこそ、工場見学の心髄ではないだろうか。インターネットや雑誌からは感じ取ることができない、各社の環境保全活動の努力を目で見たいと望む参加者も多いはずだ。

 次に、対社内について考える。ビール製造工場を見学すると、製造工程は全般的に巨大な製造ラインによってオートメーション化されており、施設内の人影は驚くほど少ないことが分かる。工場内で働く社員は主に、仕込~発酵~熟成工程の温度管理や、でき上がったビールの品質確認に充てられており、工場見学ルートからは直接見ることのできない部屋で作業をしているため、稼働中の工場を見学しても、現場社員の姿をなかなか見ることができない。このように、ほとんどの工程がオートメーション化されているビール工場だが、発酵工程の酵母に最適な環境作りや、機械では判定できない味の最終確認などを行い、出荷するビールの安定した品質を守っているのは、機械ではなく社員の技能なのである。そこで、ここでの改善点だが、品質を守っている、このような社員の技能を見学者の人々にアピールする場を工場見学に設けてはどうだろうか。そうすることで、見学者には、機械にできない重要な品質管理は社員が守っているという点に共感してもらい、社員には緊張感やモチベーションを高め、ひいては仕事に対して誇りを持ってもらうことが期待できるのではないだろうか。また、作業室を見学者に常に見られる環境に置くことで、作業室の整理・整頓も定着するだろう。さらには、現場社員が真摯に業務を遂行する姿勢が、企業理念に即した企業活動とも重なり、もう一つのアピールポイントになるはずだ。

 製造業にとって工場見学は、顧客や株主に製造現場を見てもらうことで、企業から発信しているメッセージの実態を伝えられる機会であり、さらに、現場社員にステークホルダーの目を意識させることができる機会でもある。日頃顧客や株主へ発信しているメッセージを、より印象付けられるように製造現場を紹介できているか。また、顧客や株主の目を製造現場の改善に活かせているか。工場見学のブームに乗じて自社アピールと製造現場の改善を行うために、上述した工場見学の目的を改めて念頭に置き、工場見学の改善に目を向けてみてはどうだろうか。

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