2018.06.04
演劇から見えてくる組織論
先週の土曜日、普段から付き合いのある役者友達の芝居を観劇しに、高田馬場にある小劇場まで足を運んできた。コメディの中にヒューマンストーリーを織り込んだ劇の内容はとてもおもしろく、役者たちの芝居の熱量を生で感じられる小劇場の舞台は良いものだなと改めて感じることができた。
舞台観劇をあまりしたことがない方はなかなか想像が難しいかと思うが、舞台の良さはその熱量が伝わるライブ感にあるといっても過言ではない。一人一人の役者が個々の持つ力の最大限を“その場、そのとき”にぶつけ、さらに、音響や照明、舞台美術などのスタッフも個々の能力を存分に発揮し相乗効果を出すことによって、1度きりの舞台は完成度が高まり観衆に感動を与えることができる。先の舞台でも、座長の方が「これからやる舞台は、1/10ではなく、今日この場にいる皆様だけのためにやらせていただく1/1の舞台になります(その公演は全10回公演だった)」と前説で口上を述べていたが、舞台であることの妙はまさにそこにあるのだと思う。小劇場だと、舞台と観客の距離も近く、なおさら熱量を感じられるという良さがある。
舞台からの帰り道、ふと最近読んでいた組織論に関する書籍の内容が頭をよぎった。
それは最近マネジメントの分野で売上1位を記録し、一般書籍を含むランキングでも上位に入ってきている「Teal組織」という本だ。有名な書籍なので既にご存知の方も多いと思うが、改めてその概要を紹介したい。
本書では、組織の進化論の中で、組織の進化形態を5段階で区分しそれぞれの特徴を表現しながら、現代の多くの会社において存在している目標達成型組織の次の組織モデルとしてTeal組織というものを提言している。その5段階の組織形態について簡単に説明する。
- Red組織(メタファー:オオカミの群れ)
特定の個人の力によって支配される組織であり、成果獲得の時間軸も短期的。 - Amber組織(メタファー:軍隊)
厳格な社会的階級によるヒエラルキーによって情報を管理し、指示命令系統が明確な状態で運営される組織。Red組織よりも長期的な展望を重視し、組織の安定性を計画的な統率により可能にする。 - Orange組織(メタファー:機械)
一定程度のヒエラルキーを持ちながら、成果を上げた従業員が評価を受け、出世することができる組織運営スタイル。Amber組織に比べ、能力発揮が階級による制限を受けず、変化対応や競争に強い組織となる。 - Green組織(メタファー:家族)
ヒエラルキーを残すものの、人間らしい主体性が発揮され、個人の多様性が尊重される組織運営スタイル。Orange組織より、風通しも良くメンバー同士のコミュニケーションも闊達な組織となる。 - Teal組織(メタファー:生命体)
Green組織以前のように組織が社長や株主のモノではなく、一つの生命体として、メンバーがその「組織の目的」に向けて常に成長進化を続けるために、共鳴しながら関わり合っている組織。
また、Teal組織であるためには、以下の3つのエッセンス(“ブレークスルー”)が必要だとされている。
- Evolutionary Purpose(進化する目的)
組織が生命体として常に進化を続けるため、組織の目的自体も進化していくこと - Self-management(セルフマネジメント)
情報の透明化や意思決定プロセスの権限委譲などで、メンバー全員が真に主体的に関われる状態にあること - Wholeness(ホールネス:全体性)
個々のメンバーの能力・個性がすべてさらけ出され、発揮できていること
このTeal組織の組織進化論の重要なポイントは、Teal組織以前(4まで)は“組織”が先にあった上で“ヒト”が捉えられているのに対し、Teal組織(5)では“ヒト”ありきでの“組織”に大きくパラダイムシフトしている点だと推察する。逆説的に言うならば、個々の“ヒト”がどうあるかでTeal組織として機能するかどうかが大きく変わってくるのではないだろうか。そういう意味で、Teal組織を実現するための“ヒト”の要件として、以下のようなことが考えられる。
・参画する組織の目的に共感し、その組織を成長させる意欲があること
・個人の専門性を確立し、リーダーシップを発揮していること
・多様性を受け入れ、コミュニケーションを拒絶しないこと
ここで最初の話に戻るのだが、上記内容を踏まえると、真に素晴らしい演劇を実現している劇団というのは、役者・スタッフ含め、個々のメンバーが舞台の成功という目的に対し、“ヒト”としての個性・能力をぶつけ合い相乗効果を最大化しているTeal組織であるといえるのではないだろうか。そこでは進化し続ける劇団としての目的が共有され、おのおのが一人のプロフェッショナルとしてその組織に参画し、多様性を尊重しながら共鳴し関わり合っている。そう考えると、スポーツや芸能などの領域では、より個々のメンバーの能力が重要視されるため、ここで語られている組織進化論の実例を様々なケースで学ぶことができる。
たとえば、昨今騒がれている日大アメフト部は上位者の発言を忖度してメンバーが動くAmber組織であったと推察できるし、AKB48は総選挙によって明確なヒエラルキーを確立し、その中で実力が認められたメンバーが活躍される機会も与えられるOrange組織といえる。また一方で、ジャニーズなどは全体としては、ジャニー喜多川をトップとするヒエラルキーが確立されたOrange組織でありながら、その中の個々のグループは、多様なメンバーの個性を活かし、家族のように組織運営がされるGreen組織であるといえるのではないだろうか。
AIが普及し、個々の働き方が変容している昨今の変化の中で、まだまだTeal組織の考え方は世の中に出始めたばかりであり、あらゆるビジネスの現場でも社会的価値を最大化させるための組織のあり方が一つの重要なイシューとして模索されている。最近ではPanasonicやSonyなどの大企業でも既存ビジネス領域では成長限界を感じており、イノベーションが求められている。その1つの解がTeal組織という考え方をヒントに導かれるのではなかろうか。Teal組織を築く上では、トップダウンでの労働環境に関する制度改定と風土改革、個々のメンバーのリーダーシップとスキル発揮が求められるだろう。一つの領域に囚われずあらゆる領域での組織形態の変容をベンチマークしながら今後の“ヒト”が形成する社会にとって最も良い組織形態とは何なのか、今後真にTealな組織というモノが出てくるのか、その趨勢を見守りたい。
参考書籍)
フレデリック・ラルー (著)
「ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」
ハッピーホーム