2008.04.08
残念ながら消費期限切れです
首相の諮問機関でもある国民生活審議会は、「食の安全」などへ向けた報告書を3月末にまとめたようだが、その内容はどうだったのか。3月初旬に、一消費者として関心を持ってその動向を見ていた。現存の製造年月日表示、「消費期限」と「賞味期限」の2種類の食品表示のわかりにくさなどが消費者から指摘を受けており、これら食品表示を見直し、「消費期限」と「賞味期限」は「消費期限」に一本化する方向で政府が調整に動き出した。このことは評価していたし、いち早く実現すれば首相が打ち出した「消費者目線の行政」は、新しい政府の行動指針となるのでは?との期待もあった。 そもそも、消費期限に統一する背景には、ここ数年の食品製造業者の偽装事件であることは誰もが理解している。偽装問題では、賞味期限が切れているのに、まだ食べられるという理由で、企業が商品を再利用したことが、明らかに法令違反だった。この事から、賞味期限に対する企業と消費者の認識に対する見直しがなされた結果、消費者は「消費期限」と「賞味期限」の違いについて正しく理解していない事が判明したというものだ。無論、企業はこの違いを理解していた。 私たち消費者は、「いつ製造されたのか」について、その意味するところに理解の差はない。しかし、「いつまで食べられるのか」について、「消費期限」と「賞味期限」でどう違うのかを訊ねられれば、やはり答えに窮する。確かにこの二通りの表示があることをよく認識していなかった。恐らく、偽装問題がこれほどまでに社会問題化されるまでは。 当初、国民生活審議会の考えでは、製造年月日の併記も義務付け、消費者が理解しやすい仕組みをつくる方向を示し、二つの表示方式を改めることを目指すとしていた。しかし、議論の過程で「消費期限方式だけでは返品や破棄処分が増える」といった食品メーカー側を代表する意見に対して、解決策を見いだせなかった様子が伺える。確かに、生鮮食品や総菜などに限っていた消費期限の表示が他の商品等にも広がる可能性はあるが、報告書には具体的な商品名に触れる事もなかったようだ。「いつまで食べられるか」という私たち消費者にとって、最も必要な表示情報がどこまで適用されるのかは不明のままである。また、消費期限の記載と同時に、製造年月日の併記についても「輸入障壁になる可能性がある」ということから努力目標にとどめてしまった。要は国内外の食品メーカー側との調整力不足が露呈した格好だ。 中国の毒入り餃子問題は、消費者の食に対する関心を異様なまでに高めた。しかし、その消費者の安全と安心を守るために必要な、原産地表示に関する表示も今のところ義務化される動きはない。そればかりか国民生活審議会の報告書は「いつの時点で見直しが実現するか」も盛られないままに、4月4日に福田首相に提出された。 そんな中、広域量販店をはじめとした食品を扱うスーパー各店では、自ら原産地表示の工夫をはじめている。最も消費者目線で動いているのは販売の現場だ。法の見直しを待っていては顧客を逃す。今、安全に口にできる食品を買いたい顧客ニーズに応えるために懸命に努力している。スーパー各店は、今そこにある危機に対し、即断し行動している。それが民間企業のスピード感だ。政府のような動き方をしていたら、あっというまに市場からはじきだされる。今の政府の動きを見ていると、日本政府は世界の流れからはじき出されはしないかと別な不安さえ感じてしまう。 食品表示問題を、「消費者目線」で解決を図ろうとするのであれば、少なくとも「いつまで食べられるか」をはっきりと表示させることが先決だ。政府に頼るには時間がかかりすぎる。最も即効性があるのは、顧客接点の最前線にいる流通業者がリーダーシップをとることだろう。広域量販店と大手コンビニエンスチェーンが協力して、「店頭で販売する食品を、おいしく、安全に食べるための表示方法」を既存の法令を遵守する範囲内で、独自の工夫をしてみてはどうか。たとえば、「この商品を安全に食べるための目安は、開封せずに冷蔵庫で保管した場合で、○年○月○日までとなります」、更に「この商品をおいしくに食べるための目安は、開封せずに保管した場合で、○年○月○日までとなります」とW表記にすることまでは、対応可能ではないか。少なくとも、わかりやすくすることはできる。流通業各社にこそ期待したい。 アーリーバード
しかし、国民生活審議会の報告書には期限表示方式の一本化などは盛り込まれなかった。首相の「消費者目線の行政」は早くもエンスト状態だ。
日々買い物をしている私たちのほとんどが、加工食品を買う時に「いつ製造されたのか、いつまで食べられるのか」を気にしている。スーパーやコンビニに行って、手前の商品と後ろに置いてある商品の製造年月日が違う事などは、誰もが知っている。パンなどを買う時に、陳列棚の後ろにある商品と手前の商品を手にとって比較して、製造年月日の新しい方を買った事はないだろうか。私の場合、生クリームなどが使われているチルド品は、100%チェックしていると言ってもいい。チェックしているのは主に製造年月日だ、コンビニエンスストアや、大手スーパーでは賞味期限切れの商品は棚から外すというオペレーションをしっかり守っているので、買う側は製造年月日をチェックしていればほとんどの場合問題ないはずだ。余談ではあるが、田舎の商店に行って賞味期限切れの菓子パンをレジに持って行き、それを指摘したら、「私たちは毎日賞味期限切れの商品を食べているが、全く問題ないから大丈夫」と言って売りつけられてしまった経験がある。勿論、半値に値切っての話ではあったが、お腹がすいていたので、かなりおいしく賞味させて頂いた。体調も問題なかった。
「消費期限」と「賞味期限」の表示は、日本農林規格法(JAS法)と日本食品衛生法の法律にまたがって定められており、各法律の所管が、前者は農林水産省、後者は厚生労働省だ。更に、期限以外にも原材料や原産地の表示はJAS法、添加物やアレルギー物質の表示は食品衛生法によって定められている。その上、これ以外にも健康増進法、景品表示法も関わってくる。当然ながら、それぞれの担当省庁は別に存在している。ということは、商品表示に関するクレームを入れる場合、表示内容の何がクレーム対象になるのかを知っていないと、例によってタライ回しになる可能性が高い。この問題は、商品表示と縦割り行政にあることは明確で、その解決策を国民生活審議会が担うはずであった。食品表示にかかる法律を一つにまとめると同時に、食品に関する消費者からの情報を1か所に集約する仕組みづくりが期待されていたのだったが、省庁をまたがる協力体制の構築には時間と調整力が不足したようだ。そこを押し通すだけの理由が今回は揃っていたはずだが・・・。
「消費者目線の行政」は、われわれ一般生活者にとって非常に耳触りはいい。しかし、掛け声をかけた当事者達は、「消費者目線」になる真意を全く理解していない。消費者目線から行政を捉えなおすのであれば、そのアクションにはスピードとハードネゴシエーションはつきものだ。更に当事者達には、強い信念と情熱が伴わなければ、各省庁の厚い壁に押し潰されるだけだ。どうも今回の「消費者目線の行政」は思いつきの感が否めない。ならば、即エンストも当然の成り行きだ。
因みに、消費期限の定義は「開封せずに正しく保存した場合に『安全に』食べられる期限」で、賞味期限は「開封せずに正しく保存された場合に『おいしく』食べられる期限」だ。
今の政府はとうに消費期限が切れている。