2024.07.05
クイックフィードバックは、職場を変える魔法の言葉
部下の育成が研修任せになっている。OJTの重要性は分かるが、どのように対応すれば良いのかが分からない。部下との関係づく
りに悩んでいる。なんとなく職場に活気がない。最近、管理職の立場にある人たちから、このような悩みを聞かされることが増え
ています。そこで今日は、部下の育成に有効なOJTの手法として、クイックフィードバックについてご紹介します。
1.クイックフィードバックとは?
企業に雇用されている社員は、日々様々な課業を遂行しています。そして、課業を遂行した人に対して、その人の育成責任者
が、遂行された課業が完了した直後に、遂行した課業の出来ばえと今後の課題を伝えることをクイックフィードバックと言い
ます。クイックフィードバックは、社員の育成促進と、上司と部下の関係強化の目的で実施します。
2.課業とは?
クイックフィードバックの対象となる課業とは、下記の事例のような仕事の単位です。課業は、その遂行困難度によって等級
毎に格付し、社員の在位等級に応じて配分します。
<課業のイメージ>
・次期中計における事業部横断的な戦略課題の策定(9等級の複合的課題形成課業)
・第1営業グループにおける新規の顧客開拓に向けた課題の策定(8等級の課題形成課業)
・清涼飲料水事業における新製品の企画立案(7等級の専門企画課業)
・A社購買部長に対するB製品の規格変更に伴う価格交渉(6等級の専門判断課業)
・Cシステムの開発プロセスにおける改善点の発見と対応策の立案(5等級の応用判断課業)
課業には、下記のような、5つの意味があります。
1)戦略の実行単位
課業とは、戦略を実現するために遂行する仕事の単位であり、課業の遂行は、すなわち戦略を実現するためのチャレンジ
となります
2)職務の編成単位
課業とは、職務を設計する際の構成要素となる仕事の単位であり、社員への要求内容や要求水準に見合った課業をリスト
化すれば、 ジョブディスクリプションとなります
3)業務の改善単位
課業とは、業務改善のターゲットとなる仕事の単位であり、課業の遂行プロセスを改善することで、生産性を向上させる
ことができます
4)育成の目標単位(次に出来るようになるべき仕事)
課業とは、在位する等級や上位の等級で遂行できるようになるべき仕事の単位であり、社員にとって自己開発のための
具体的な目標となります
5)人事の評価単位(人事評価の対象とすべき仕事)
課業とは、社員が創出した成果そのものであり、課業遂行の事実情報のみを評価することによって、評価の納得感を高
めることができるようになります
尚、これまでPMIが、多くの企業で実施してきた課業分析では、大企業の管理職の場合、年間で40種類程度の課業を遂
行していました。その内、戦略的にも人財育成の上でも重要と思われる課業は、10種類程度となっていました。
3.クイックフィードバックの方法は?
クイックフィードバックをする際には、以下に示した4つの点に留意します。
1)在位等級の要求水準に基づいて、出来ばえを伝えること
「今回の課業の要求水準は、5等級で応用判断でした …」
※ このことにより、社員は今自分がどの階段(等級)にいるのかを、絶えず強く認識することができるようにな
りますし、次にチャレンジすべき階段(等級)についても、強く認識することができるようになります。
2)5段階等間隔尺度法による「評価尺度」を共通言語とし、簡潔に出来ばえを伝えること
「この課業の出来ばえは、5等級の「2(-1:途上)」でした …」
※ このことにより、社員は今自分がどのステップ(評価尺度)にいるのかを、絶えず強く認識することができるよ
うになりますし、次にチャレンジすべきステップ(評価尺度)についても、強く認識することができるように
なります。
5(+2)抜群:等級の要求水準を遥かに上回る、稀に見る抜群の出来ばえだった
4(+1)優秀:等級の要求水準を明らかに上回る、優秀な出来ばえだった
3(±0)標準:等級の要求水準を通りの、標準的な出来ばえだった
独力遂行ができた
2(-1)途上:等級の要求水準を明らかに下回る、課題の残る出来ばえだった
要点指示を必要とした
1(-2)劣等:等級の要求水準を大きく下回る、
詳細指導を必要とした
※ 基本的に、「2」→「3」→「4」の3つのステップを用いて、社員の成長を促します。
※ 「5」は上位等級相当の出来ばえであり、それが取れる社員は、本来は等級を上進させるべき
状態です。「1」は下位等級の出来ばえであり、
それしか取れない社員は、本来はまだ等級を上進させるべきではない状態です。従って、「5」と
「1」はイレギュラーな結果として扱います。
※ 尚、社員を上位等級に上進させる際は、上位等級の課業をやらせてみて、「2」が取れるように
してからとします。
※ クイックフィードバックで「4」が取れるようになった社員には、今後チャレンジすべき上位
等級の課業についても伝えます
3)次に向けた課題は、波及効果の高い1点に絞り込むこと
「次は、「3(±0)標準)」が取れるよう、この一点を克服して下さい …」
複数の課題を指摘されると、覚え切れません。
複数の課題を指摘されても、全てには対処し切れません。
一点突破を促すことで、自己開発に集中できる状態をつくることができます。
4)褒めず、叱らず、感情を伝えること
「あなたならもっとできたはずなのに、私も悔しかった …」
・褒め続けると、人はモチベーションを低下させることが分かっています。
・叱り続けると、人はごまかすようになることが分かっています。
・私も嬉しかった、あるいは私も悔しかった、というように感情を伝えることで、
相手はより強く勇気づけられ、より強く動機づけられます。
・褒めることも、叱ることも、上下関係を強く印象付けるマウント行為です。
4.何故クイックフィードバックなのか?
1)評価結果を受け入れやすくなる
人は自らの心を防衛するために、無意識に忘れる生き物であり、無自覚に記憶を改竄する生き物でもあります。例え
ば、自身が担当した課業の出来ばえが思わしくなかった場合、時間が経てば経つほど忘れて行きますし、上手くでき
ていたと記憶を改竄することもあります。そのため、評価面談などで半年も前に行った課業の評価を行えば、評価者
と評価される側の間に、意見の食い違いが生まれる可能性が高くなるのです。しかも、評価者は、時間が経てば経つ
ほど評価が低くなる傾向があり、評価される側は、時間が経てば経つほど評価が高くなる傾向があります。どちらが
正しいのか議論をすれば、両者の間に対立的な構造が生まれてしまうことさえあります。ところが、課業が遂行完了
した直後であれば、忘却も改竄もなく、事実を事実としてまっすぐに受け止めることができます。
2)育成効率が高くなる
クイックフィードバックによって、絶えず具体的かつフォーカスされた課題を提示されるため、半年に1回や年に1回
の評価者面談より、遥かに育成効率が高くなります。また、クイックフィードバックの記録を残しておけば、評価面
談自体が不要になります。
3)社員が動機づけられる
人の根源的な動機づけは、ベーシックトラスト(基本的信頼性)に応えてあげることです。ベーシックトラストと
は、例えば挨拶がそうであるように、他人に何かをしてあげたら必ず返してもらえることを信じ、他人に何かをして
もらったら必ず自分もお返しをする、といった心理を言い、ゼロ歳から1~2歳までの間に育まれる社会的なスキルで
す。クイックフィードバックは、このベーシックトラストを刺激する上でも有効です。
更に、今、何等級でどの評価尺度にまで到達したのか、次にチャレンジするのは何等級で、どのような課業ができる
ようになれば良いのかなど、絶えず自分の立ち位置を認識できるため、これもまた動機づけには有効です。
また、前述の評価面談ですが、仮にやるにしても、評価結果は日々共有されているわけですから、評価面談
の大半を、次に何をすべきかに振り向けられます。人は、過去のことを掘り返されるより、将来のことを語
り合う方に動機づけられますし、動機づけられることで育成効果は更に高まります。
4)上司と部下の関係性が強化される
クイックフィードバックは、上司が育成責任を果たす上で、シンプルかつ有効な手立てとなるため、上司も
また育成について自己効力感を得やすくなり、育成に対する動機づけが可能となります。育成に動機づけら
れた上司は、部下にとっても有意義な存在となります。 また、クイックフィードバックは、上司が部下との
間に共通言語をつくり、上司と部下との間に明確な協力関係を築きます。
クイックフィードバックを導入すると、職場は見る見る活気に溢れてきます。組織のマネジメントを任され、部下の
育成を担っている方は、是非ともお試し下さい。
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