2008.06.17
“ジェネリック医薬品”その期待と不安
医師の診察を受け、会計を済ませた後、処方箋を調剤薬局に持っていく。病院に行って薬を受け取るごくあたり前の作業だ。ところが、先日調剤薬局で薬を受け取る際に、先生が指示した薬ではなくジェネリック医薬品を薬剤師から勧められた。 ジェネリックは、高齢化社会に突入したことによる医療費増加の抑制策として、国も大きな期待をしていた政策の一つだ。しかし、その目論見に反し、ジェネリックの普及率が上がらなかったため、しびれを切らした厚労省は、ジェネリックの普及率を高めるために、保険医療従事者の「療養担当規則等」を改正した。改正内容のポイントを見てみると、医師にはジェネリックの使用を求め、薬剤師には患者への説明と調剤を求めている。 しかし、何故当初の思惑どおりにジェネリックの普及率が高まらなかったのか?よくよく調べてみると、製品の品質や製品情報の提供などにおいて、まだまだ不安要素があったことが原因のようだ。そのことがあって、医師や薬剤師がジェネリックを積極的に取り扱わなかった。その不安要素とは何か?私たち生活者こそ、知っておく必要がある。 まず、知っておかなくてはならないのは、ジェネリックは厳密に言うと新薬と全く同じではないということだ。確かに有効成分は同じだが、製造工程の違いや、薬を成形するために使用する添加物も同じではない。専門家によると、厳密に言えば効果の表れ方にも違いが出てくるという意見があり、実際に効果のあらわれ方に差があったという報告もなされている。 このような状況の中で、医療現場で最も問題視されていることは、「ジェネリックに変更した患者に副作用が出た場合、その責任の所在は誰にあるのか」という事である。 では、医薬品に関する知見を殆ど持たない私たち生活者は、ジェネリックとどう向き合えばいいのだろうか? そうなると、ジェネリックの普及のカギを握るのは、やはり医療機関=病院と調剤薬局ということになるのではないか。そこで、医療機関に是非とも提案したいことが2つある。 副作用もなく効果も全く同じであればジェネリックの普及には大いに期待したい。だが、今は問題を孕んだままにジェネリックを受け入れざるをえない。 アーリーバード
『ジェネリック医薬品(以下ジェネリック)は、新薬の特許期間が満了後に発売される医薬品で、新薬と同じ有効成分を含んだ医薬品である。』
もちろん、薬剤師からはジェネリックは医師の指示した新薬と同じ成分で製造された薬であることと、患者にとっては費用負担が軽減させるなどの説明はあった。しかし、医師から受け取った処方箋を、薬剤師の判断で患者と相談してジェネリックに替える事ができる点にどこか“違和感”を憶えた。新薬よりも「安く」て「同じ効き目」があるのであれば、医師からジェネリックの説明を受けておきたいと思うのが、患者の心理というものではないだろうか。
中でも大きな改正は、医師が作成した処方箋の様式についての変更点にあった。それは、医師が出した処方箋に、新薬の指示が記してあったとしても、医師が「変更不可」欄にチェックを入れていなければ、薬剤師が患者の同意を得た上で、ジェネリックに変えられる事を可能にしたことだ。これは、処方箋の「原則ジェネリック化」ということを意味している。それ以前、厚労省は診療報酬上の「インセンティブ」を付加することで、ジェネリックの普及は高まるものと考えていた様だが、意に反して普及率は高まらなかった。
結局、厚労省 が普及率向上策として、実質上ジェネリック使用を義務化したという格好だ。これでは、薬剤師もある種の「やらされ感」の中でジェネリックを推奨することになる。となれば、“違和感”を感じたのも無理はないと思えた。
医家向け医薬品である以上、ジェネリックの承認申請において、様々な試験を行う事は言うまでもないが、「生物学的同等性試験」(人体にジェネリックを投与し、血液中の有効成分の増減を確認する)の、被験者数は20人程度だそうだ。新薬の一品目あたりの被験者数が約1200人を超えている事を考えるとその少なさがわかる。このことが、医師や薬剤師の立場からすると、副作用に関する被験者の情報量が少ないと認識されており、大きな不安要素の一つになっている。
また、医師や薬剤師の情報不足はこれだけではない。新薬であれば、大手医薬品メーカーのMR(医薬情報担当者/製薬メーカーの営業)を通じて十分な製品情報を得る事ができる。ところが、ジェネリックメーカーは、大手医薬品メーカーのように多数のMRを擁していない上に、学術情報などについても、新薬メーカーのデータの流用が多く、独自の分析情報などは殆ど提供されていない。
先に述べたように、「原則ジェネリック化」は、薬剤師が患者への推奨役を担わざるを得ず、薬剤師にその責任が問われる状況となっている。しかし、当の薬剤師は、製品に関する情報不足(副作用に関する説明責任を果たせない)という不安を抱えたまま、ジェネリックを患者に奨めなくてはならない。これは、薬剤師に与えられた責任と権限の範囲を大きく逸脱してはいまいか。
少なくとも、薬剤師が自信を持って推奨できる状況を確保するために、厚労省としても、何らかの支援策を講じる必要があることは言うまでもない。現在、厚労省はメーカーに対し、医療関係者向けに、WEBを活用した情報提供を行う様にもとめているが、医師や薬剤師の要求レベルに十分に応えられるかどうかはまだわからない。
副作用情報に不安がある現状において、最も簡単な対応策は、製品情報が十分にある新薬の処方を医師に依頼する事だ。その分、医療費は高くつくが、安全を買うと思えばいたしかたない。一方、ジェネリックを服用するのであれば、私たち一人ひとりが服用後の変化に留意し、違和感があれば、即医師と相談することくらいはできるかもしれない。だが、高齢者がジェネリックとは何かを十分認識した上で、そのような対応ができるかどうかは大いに疑問だ。
ジェネリックの普及策は、高齢化社会に伴う医療費増加の抑制策として導入されたものであり、最も多く活用してもらいたい対象者は、高齢者に他ならない。とはいえ、昨今の後期高齢者医療制度の導入実態を見ても、高齢の方々がその仕組みを十分に認識することは困難である。
第一にジェネリックの使用については、インフォームド・コンセントの延長線上であるとの認識に立ち、医師から患者への十分な説明を行う事を徹底してもらうことだ。
第二に、病院としてもジェネリックに対する情報収集に努め、医師に正しい情報を提供できる組織体制を整えてもらいたい。具体的には、ジェネリックメーカーに対して、独自の製品情報に関する提供依頼を行い、その情報提供が十分なジェネリックについてのみ、病院推奨のジェネリックとして認定するなどして、ジェネリックの取り扱い数を絞り込む。さらに、これらの情報を病院から近隣の調剤薬局に提供するなどして連携すべきだろう。そうすることで、薬剤師にも質の高いジェネリック情報が共有され、ジェネリックに対する説明責任を果たせ、結果的にジェネリック普及に一定の効果が期待できることになる。
少なくとも、これらの点がクリアになれば、医療費削減の国のもくろみと、個々人の医療費負担の軽減といった好循環が実現しやすくなるだろう。
直ちになすべきことは、国と医療機関が連携して、「国と医療機関と生活者」が同時にメリットを享受できる解決策を考え実行することだ。
そして、私たち一人ひとりも、ジェネリックに関心を寄せることを忘れてはならない。