2008.02.25
ついに来日した毒入り食材、さてさてどうしよう
国内の食品偽装問題が一段落ついたかと思った矢先、ついにというかやはりというか、中国発の輸入食料に重大な問題が発生した。冷凍餃子に有機リン酸系殺虫剤に含まれる成分が混入され、それを食べた日本人が命の危険にさらされるという事件だ。その後、問題が収束する前にサバへの農薬混入事件も発生し、しばらくは収拾がつかない状況となっている。日本の国民の安全が脅かされた事件であるにもかかわらず、日本の司法の手が及ばない他国での話であり、捜査も遅々として進んでいないような印象でいらだちを感じる。
元々、中国食材に関しては、日本では許可されていない農薬の使用や土壌や水質の汚染、さらには国民性や反日感情なども相まって、その安全性への疑問が指摘されていたが、今回のケースは意図的に農薬が混入された可能性もあり、やっかいな問題に発展しそうである。この事件の発生で、日本の食糧基盤の脆弱性がいよいよ待ったなしの段階にきていることを実感させられた。ここでは、日本としてどのように対処すべきかを考えてみたい。
そもそも日本の食糧自給率は50%に満たないレベル(カロリーベースだと39%)であり、食糧の60%以上を海外に依存しなくては、日本人は生きていけない状況なのである。ちなみに韓国も40%前後で日本とかわらない。食糧の最大輸入先は米国であり2位は中国である。日本はこの両国から食料の約40%を輸入している。ちなみに米国からは穀物類や畜産のための飼料などの食材の輸入が中心なのに対し、中国からは調整食材や加工食品、冷凍食品などの人的加工を行った食品を輸入しているのが大きな特徴である。もちろん中国からは生鮮食品も大量に輸入している。中国には日系の食関連企業も多く進出して現地生産を行っており、主に日本人のために中国の安い人件費を使って、日本向け加工食品を作り輸出しているのである。今回の農薬混入があったのは、純粋な中国資本の企業である。
ちなみに海外から入ってくる食糧や食材には、なんらかの薬剤が使用されていると考えたほうがいい。監督官庁が認可している薬剤であった場合、その残留値が基準以下であれば問題なく輸入できる。また今はやりの遺伝子組み換えの食材を使った加工食品なども、わからないように入ってきている。米国で作付される大豆の74%(2002年)は遺伝子組み換え大豆だ。日本は大豆の約70%を米国から輸入している(2004年実績)。もちろん主に豆腐加工用に遺伝子組み換えをしていない大豆も輸入しているが、その比率は少ない。食材に気を使っている家庭であれば、豆腐は国産の遺伝子組み換えでない大豆を原料にした豆腐を購入しているだろう。しかし遺伝子組み換え大豆を飼料として与えて飼育された肉を食べていれば、間接的にではあるが遺伝子組み換えものを食べていることになる。飼料まで明記してある肉は皆無だ。
米国の遺伝子組み換え大豆の最大の輸出先は、意外かもしれないが中国だ。中国は大量に遺伝子組み換え大豆を輸入し、加工食品に変えて自国での消費に加え、海外もちろん日本にも輸出することになる。大豆を主原料とした豆腐や醤油そのものであればわかりやすいが、大豆から生産する調味料などが入った加工食品となると、もはや何を使われているかを特定することはできない。そういった予期せぬ食材が加工食品などに形を変えて大量に入ってきている。また国内の飲食店などでは、大豆の産地まで明記してある店はすくない。いくら気をつけても、何を食べているかは定かではないのが、今の日本の食べ物であり、日本人が置かれている環境なのである。
そもそも日本の食糧問題の根本は自給率の低さに尽きるが、安価な外食や加工食品に頼ることをよしとする日本人の食に対する意識の変化にも原因はある。その要因はいくつか考えられる。バブル期から日本人の高級志向、外食指向が加速したが、バブル崩壊以降は長期的な賃金の下降傾向から、外食指向はそのままに低価格指向にシフトされた。消費者は外食産業に安さとおいしさの両立を求め、100円ハンバーガーや290円牛丼、一皿100円回転寿司などが出現した。そういった消費者のニーズにこたえるため、外食産業は低コストでの食材の調達と人件費抑制のために手間のかからない店舗運営を追求することで利益をだすことになり、海外で食材の調達し海外で加工したものを、店舗の厨房で簡単な調理をしてテーブルに並べるという方法が確立されたのである。ファミリーレストランや居酒屋チェーンなどで行われている手法だが、その方法でなければ今の安さは実現できないだろう。国内の人を使って手間をかければ、その分コストもかかるのである。
また男女雇用機会均等法の施行を契機とした女性の社会進出や、持家志向からの住宅ローン返済などで、共働き世帯が増えたことも要因の一つだ。女性が社会に進出しても家庭での家事がなくなるわけではない。そのため、家庭での炊事などにかかる時間の短縮が求められ、結果として出来合いの惣菜や冷凍食品などの簡単な調理で済む加工食品の需要が急増することとなった。
こういったことから加工食品の輸入が増大しているが、この背景には海外の労働力を活用しても十分にコスト的に通用するほど海外の通貨に対して円が強くなったことが大きい。海外で加工したほうがコストがかからず、国内で手間をかけるほうが結果的にコスト高になる。この結果、自宅で食材を加工して食事を作るという行為自体が時間も手間もかかり、外食や加工食品のほうが楽で安価という状況がつくりだされた。そして気が付いてみれば日本の台所機能はお隣の中国や東南アジア諸国が担っているという結果なのである。
核家族化が進み女性が働きに行くことが多い現状の中で、たとえば朝から手間暇をかけて朝食を準備するのは大変なことであり、より手軽に美味しいものが手に入ればという気持ちはよくわかる。しかし日本人が手に入れる手軽さや便利さの裏には、中国などの低人件費の国の労働力によって支えられている現実がある、いわゆる"手間のシフト"が行われているのである。
手間のシフト先は、もともと"なんか危ない"と思っている国であり、そこに頼んでいる以上どんな食べ物が入ってこようが文句を言えたものではない。自分たちがすべきことを他人に任せ、自らが行うべき検査を怠ったために問題が起こってしまい、文句を言っているようなものだ。自分たちの生命の根源である食品が、どのような過程を経て供給されているかにまったく関心を寄せない日本人の全体への警鐘でもある。
そしてなにより中国を怒らせて日本に食べ物が入ってこないようなことになったら、一番困るのは当の日本人なのである。それこそ、戦国時代に秀吉や家康が好んで使った兵糧攻めを、中国がいとも簡単に仕掛けることができる状況にまで追い込まれているのである。米国と中国の手のひらの上で創られた偽の繁栄の上で、日本人は飽食時代を謳歌している。
さて今回の事件に対して、日本はどうするべきなのだろうか?。テレビ朝日の昼の番組でコメンテーター黒鉄ヒロシ氏が言っていたことをそのまま引用したい。
このまま中国との関係を壊さないように、今回の事件はおおごとにせずに済ませてしまう。これからも何事もなかったかのようにせっせと中国からの食糧を輸入し続けながら、国家の仕組みとして輸入食物を監視し、危なそうなものは破棄し国民が口にしないような検査体制を確保する。そして何十年かかるかはわからないが、無駄に使われている税金を見直して、もう一度国内での食料の自給促進、農業政策に振り向け、自給率を可能な限りあげることである。そのためには農業人口の若返り化と農業のビジネスとしての優良化(たとえば政府が向こう40年の補助金によるバックアップを保証するなど)を図り、民間資本を投入する。
荒れ果てている農地をもう一度耕し、豊潤な実りをもたらす大地に変えていくことが重要だ。そのためには日本人の食に対する考え方も変えることも必要だ。日本はいつまでの強い国ではないことを知り、安全で安くて美味しいを成立させるのは不可能だということを肝に銘じることだ。国民が覚悟を決めないといけない。国内生産の作物ではコスト的には米中物には敵わないだろう。しかし高い国内産作物を、安く流通させるように国家がサポートしなければ、永久に自給率はあがらない。フランス(食料自給率130%!)をケーススタディとし、長期政策として腰を据えて食糧自給率を上げることにまい進し、いつ兵糧攻めにあっても問題ない国家の形態を整える。
今できることはできるだけ騒がずしたたかに隣国と付き合っていく、そして食糧自立のためにシナリオをきちんと描いて実行する、それが国家としての賢明な行動だろう。