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2008.07.22

ついに日本転落!、驚異的な経済発展を遂げたシンガポールの次の一手は

 IMF(国際通貨基金)の調べで、2007年の日本の国民1人当たりのGDPは約3.43万ドルだった。しかしシンガポールが3.5万ドルを超えることがわかり、ついに日本が長い間守ってきた経済におけるアジアの盟主の座から引きずり下ろされることとなった。ちなみに1位はルクセンブルク(10.4万ドル)、ノルウェー(8.4万ドル)、アイスランド(6.38万ドル)と続き、米国は11位で4.58万ドルである。 これまで1人当たりのGDPは、日本がアジア地域ナンバーワン(ブルネイなどの特殊な産油国を除く)の座を40年間守ってきた。戦後間もないころの日本はフィリッピンにも劣っていたが、その後の経済成長で1960年代にアジアでトップとなった。世界順位で見ても、1989年には世界3位まで上り詰め2000年までは3位あたりを推移するが、それ以降は右肩下がりで順位を落とし、2006年は18位まで落ちてしまった。そして2007年にはその座をついにシンガポールにも抜かれてしまった。 シンガポールの経済成長は別の指標でも確認できる。実質GDP成長率は、21世紀初頭のアジア通貨危機の際には成長鈍化も見られたが、2004年以降は毎年7%台以上の成長、失業率は2%台、対外債務は10年以上もゼロという具合だ。 シンガポールは日本と同様に埋蔵資源がほとんどなく、日本よりもはるかに狭い国土と少ない人口(面積も人口も東京都の3分の1に満たない)の小規模都市国家だ。そのシンガポールが、一人当たりのGDPという国力を測定する経済指標で、経済大国といわれて久しい日本を超えたのである。シンガポールはなぜここまで発展することができたのだろうか?。

 シンガポールは、かつては英国の植民地であった。太平洋戦争の時代には英国を追い出した日本によって占領統治され、日本の敗戦後は再び英国の植民地となるが、マレーシア連邦との独立運動を経て1965年に独立国家シンガポールが誕生した。独立後に首相に就任したリー・クアンユーは、自国のポテンシャルを冷静に分析し、天然資源には恵まれないものの、東南アジア地域の中心でありアジアと欧米との海運の拠点になりうる地政学的利点を生かすことで、商業や交易の中心としての存在感を確立しようという、シンガポールを「通商都市国家」として発展させていく道を選択した。

 まずは人とモノの流れを押さえるべく港湾と空港の整備に着手した。国際ハブ空港としてのチャンギ空港の存在はあまりにも有名だが、港湾機能としてのシンガポール港もまた世界屈指の存在である。 もともとシンガポール港は、世界の主要貿易航路の要衝に位置していることから、19世紀以降は世界の中継貿易拠点として発展してきた。現在では最大級のコンテナ船(8000個のコンテナを積載可能で全長300メートル)が接岸可能な深度と広さを持った港と、それに対応したコンテナヤードが整備されており、365日24時間いつでも着岸が可能である。船の出入港から通関、荷役作業などにいたるまですべてがIT化され、通関手続きも24時間以内である。こういった優れた港湾整備とオペレーションに加えて、税制の優遇措置等の制度的バックアップにより、コンテナ取扱い量アジア最大の港として、東アジアの海運物流拠点となっている。こうして人とモノが集まるインフラ整備を徹底して行った。

 さらに積極的に諸外国からの資金(投資、企業進出)が流入するように税制の整備を徹底し、今や国全体が経済特区といっていい。今の税制は法人税率18%、所得税の最高税率が20%、相続税なしという具合に、世界の儲かっている企業や大金持ちからみれば、涎の出るような好条件である。こういった徹底した投資優遇策を行った結果、今や世界最大級の工場が所狭しと立ち並び、日本からは昭和電工や、東芝と松下の合弁会社などが、国外最大の大規模工場を建設している。またアジアの金融センターとなるべく、キャピタルゲイン課税を行わず、世界中の投資家のマネーが流入するような仕組みを構築している。その結果2007年の海外からの直接投資額は9700億ドルを超え10年前の3倍となっている。

 これらの企業が進出を決める際には地域労働者の質が重要になるが、シンガポールでは国民の教育も徹底されている。その一番の決断は公用語を英語にしたことだろう。それまでのシンガポールの公用語はマレー語やタミル語、中国語などが入り乱れていたが、英語一本に統一し言語教育を集中した。言語の変更は、その地域の文化などが断絶してしまうことも想定されるが、そのリスクを考慮しても英語に一本化することのメリットをとった。これが功を奏し、外国企業が進出する時の最大の壁といわれる、現地労働者の言語の問題は取り払われ、今や国民の90%以上は英語を話す。もちろん若年層で旧来の言語を話すことのできる人はほぼ消えたが。 マナーやモラルの問題も重要で厳しい罰則の効果からか、アジア圏にありがちな血縁の縁故主義や人治主義があまり感じられず、厳しいが公平な法治主義が、日本を除くほかのアジアにくらべてうまくいっていることだ。有名なのは街の美観維持のために、ガムの持ち込みが禁止され、町中での喫煙も禁止、道端にごみを捨てると最高で1000ドルの罰金になるなど、すべてにわたって徹底されている。

 こういった40年前に立案した戦略を、着々と具現化していくことで目覚ましい経済発展をとげ、ついには日本を1人あたりのGDPで凌駕するまでに至ったのである。ちなみに植民地の歴史があることから、防衛に対する意識もすさまじい。意外に知られていないことだが、シンガポールは周辺諸国を圧倒するほどの軍事力を持っている。男子には2年間の兵役を義務付けており、2006年には歳出の22%を軍事費として投入、装備も近代化され最新鋭の戦闘機を100機以上も保有している。2010年には米国ですら導入が始まったばかりの、最新鋭のステルス戦闘機F35の導入が決定しているのは、米国からの信頼も高いということだ。国土の狭さを考えると異常に突出した防衛力であるが、シンガポールの国際的発言力は、経済・軍事両面での強さによって裏づけされているのである。

 シンガポールの経済成長の理由は2点ある。ひとつは国家戦略として自らの存在意義を正確に認識し、自国の強みを顕在化させるための投資を集中して行ったことと、そして資源がないというディスアドヴァンテージの解決のために、諸外国からの投資を受け入れるための仕組みを整備したこと、その2点に例外なく徹底して取り組んだことにつきる。GDPで上位に来ている小規模国家は皆同じような戦術を実施して、現在の経済的な繁栄をものにしている。法人税を引き下げることによって、多くの企業のマネーが流入し中進国から先進国になった国は多い。アイルランドなど今やGDPは世界最高水準だ。

 さてそんなシンガポールにも問題がないかといえば、そうではない。日本と同様に資源のない国として、今後は食糧、エネルギー、そしてなにより水資源の確保で苦しむことになるだろう。高低差の少ない狭い国土は水源に乏しく、国内の多数の貯水池と隣国マレーシアからの水の輸入で需要に応じてきた。 ただ隣国のマレーシアとの関係は、過去の経緯から決して良好とは言えず、1998年には「シンガポールへの水の供給停止する」という威嚇的な発言で圧力をかけられたこともある。21世紀に入ってからは「水の価格を100倍に引き上げる」との圧力にも似た要求に対応を迫られるなど、水問題はシンガポールの大きなアキレス腱となっている。そうした問題への根本的な解決策として、2003年からは国内の下水を日本の逆浸透膜高度濾過技術を導入して、再生処理し飲用水にも利用可能とする「ニューウォーター」計画を開始しており、2011年には国内の水需要の30%をこの再生水で賄うなどの手を打っている。しかし食糧やエネルギーに関しては、シンガポールドルを高めに誘導して、輸入コストを下げようという策以外には、これといった手を打っていない。

 これまでは資源のない国でも通商や貿易で繁栄を謳歌することができた。しかし事情は変わり今や資源保有国にマネーは流出しつつあり、資源保有国を中心に新たな世界秩序が形成されつつある。高騰し始めた資源を輸入に頼らなくてはならない現実の中で、今後どのような戦略で自国の反映基盤を維持していくのか、無策ですでに傾き始めた日本のケーススタディとして、シンガポールの国家戦略から目が離せない。

マンデー

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