2016.07.11
IoTは明日の風景をどう変える
イノベーションが起こると、世の中の風景が変わると言われるが、近いうちに私たちの身の回りの生活風景にどんな変化があるだろう? 過去10年で記憶に残るビジネス界の変化をビジネス誌の特集記事等(HBR,日経ビジネス,週刊ダイヤモンド)からランダムにピックアップして考えてみた。 ●インダストリアル・インターネット インダストリアル・インターネットとは、GEの事業構想の概念である。IoTを活用することで、ハードウエア・カンパニーからハードウエア+ソフトウエアカンパニーになろうとしていることを端的に表している。具体的には、GEのジェットエンジンには100以上のセンサーが搭載されているのだが、各部品の振動数、温度など機器のコンディションをリアルタイムで認識できるため、部品の交換の予測が可能になっている。そのため、飛行中の航空機から部品の交換要請があれば、次の着陸する飛行場に必要部品を予め供給するなどの対応が可能になる。また、航行中のエンジンのデータを収集することで、着陸時の降下プロファイル(どのくらいの高度からどの方角・角度で降下すると、今以上のエネルギーの効率化が測れるといった提案)の改善に役立てる事が出来る。これまではエンジンの供給にとどまっていたが大きく変化した。 そこで、GEをはじめとする製造業において、IoTを取り込んだ技術の標準化が進むと、あらゆるハードウエアの故障によるタイムロスや、事故を未然に防ぐことが可能になる。そうなると、旅客機・自動車・鉄道などの整備不良による事故が無くなる時代がやってくる。 国内の事例では、富士ゼロックスは、顧客先に設置した機械と自社情報システムとの接点のリアルタイム化によって、事前保守活動を実現している。メンテナンスにかかる時間は、故障後の修理に比べ約20%減る事がわかっている。また、富士ゼロックス以上にIoTを活用して高収益を上げている企業として、コマツのコムトラックスの事例はあまりにも有名だ。高収益を支えるポイントは、①GPSセンサーによる盗難対策が奏功した。②故障を未然に防ぐなどで、建機の稼働率アップした。③運転状況を把握し燃費向上に役立てることができた。これら3つのポイントは、コマツの建機の価格が多少高くてもユーザーにとっては替えがたいメリットとなっている事で競争優位性を保っている。 ●パーソナライズド・メディスン 製薬業界のこれまでのビジネスモデルは、大型新薬の開発を成功させ、いち早く市場に投入し普及させることで大きな収益を上げることであったが、IoTによりこの前提が変わる可能性が出てきている。それがパーソナライズド・メディスンだ。人の遺伝子情報は1人ひとり異なるので同じ薬が万人に効くわけではない。そこで個人の遺伝子情報をベースに、IoTを活用したデジタル技術によるデータ解析により、1人ひとりに合わせた薬づくりが可能になってきている。この事は、製造業のバリューチェーンを変えることになり、薬をつくって売るビジネスから、患者の病気を完治させるまでのサポートまでをビジネスとすることが可能になる。既にノバルティスは、根治が難しいとされる「多発性硬化症」の薬「ジレニア」においてその活動を開始している。「多発性硬化症」は、病気の認知が難しい上、人によって症状も様々であり、再発も多く長期的治療を余儀なくされる病である。そこで、ノバルティスは患者のパーソナライズ・サービスの提供に事業モデルを転換した。まず、患者の症状やニーズ応じて治療プログラムを設計し、患者ごとの投薬履歴、保険加入情報等も収集した個別分析を経て最適なプランを提案し、病気の完治させるまでのサポートをベースにした事業としている。 ●リアルタイムシステム 駐車場ビジネスもIoTで変わった。パーク24は時間貸し駐車場Timesの運営会社であるが、同業他社に先んじて自社が管理している駐車場を本部のサーバーにつなげている。これによって、駐車場の利用状況をリアルタイムで把握し、より正確な稼働率管理を行っている。このことで、時間帯や曜日に応じた稼働状況を見ながら立地に応じたマーケティング活動を行えるので、10分単位での単価設定、時間帯による定額等、多様な料金設定を立地ごとに変え、収入の最大化につなげている。更には、駐車場の利用状況をカーナビやスマホに送る事で、利用者の送客にも貢献し、カーシェアリング・ビジネスにも広がりを見せてきた。今後も、リアルタイムネットワークが拡張していけば、また新たな仕組みが出てくることも考えられる。 さて、これらの変化は、どれもBtoBビジネスに関する事例であるが、BtoCビジネスの領域に当てはめてみると、身の回りの暮らしにどんな変化が起きるだろうかを想像してみた。 【壊れない家電が登場する】 製品にはセンサーが埋め込まれ、製品の不具合発生前にメーカー側が検知し、保証期間であれば部品を無料交換したり、消耗品交換時期には、スマホにメーカーから自動通知がくるようになる。結果的に、製品の寿命は更に延び、モノを大切にする風潮が広がる。 【自動車の車検が無くなる】 車は定期点検ではなく、随時点検が可能になる。必要なメンテナンス部分をセンサーがキャッチし、車の使用者に通知。通知から半年以内に交換しないと反則金または、乗車停止措置を受けることになる。整備不良による故障や事故を減らす効果が期待できる。 【人とモノの会話が日常化する】 家の中のあらゆる機器がIoT化されるとモノとの会話が始まる。例えば、室内温度が高くなると、家の空調が帰宅時間をLINEを通じて訊いてくる。施錠しないまま出かけると、家の玄関ドアからLINEに施錠確認の連絡があり、遠隔操作して施錠する。会話する相手は、モノではなくロボットのペッパーかもしれない。 【世界中の医療機関で安心して受診できる】 個人の病歴、投薬履歴、遺伝子情報を参照しながら、的確な治療と投薬の判断が可能になる。勿論、高機能な自動翻訳機能は不可欠である。 【その他】 スマホの次は、一家に一台Google HomeかAmazon Tap?発注と予約は全て自動化され、面倒な考え事はAIが代行。 例えば、明日の子供の運動会のお弁当を冷蔵庫に装備されたAIに考えてもらい、不足する買い物をGoogle Home経由で近隣スーパーに発注し、宅配冷蔵庫に届いているといった事が当たり前になっている。 想像するだけでも結構楽しい世界だ。IoTが企業の仕組みに取り入れられていく事の本質の1つは、商品のイノベーションからサービスのイノベーションへのシフトだ。例えば、米櫃に入れているお米も残り3合になったら自動発注するシステムは、米櫃にセンサーを装備すればごく簡単に実現できる。このような自動発注のサービスは、メーカーでも、流通業でも組み込む事が可能だ。謂わば「マイホーム型ジャストインタイム」な生活に変わっていく。メーカーや流通業者にとっては、販売機会のロスがなくなるというメリットがあり、消費者にとっては、新たな無駄時間の発見と削減(今までは無駄と認識しなかった時間を知る事になる)ができ、win-winな関係を築ける。現に米国amazonではこのようなサービスを始めており、日本での導入も近いと考えられる。 また、煩わしい買い物時間(楽しむ買い物ではない)から解放された途端、新しい消費行動は習慣化し、元に戻る事は考えにい。新たな消費行動が定着すれば、一つの風景が変わる=イノベーションが起きたと言っていいはずだ。この場合、嵩張る商品、重たい商品(トイレットペーパー、水・米・酒等)をスーパーから抱えて帰る買い物客がいなくなる。その代わり、家の前や近所に大型冷蔵・冷凍機能付きの宅配ロッカーが見られるようになるかもしれない。また、このような時代が来て初めて、セブン&アイグループのオムニチャネル戦略が機能するのではないか。 他に変わる風景としては、「自動車は、非常時以外は自動運転になり、ほとんどの人は前を見ないで運転している」「宅配便はベランダにやってくる。新しくできた高層マンション住宅地などでは、予め在宅を確認したら、ドローンがベランダにモノを届けてくれる」等々、枚挙にいとまがない。 ここに列挙したことはどれも現実的だ。イノベーションの想像は私たちをワクワクさせてくれると同時に、これまでの習慣からの脱皮を求められる。そんな時に、若い世代のみならず、シニア世代にとっても変化に対応できるイノベーションであってもらいたい。さて、次にどんな風景の変化が最初に現れるかしっかり観察していこう。 スカイウォーカー