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2017.01.10

非ホモ・エコノミクス故の目標設定

12月31日土曜日。新年を前にした決意。週に3回スポーツジムへ行く。ただサンドイッチを買うためだけにではなく。 4月28日。今月スポーツジムへ行ったのは0回。今年はこれまでに1回行ったきり。年会費は370ドル。 これは、2001年にヒットした映画『ブリジット・ジョーンズの日記』の一節である。 年末あるいは年始になると、多くの人が、来年(ないしは今年)の目標を立てる。  「毎日5kmランニングして、5㎏痩せる!」  「朝6時から英語のリスニングをして、TOEICで700点をとる!」 このような目標を立てたとしても、いわゆる三日坊主で、すぐに脱落したことがある方も多いのではないのだろうか。 目標設定の方法としては、「SMARTの法則」(※1)と呼ばれるものが有名で、私自身、仕事上でご紹介することも多い。 しかし、「SMARTの法則」に則り目標を設定するだけでは、実は不十分である。 なぜなら、どうやら人間というものは、経済的合理性のみに基づいて個人主義的に行動する(=『ホモ・エコノミクス』)(※2)には、なれないからである。身近でわかりやすい例の一つとして、“恋愛”を挙げることができるが、いかに自身(もしくは身の回りの人)が非合理的な行動をしてしまっているのかが、容易に想像できるのではないだろうか。 そこで、今回は「SMARTの法則」を補足する形で、少しでも達成可能性を高めるような目標設定の方法について、我々が『非ホモ・エコノミクス』であるという事実を再認識し、これを上手く活用した『FLASHの法則』を考えたので、事例を用いながら説明していきたい。 なお、『FLASHの法則』とは、本コラムで考えた造語であり、下記英単語の頭文字から採っている。   F:Framing effect フレーミング効果   L:Loss aversion 損失回避性   A:Anchoring effect アンカリング効果   S:Self-efficacy 自己効力感   H:Halo effect ハロー効果 まず、一つ目は、『フレーミング効果(framing effect)』を活用して、達成意欲を高める目標“表示”を行うことだ。 『フレーミング効果』とは、意思決定において、質問や問題の提示のされ方によって選択の結果が異なることがあり、この提示の仕方を「フレーム」と呼ぶことから名付けられた現象である。 例えば、「手術をするかどうか」の選択で、医者からの「生存率95%」と「死亡率5%」という提示は、中身は同じなのに受け取る印象が異なる。また、商品の値引き表示においても、比率表示が良いのは「一流ブランド物」「高級品」「(閉店につき、あるいは目玉商品につき)割引比率が高い場合」などで、「ノンブランド品」「低額の商品」では金額表示、すなわち通常価格と割引価格をともに示すほうが良いと考えられている。 「SMARTの法則」においては、数値で目標を設定することが推奨されているが、絶対数値で表すのか、比率的な数値で表すのか、少しでも、目標達成しやすいと思える表示を考えてみることが有効なのである。 二つ目は、『損失回避性(loss aversion)』を活用して判断を下し、意志を強く保つことだ。 まず、損失回避性について簡単に説明する。合理的に考えれば「100万円から得られる満足度は1万円から得られる満足度の100倍であり、1万円の損による苦痛は1万円の得による満足度に等しい」はずである。ところが、心理学者のカーネマンらは、「人間は同額の利益から得る満足より、損失から受ける苦痛のほうがはるかに大きい」ことを実証した。さらに、「利益が大きくなるほど満足度は減っていき、損失が大きくなるほど苦痛の度合いは減っていく」ことも明らかになった。 例えば、最初に無条件で1000円もらえたとする。50%の確率でさらに1000円もらえるギャンブル条件と、確実に500円もらえる条件のどちらかを選択するかを尋ねると、多くの人は、確実に500円もらえる方を選ぶ。一方、最初に2000円もらえたとする。次に、50%の確率で1000円失うギャンブル条件と確実に500円失う条件のどちらかを選択するかを尋ねると、多くの人は先とは逆に、50%の確率で1000円を失うギャンブルのほうを選ぶ。つまり、人は、確実に得できる時は手堅く「逃げ」の選択をし、確実に損する時は少しでもダメージを減らそうと「攻め」の選択をするのである。 そのため、もし自分が◯◯しなかったら、どんな悪い結果が待っているか、ということを具体的に想像してみることが有効なのである。 三つ目は、『アンカリング効果(anchoring effect)』を活用して、目標が達成できないのではないかという恐怖心を和らげることだ。 『アンカリング効果』とは、船が錨(アンカー)を降ろすと、錨と船を結ぶとも綱の範囲しか動けないことからくる比喩であり、最初に印象に残った数字や物が、その後の判断に影響を及ぼすことを言う。 例えば、1万円の値札が赤線で消され7000円に直してあれば「安い!」と感じる衝動買いをしてしまうこと、会議で最初の発言者の意見に引っ張られ、話がグルグル回ってなかなか決まらないこと等が、アンカリング効果』として挙げられる。 つまり、最初に非現実的な目標を想像してみることで、実際に設定する目標のハードルを下げ、モチベーションを高めることができるのである。 四つ目は、楽勝で達成できるコンパクトな目標を設定し、『自己効力感(self-efficacy)』を高めていくことだ。 “小さいことを積み重ねるのが、とんでもないところへ行くただひとつの道。” これは、日本が世界に誇る野球選手「イチロー」の言葉である。 目標を大きく持つことは大事だが、どんなに大きな目標も小さなことを積み重ねていくことでしか成功はないということを示している。 当然ではあるが、いくら目標を設定しても、自分にできる『自信』がなければ、『行動』に移すことはできない。 例えば、英語の勉強で、ある『行動』=【1年間毎日3時間以上勉強】をすれば、ある『結果』=【1年後にTOEIC700点以上】が期待できるとする。これを心理学で『結果期待』と言う。一方、『行動』する前には、「毎日3時間、1年間勉強する」ことが、本当に可能かどうか?『確信』が必要となる。これを心理学で『効力期待』と言い、「毎日3時間、1年間勉強する自信」が問われる。つまり「勉強すれば合格」という結果期待がどんなに高くても、「毎日3時間勉強する」ことが自分にとって難しいなら、効力期待は低いため『行動』に移せない。そこで、「目標設定して行動」に移すためにも、効力期待に応じられる『自信』が重要となり、この『自信』を『自己効力感(self-efficacy)』と言う。 つまり、高い目標は『自己効力感』が育ちにくいため、できるだけ「低い目標」に細分化し、それを一つずつクリアしていくことで『自己効力感』を高めていける。モチベーションを維持するためには、無理せず、できそうな小さな目標設定から始めてみるのが効率的なのである。 ポイントの五つ目は、『ハロー効果(halo effect)』を活用して、目標が達成できるという自分を“演出”することだ。 『ハロー効果』の「ハロー」は月や太陽の光輪や聖像の後光のことだが、ある対象を評価する際に、その顕著な特徴に引きずられ、他の特徴をもポジティブないしはネガティブに歪んで評価してしまうことをいう。人、物が一つの長所で高く評価されると全体がよく見えたり、逆に一つの短所で低く評価されるようになる現象のことを指す。 つまり、低い目標であれ、目標を達成する(できる)自分を演出することで、『自己効力感』を増幅させることができると共に、他の目標も達成できるのではという自信を生み出すことも期待できるのである。 以上が、達成可能性を高める目標設定の『FLASHの法則』である。 冒頭にも記した通り、ホモ・エコノミクスになることは難しいが、『非ホモ・エコノミクス』として、その特性を上手く活用することは比較的容易だ。今回紹介した特性は、ほんの一部でしかないが、どれも、既存の目標(既に設定されたもの)にも今すぐに活用できるものである。 まだ、今年も始まったばかり。目標を既に立てた方も、これから目標を立てる方も、是非、参考にして頂ければ幸いである。 皆様の建設的な一歩を応援する。 <注釈> ※1:「SMARTの法則」  S:Specific 具体的、特定された  M:Measurable 計測可能、数字になっている  A:Achievable 達成可能な  R:Realistic 現実的な  T:Timely 期限がある ※2:「ホモ・エコノミクス(Homo Oeconomicus)」  ホモ・サピエンスをもじってつくられた造語。自己の経済利益を極大化することを唯一の行動基準として行動する人間の類型。標準的な経済学の理論の前提となるが、非現実的な存在。次の三つの特徴でまとめられる。  ①超合理的:自らの効用を最大化する行動を選択する。そのためにあらゆる情報を駆使し、利用する能力がある。  ②超自制的:一度決めた行動は将来においても変わらない。誘惑に負けることがなく、意志は強固で崩れず、貫き通す。  ③超利己的:行動を決定する際には、自分の利益のみを考える。他人のための行動をとったとしても自己の利益のため、ないしは見返りの期待であり、その意味で道徳・倫理とは無縁の存在である。

ノラ猫


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