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2017.10.23

サービス業の人材不足解消

 先日、日本経済新聞社が実施した2018年度採用状況調査の結果について、同紙に「サービス業、採用計画未達 大卒内定全体は7年連続増」という記事が掲載されていた。内容を見ると、“学生の売り手市場が続く中、陸運などサービス業で内定者数が計画を下回る業種が相次いだ。人手不足が常態化する中、企業や業種間の人材獲得競争が激しくなりそうだ。“と書かれている。具体的には、製造業や不動産・住宅産業などが順調に内定者数を伸ばしている一方で、陸運やスーパー・百貨店などの小売業、外食産業などのサービス業が採用計画値に対して相次いで未達となる採用状況であったとのことであった。働き方改革などが声高に叫ばれ、東京証券取引所などでも上場企業のコーポレートガバナンスに注目が集まる昨今において、現場の過重労働がしきりに取り沙汰されるサービス業においては、労働力の確保が困難になってきている現状が読み取れる。  人事の観点から見ると、労働力の確保に向けては大きく分けて採用施策と定着施策(離職率低減施策)が求められる。適切なアプローチをとっていくためには、人事領域での知見だけでなく、マーケティング領域での知見を活かすことも非常に有用だ。なぜなら、労働市場というマーケットに対し、自社で抱え込みたい人材のターゲットを明確にし、人材獲得と定着を推し進めるという考え方は、顧客に対して適切な顧客獲得とロイヤリティ向上を推し進めるマーケティングの考え方とそっくりだからである。  ここで、飲食サービス業である株式会社エー・ピーカンパニーの例を見てみたい。同社は塚田農場という飲食チェーンを展開しており、アルバイトの育成と定着には定評がある。なぜ塚田農場で働くアルバイトは就職するまでバイトを続け、途中でやめることを選ばないのか。それは、「アルバイトは従業員であると同時にお客様である。お客様を感動させることが使命」(同社副社長・大久保氏談)という考え方が大きく影響しているのではないか。その最たる特徴が、「学生アルバイトの就職支援」といわれる独自の取組である。同社の学生アルバイト向け就活セミナー「ツカラボ」は福利厚生の一環として実施され、それぞれのアルバイトが望む企業への就職を全面支援している。その効果として、中には他社の内定を蹴ってまで同社への入社を志望する学生もいるし、そうでなくても卒業までアルバイトを続ける学生が後を絶たないのだという。  この「アルバイトはお客様である」という考え方に基づく人事施策は、まさにマーケティングの考え方をベースとした人事施策であるといえる。多いところで非正規社員の比率が80~90%を超える飲食サービス業界において、従業員を顧客と捉え、従業員満足度(≒顧客満足度)を上げるための同社の取組事例は労働力を確保するための人事施策として参考にできる。  では、顧客満足度がマーケティングの重要な指標であるのと同様、従業員満足度がサービス業において採用と定着につながる重要な指標であるとした場合、サービス業の人事担当者はどのようなことを考えていかなければいけないか。  少し話は変わるが、マーケティング領域の知見に関して、「破壊的イノベーション論」を展開するクリステンセン教授の著書に「ジョブ理論」というものがある。そこでは、顧客が商品を選択して購入するのは、片付いていない“ジョブ(用事・仕事)”を解決するためにその商品を“雇用している”という考え方であり、年代・性別・家族構成といった既存の顧客セグメントに縛られずに、商品を選択する「因果関係」を明確にすることが成功するカギである、と述べられている。理解を深めるために、当該書籍の冒頭で述べられている「ミルクシェイクのジレンマ」の例を取り上げてみたい。 それはとある飲食チェーンの抱える「どうすればミルクシェイクがもっと売れるか」という悩みについての話である。著者は、顧客分析をしていく中で、早朝にミルクシェイクを買う顧客は「朝の通勤の間、目を覚まさせていてくれて時間をつぶさせてほしい」という“ジョブ”を解決している一方で、親子連れの顧客であれば「子どもにいい顔をして優しい父親であるという気分を味わいたい」という“ジョブ”を解決していたという発見があったとしている。つまり、顧客の間に人口統計学的な共通要素は見出すことが出来ず、両者を平均化して捉えてしまっては常に“帯に短し襷に長し”的な新商品しか生まれずヒットには至らないジレンマが存在するという話であった。 この話から分かるのは、「ミルクシェイクを購入する」という結果は同じでも、人によってそこに至る基準は全く異なり、解決したい“ジョブ”も全く異なる、ということである。 (マーケティング施策の観点では、解決したい“ジョブ”によって、競争相手も全く違うものになることを踏まえて戦略を検討しなければならないという示唆が与えられている。通勤客にとってミルクシェイクの競合は、ベーグルや栄養バー、フレッシュジュースなどである一方、親子連れの顧客にとっては玩具店に立ち寄る事や家に帰ってバスケットボールをして遊ぶことが競合となる。) これは、就職活動をしている学生や勤続社員に対して「自社を選んでもらう」という結果を得るために何をしなければいけないかを考える上で、重要な視点である。即ち、採用率や離職率を改善して行く上では、それぞれの就活生や社員を“顧客”と捉え、その“顧客”が求めている“ジョブ”を明確にした上で、適切なアプローチをとり、“顧客満足度”を上げていく必要があるといえる。    では、採用率や離職率改善に向けて、具体的にどのようなアプローチが考えられるのか。既に述べた通り、これを考える上で、まず“顧客”である従業員が実際にどのような“ジョブ”を抱えているかを見る必要がある。もちろん、働く理由・目的や動機づけされる要因は人それぞれであり、本来であれば個別に対応していく事案である前提はあるものの、一例として若手社員の離職理由としてTOP3に挙げられている以下の理由を参考に考えてみたい。(ここでは、採用・定着の両面の施策を考える上で、年齢別に見たときに離職率が比較的高い※若手社員に便宜上絞って議論を進めている。)  ※厚生労働省 雇用動向調査 参照  ■若手社員の離職理由(日本の人事部 人事白書2015より)  1位 他のやりたい仕事につくため・次のステージへの挑戦(45.2%)  2位 現場でのキャリア・成長への不安(32.1%)  3位 職場の人間関係でのトラブルやストレス(23.3%)  これらの離職理由を裏返せば、それぞれ「仕事を通じて達成感を得たい」「仕事を通じて自己成長を実現・実感したい」「職場においては人間関係にストレスなく仕事をしていきたい」といった“ジョブ”を抱えていることが推察できる。 したがって、採用時点においては、職務を通じて得られる達成感や入社後のキャリアパスの明示、採用前での社員との交流機会の設計など、採用後の定着時点では個々の成長度合いの把握と成長度合いに応じたチャレンジングな職務のアサイン、従業員や上司の特性を踏まえた配置配役、従業員サポート体制の確立など(上位者との効果的な面談の実施や上位者の育成スキルの向上、メンタルヘルスサポート機関の設置なども含む)が採用率・定着率を高める上で効果的な施策として挙げられる。 一例ではあるが、ユニクロを運営しているファーストリテイリングでは、「人間関係の悪化」による離職が起きないように、社員が新入社員だったときに受けたSPIのデータを活用している。データを基に、「仕事の任せ方が挑戦的か堅実か」「コミュニケーションスタイルが論理的か感情的か」という2軸で評価した上で、社員の性格を「創造重視タイプ」「調和重視タイプ」などと4つに分類し、新卒学生と、学生が配属される可能性のある組織長を同じグループに振り分け、上司と新人のタイプが同じになるように配属している。 ここで挙げられた施策はどれも一般的なもので当たり前といえば当たり前なことであるが、今一度従業員に対し向き合い、自社が上記取組に対して丁寧に取り組めているのかを一度振り返ってみる価値はあるのではないだろうか。  マーケティングの世界では、最近デジタルマーケティングが大きく進歩を遂げており、ビッグデータに基づいた一人一人の顧客に対する個別のマーケティング施策が求められてきているが、人事の世界でも採用・定着の両面に対する施策として、従業員を“顧客”として一人一人個別に捉え、その一人一人の“顧客”に対してそれぞれの解決したい“ジョブ”を丁寧に見出しながら(時には、ファーストリテイリングの取組のようにSPIデータなどの個別データも活用しながら)会社としての解決策を提示していくことが、人材不足解消に向けて重要になってくるのではないだろうか。

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