2018.04.26
観光立国を目指すニッポン、期待される北海道と沖縄の戦略的活用
かつては、モノ作りで栄華を極めたニッポンですが、製造能力やコスト競争力を武器に急速に台頭する新興国の存在や、高齢化と人口減少に当面は歯止めがかからない状況もあり、今後もモノ作りでの繁栄は厳しいと言わざるを得ず、他の稼ぎ頭を育成することが求められています。金融やITなどの高付加価値型の産業育成に力をいれることはもちろんですが、観光業にも白羽の矢が立てられています。
ニッポンは自然資源や歴史・文化遺産の宝庫であり、世界でも有数のテーマパークをいくつも抱え、衛生面・安全面でも世界で折り紙付きです。なにより、世界的に観光業が成長していることもありますが、地方の活性化にもつながる産業であることを考えても、ニッポンが観光立国を目指すことは、成功が見えやすいわかりやすい施策だといえます。
現在は国家をあげて世界中からの観光客を誘引すべく、様々な取り組みを始めていますが、ニッポンが観光立国になって行く過程には、いくつかの障壁があると言われています。その中でも「アジア以外からの観光客が少ない」、ということは特に重大な要素で、アジアだけでなく欧米、豪州、中東からの観光客を増やしていかなければ、観光客数の増加にも早々に歯止めがかかってしまうでしょう。
そのため、東京オリンピックやカジノ、大阪万博などを誘致し、まずはニッポンを訪れるというきっかけを作るということで、わかりやすく効果が見込める様々な施策を講じています。このような世界的なビッグイベントの開催はニッポンを訪れようという強い動機付けだけでなく、世界中にニッポンの様子が配信されることで、ニッポンに興味をもってもらう機会も増大します。また実際に訪日した外国人は、ニッポン国内の様々な観光地、独自のカルチャーや食文化、諸外国と比べて犯罪が少なく清潔で安全な環境など、ニッポンの良い面に触れ、その後何度でも来日したくなるような“ジャパンフリーク”を作り出すことを狙うことになります。
しかし、「アジア以外からの観光客が少ない」ことの最大の理由として、ニッポンは遠くて辺鄙な場所にあり、渡航するのにとても時間と労力がかかることがあります。欧米中心の世界地図では、右端に記され、そのエリアが「Far East」と呼ばれていることも、日本の遠さを印象づけていることと無縁ではないでしょう。世界の大都市周辺に住んでいなければ、日本への空路の直行便はなく、何度もトランジットしなければ日本の観光地まで到達できないことも、「遠い」というイメージの形成につながっています。この「遠さ」、「渡航の困難さ」というイメージを払拭しないと、世界中から観光客を呼び込めるようにはならないでしょう。
日本の航空行政は、羽田、成田、関西を中心に考えられているので、海外からの渡航客(ビジネス客、観光客)は、まずは東京圏、大阪圏の空港に降り立つことになります。ここから日本中の観光地に散っていくわけですが、同空港はすでにキャパシティオーバーで、来日した観光客を国内に送り届けるための航空路線を十分に発着させることができません。この旅客需要を狙って、香港、台北、北京、上海、仁川などの国際ハブ空港から、日本の地方空港へのルートを整備するLCCも少しずつ増えてきましたが、これもトランジットを増やす要因になっています。例えば北米の地方都市から北海道のスキーリゾートへ向かうとすると、ロサンゼルスなどでトランジットし、成田か仁川を経由して新千歳に降りることになります。トランジットには、すくなくとも2時間程度の待ち時間があるので、3回も飛行機に乗り、2回も待ち時間を過ごすのであれば、ニッポンは断念して手軽に行けるカナダにしようという観光客も多いことでしょう。
また、羽田、成田、関西からの国内線の不十分な整備により、海外からの観光客消費の60%が、東京・京都・大阪に集中するという弊害も生じています。
日本が観光立国になるためには、まずは、「遠い」というイメージを払拭できるかにかかっています。「遠くても、時間がかかっても行ってみたい」と考えるのは、一部のマニアックな観光客層で、マジョリティは便利で楽に到達できる場所を目指します。そこで、できるだけトランジットを少なくして、日本の主要観光地に到達できるような仕組みを考えてみたいと思います。
第一に、既存の空港をカテゴリー分類して、新しい空港整備体系を構築します。カテゴリー1がビジネス需要と首都圏や大阪京都圏への観光客需要を賄う羽田・成田・関西空港、カテゴリー2が観光ハブとしての機能を強化する北海道の新千歳空港と、沖縄の那覇空港、カテゴリー3がその他の地方空港という具合です。この観光ハブ化するカテゴリー2を中心として、海外の主要都市や国際ハブからの直行便を積極的に受け入れることにより、他の国際ハブ空港でのトランジットを減らすことを狙います。また、近隣のアジア客の誘因のために、海外の地方空港からのLCCの受け入れも行います。さらに、日本全国の地方空港には、国内LCC網を構築し、国内への移動を楽に安くできるようにし、観光ハブを拠点として日本国内への観光客需要を満たすように整備します。
ニッポンへの渡航客のほとんどを北海道、沖縄に降ろすこととした場合、現在の両空港の数倍の客数を捌けるよう、新千歳、那覇空港を大規模空港として整備し直す必要があります。すくなくとも滑走路は3本まで増設し、着陸回数を大幅に増強します(現在は、新千歳空港約72,000回、那覇空港約80,000回、羽田空港約224,000回)。遠距離の直行便の離発着に耐えうるように、滑走路の延長、さらに世界最短のトランジット時間を実現できるような誘導路の整備、ターミナルビルや荷物の仕分けシステムの工夫も必要でしょう。もちろん24時間化は必須です。
これによって、海外からの渡航客のトランジット回数を減らすことができ、これまでの「遠い」「時間がかかる」というイメージのかなりの部分を払拭することができるはずです。
また、空港内の宿泊施設やショッピングエリアなども建設し、法整備次第ではカジノの併設も可能かもしれません。まさに空港そのものが観光地になり、とてつもない雇用を創出できる可能性を秘めています。
観光客が減ることになる羽田・成田・関西はキャパシティに余裕ができるので、LCCの活用を前提として、ニッポン全体の最適な空路設計ができ、意図通りに観光客を誘因できれば、地方の観光地や地方空港の活性化にもつながります。
なお、両空港を観光ハブの候補として適切だと考える理由は、両空港ともに拡張の余地がまだまだ残されていること、世界的なリゾート地として有名であり、今後のリゾート開発でも中心的な存在になることは間違いないこと。なにより、地政学的位置が絶妙だということです。世界地図で東アジア諸国の位置関係を見ると、どの国の主要都市(北京、上海、台北、香港、ソウルなど)にも近い位置にあるのが沖縄です。アメリカ空軍が沖縄嘉手納に基地を置くことで、東アジア全体に睨みを利かせている意味もよくわかります。また、北米から仁川や北京、上海への直行便のほとんどは、北海道の上空を通過しています(地球の形状から最短距離を通るため)。北海道を中継点にすることは特に遠回りにはならず、位置的には理にかなっているといえます。
この施策のデメリットとしては、北海道、沖縄の環境悪化、カテゴリー2に選ばれなかった地方との格差が広がるなどの懸念があります。また、北海度エリアは、冬期の積雪で滑走路が閉鎖されることがあります。沖縄エリアは米軍機の離発着が優先であること、民間機が入れない空域があるなど、より多くの発着を受け入れるには、管制方法が難しくなります。
ちなみに、滑走路の除雪は、雪国では普通に行われている地下水による融雪設備を敷設することで対応できます。米軍との空域交渉は改善の余地はないと思われるので、米軍機の空域をうまく避けるような滑走路設計や管制システムを整備するなどで対応する方向になるでしょう。国家の重点戦略として観光立国を目指す以上、この施策を取り入れるのであれば、創意工夫や技術開発によってこれらのデメリットは早期に解消・妥結したいところです。
この施策は一見したところ荒唐無稽に思えるかもしれませんが、すでに羽田・成田がキャパオーバーで、新規の直行便の受け入れが難しく、LCCを使った移動モデルに対応できる状態にはないこともあり、航空行政を戦略的に見直さないと、年間3000万人の観光客を受け入れることが難しいことは容易に想像がつきます。ニッポンは新幹線網や高速道路網など、世界にも類を見ないほどの交通網が張り巡らされています。それらを観光客が駆使して日本中の観光地を巡って楽しんでもらうためにも、効率的にニッポンに来てもらう方法を考えることは、その第一歩であると考えます。
マンデー