2015.02.16
スカイマークが考えるべき債務圧縮戦略
2015年1月28日、我が国において第三極の航空会社を目指し続けてきたスカイマークが、民事再生法の適用申請を行った。負債総額は711億円に上る。
直近の売上高こそ微減にとどまっていたものの、円安による燃油費の高騰や機体のリース料増大に加え、リース料の為替ヘッジを行っていなかったなどの無策も祟り、2014年4月~12月期で136億円の純損失に陥った。本年1月末に40億円の支払いを控える中、同社の手元資金は3億円まで減少、最後には資金繰りに窮した。
同社は金融機関からの「つなぎ融資」すら受けられなかった。あえてメインバンクを持たず、資産圧縮を行う戦略を取っていた。これが裏目に出て「メインバンクに担保を差し入れて救済を受ける」という手法を取ることができなかった。
同社は、欧州エアバスの超大型旅客機「A380」に過大投資を行い、機体のキャンセル料として最大7億米ドル(830億円)の請求を受けている。東京地裁への民事再生申し立ての中でこの債権の額は「未確定」とされており、冒頭の負債総額には含まれていないが、今後エアバスが最大の債権者となることはほぼ間違いない。スカイマーク再建の前には、総額1,500億円超の負債が立ちはだかる。
スカイマークは会社更生手続きではなく、民事再生手続きを選択した。民事再生手続きでは、債権者の同意が得られなければ、会社更生または破産手続きに移行することとなる。民事再生の段階で企業再建を成功させる最初のハードルとなるのは、エアバスやリース会社などの主要債権者の同意を得つつ、将来の利益から返済が可能な範囲まで債権額を圧縮できるかどうかにある。
ここでは、巨額賠償などの債権を抱え、民事再生手続きが始まったスカイマークの再建について、債務圧縮を行いつつ、どのように債権者の同意を取り付けるべきであるかを考えてみたい。
まずは、同意を取り付ける債権者同士の利害関係を整理すると、エアバスとの交渉に最優先で取り組むべきであることは直ちに明らかにできる。エアバスの債権額が最大の830億円から減少したとしても、次位のリース会社の債権額148億円を下回ることは考えにくい。下位の債権者に対する払戻額は、エアバスの債権額の圧縮幅が大きいほど増えるものであるから、スカイマークとエアバスの交渉を望まない関係者はいない。
それでは、スカイマークがエアバスに交渉に臨む際に、考慮すべきことは何であろうか。筆者が着目しているのは、
1)政界と国交省の意向
2)民事再生法上の制約
の2つである。
まずは、政界と国交省の意向を考えてみる。スカイマークの危機の際、政治の介入が同社の自主的な再建を妨害したとされる向きがある。JALとの共同運航を国交省が妨害したという見方や、全日空が支援を行う動きを見せておきながら、自民党の一部議員の意向を受けて手のひらを返したという声もある。これらの経緯はさておき、着目するべき事実は「スカイマークの再建は、政界の意向を受けて国交省が認可するものでなければ実現しない」という点である。
この事実は、企業再建後の弁済にも大きく影響を及ぼす。スカイマークが将来的に債権弁済を行う唯一の見込みは、羽田空港の発着枠を活かすことだ。発着枠を航空会社が1往復分得るだけで、年間20~30億円の営業利益増を見込むことができる。数に限りのある発着枠は、本邦航空業界にとって貴重な財産であり、「ドル箱」とも称される。現にスカイマークが自主再建を断念する前から、同社が保有する羽田空港の発着枠を狙って、全日空と日本航空が様々な駆け引きで争奪戦を繰り広げた。スカイマークの再建において唯一とも言っていい資産であるが、この維持ですら国交省が決定権を持つ。
このことは、政界や国交省の同意なくして、スカイマークが再建することも、その後に弁済を行うことも不可能であることを意味する。
もうひとつの考慮すべき点である民事再生法の制約は、エアバスの選択肢を絞るものだ。
エアバスが債権を多く回収するためには、会社更生手続きへの移行を避け、期限である本年5月末までに民事再生手続きを取りまとめる可能性が高いと読める。エアバスが民事再生手続きに不同意を貫き、会社更生手続きに移行した場合、スカイマーク再建の主導権は裁判所が握ることになる。すると、エアバスが請求している損害賠償額の妥当性も、裁判所の判断を経なければならなくなる。
エアバスにとって、A380発注キャンセルの損害賠償を日本の司法に査定されることはよろしくない。なぜなら、転売をしようにも足元を見られて安く買いたたかれるスカイマーク用の機体を、資産価値が高いと判断されてしまうと、債権額が大幅に減少するリスクが高くなるためだ。
欧州の企業であるエアバスにとって、スカイマークに自主再建を断念させた日本の国権関与度が大きくなることは避けたい。たとえ日本の司法が中立だとしても、数多あるキャンセル機体の資産査定方法を、債権を争う相手国の裁判所が決定するとすれば、外国企業であるエアバスはリスクとして捉えるだろう。そうなるくらいならば、自社の意向を反映しやすい民事再生手続きでの決着を図りたいというインセンティブが働くことが予想される。
スカイマークがエアバスとの交渉に臨む際には、この2点を十分考慮に入れた上で策を練るべきである。そして筆者は、我が国の政界の同意を取り付けることを口実に、債務圧縮を盛り込んだ民事再生計画への同意を迫ることが望ましいと考えている。規制産業であるが故に越えなければならないハードルを、債権回収を試みるエアバスに押し付けることは、クリーンな手段とは言い難いものの、企業再建の効率を高める手段となり得る。
スカイマークの再建には、航空機を飛ばして本業を立て直す以外にも、考慮に入れなければならない事項があまりにも多い。ならば、規制産業であるが故に生じる制約をしたたかに活用することで、債務を圧縮し再建を図ることが、今第一に考えるべきことではなかろうか。
この戦略を取るならば、西久保前社長の下で疎遠となってしまった政官界との関係を強めなければならない。大手2社の傘下に入ることを拒み続け、最後まで独立系の維持にこだわったスカイマークであるが、民事再生手続きに踏み切った段階で俎板の鯉にならざるを得ず、あらゆる資本を受け入れることを表明している。こうした政策の転換を更に鮮明に打ち出し、再建において政官界の利益を重んじるように振る舞うことが必要だろう。
スカイマークの純資産総額は2014年末日時点で311億円であるが、このうち建設仮勘定だけで256億円を占める。これは、損害賠償を請求されているエアバスに、超大型旅客機A380の代金の一部として支払ったものを資産計上しているだけであるので、返却される見込みはなく、実質的な純資産は55億円に過ぎない。冒頭の1月末の支払い40億円を差し引くと、もはや資産はゼロに等しい。
このような企業は破産宣告を行った上で清算するのが当然だ。スカイマークは規制産業であるが故に、生き残りの道を探ることができるのだから、自社を追い詰めた規制や政界を巧みに活用し、債務圧縮の道を模索していくべきである。
Zarathustra II.