PMI Consulting Co.,ltd.
scroll down ▼

2018.10.01

アカシアの一対一路

五月の大連は美しい。明日からはアカシア祭か……と思いながら、槐花大道と呼ばれる並木道を歩いていると、通りは、それを待ちきれないかのように人々が溢れ賑わっている。アカシア祭りのアカシアとは実はニセアカシアのことで、つまりは針槐のことだ。5月の大連市街はいたるところで針槐がいっせいに白い花を咲かせ、ここ槐花大道も甘い香りに包まれている。

 

ところで、私の祖父はバレエダンサーだった。明治生まれの大正育ちで、曾祖父が一代で築き上げた菓子屋の大店の一人息子だった。それが、店の跡も継がずバレエダンサーになると言い出して、妻子を残して東京に出ていったものだから、当然のことながら曽祖父から勘当される。やがて祖父は、興行のために、バレエダンサーとしてこの地、大連に立つ。結局、夢半ばにして、この地で鬼籍に入ってしまうのだが、そんな地縁が呼び寄せた旅だった。

 

とても天気が良かったので、私は南山まで足を延ばした。大連にいくつも残る旧日本人街の一つだ。海を見押す高台のベンチに腰掛けて大連の街を見渡すと、大連は大きかった。道幅も何もかも、都市としての規格が日本とは桁違いで、街路樹の豊かさにも圧倒された。いたるところには針槐の巨木が連なり、生い茂る葉は通りにアーケードをつくっている。木漏れ日に佇む煉瓦造りの家々には薔薇の花が咲き誇り、どこまでも美しい景観が続いている。開発も進んでいて、巨大な高層住宅群やオフィスビルも壮観だが、その一方で戦前の古い邸宅も多く残されていて、どこか懐かしい。

 

すると、大陸の広大な景色の中に、いくつもの青い光の道が見えてきた。北はハルピンからモンゴルへ、そしてロシアへと続いている。南は上海をはじめとする海岸沿いの巨大な都市群を貫いて南シナ海へ、そこからインド洋へと続いている。西は中央アジアを経てヨーロッパに続き、東は朝鮮半島を見渡して日本へと続いている。なるほど、大連を南端に置くかつての満州の、地政学的な意味が感じられる。

 

2007年から、中国版世界経済フォーラムとされている夏季ダボス会議が大連と天津で毎年交互に行われ、それが後押しするように、ここ大連では、北東アジアの国際航運センターや、国際物流センターや、地域金融センターなどの建設が進み始めた。

2013年に習近平主席が打ち出した一帯一路の構想が、2017年の共産党大会で中国の国家路線になると、この地の重要性は更に高まったように思える。

大連ソフトウェアパークを含む旅順南路ソフトウェア産業ベルトに巨大な市場を創出し、税制の優遇や人材育成のための資金提供を通して、豊富な資金力を持つ世界各国の大手ITベンダーを呼び込む計画も進んでいる。1社当たりの支援総額は1000万~2000万元ほどになるという。

そんなことをとつおいつしていると、かつて日本にも富をもたらしたシルクロードの活況がよみがえり、大連も要衝の一つとなる気がしてならない。新しい主役はIT産業だ。

 

欧州や中国のITベンダーが集い、新しいビジネスチャンスの蜜に群がる蜜蜂のごとき活況は、この街を訪れれば肌で感じることができるのだが、日本のITベンダーは大きく出遅れているようだ。

何人かのITベンダーの幹部と話をしてみたが、大連というよりは、中国に対する漠然とした印象があるのだろうか、慎重な意見が多かった。しかし、一言で中国といっても中国は広い。そして大連は、中国の中でも色々な意味で日本に近い。

例えば大連には、中国で唯一の中日文化交流協会がある。なぜ大連なのかというと、大連のある遼寧省を含む東北三省には、戦前多くの日本人が移り住んでいて、その子孫は今も多く、日本の文化にも馴染みが深い地域だからだ。また大連には、80年代の後半から90年代の前半にかけて、日本企業の投資が増えていたこともあり、日本語教育を行う機関が集中していた時期があった。今では英語が主流だが、日本語を使えるビジネスパーソンは少なくない。この土壌は、日本企業にとっても魅力があるはずだ。

 

公園のベンチから腰を上げて振り返ると、そこにも、たわわに花をつける針槐の木がある。針槐の花は、ひとつの花茎に沢山の花を集める房花だ。私はその一論を摘みとって口に含んでみた。香りの印象そのままの、甘い蜜の味がした。

 

方丈の庵

Recruit

採用情報

お客様と共に成長し続ける新しい仲間を求めています

Contact

お問い合わせ