2008.08.11
フェアトレード商品:消費者ができる社会貢献活動
先日、第32回全英女子オープンゴルフが開催され、韓国の申智愛(シン・ジエ)選手の優勝で幕を閉じた。今回は、不動裕理選手が最終日まで優勝を争い、他の日本人選手も上位に食い込む活躍を見せ、深夜の放送ながらTV生中継から目が離せず夜更かしをした方も多いのではないだろうか。 「フェアトレード」とは、発展途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入することを通じ、立場の弱い途上国の生産者や労働者の生活改善と自立を目指す運動である。実は、先進国がより安いものを買い求めようとする結果、それを生産する開発途上国では不当に安い値段で生産物が買われて行くという事態が起きているのだ。 ところが、この「フェアトレード」商品、なかなか日本では普及していない。実は「フェアトレード」自体は、欧米では1940年代から始まっている運動なのだが、日本で知られるようになったのは1980年代後半からで、メディアで頻繁に取り上げられるようになったのは、ここ最近の話だ。では、なぜ日本で「フェアトレード」商品が普及しないのかというと、取り扱われている商品の少なさが考えられる。現在日本で主に取り扱われている商品が日本人が大好きな物だとは言え、偏った数少ない商品群では普及するのは確かに程遠い。 ヘッジホッグ
ところで、TV放送時に番組の所々で、「Seeds for Africa」のロゴと出場選手のスコアに応じてアフリカ諸国へ植林を行う(バーディ1つにつき1本、イーグル1つにつき5本、アルバトロス、もしくはホールインワンが出た場合には1,000本を植林する)という活動のアナウンスが流れていたのに気付いた方はいるだろうか。これは、全英女子オープンゴルフのメーンスポンサーである㈱リコーが、英国のNPO団体「Seeds for Africa」と協力して行っている活動である。日本では、プロスポーツ選手が自身の成績に応じて、慈善団体への寄付や子供達を招待する観客席を用意する、という話はよく耳にするが、全英女子オープンゴルフのように、スポンサーが出場選手の成績に応じて社会貢献活動を行うことは少ないのではないかと思い、非常に面白い活動だと感じた。というのも、選手1個人で行う寄付よりも多くの寄付が行われるであろうし、自分の贔屓の選手でなくてもバーディ、イーグルチャンスの時には、思わず力が入るからだ。(もっとも、外れた時の落胆も増すため見ていて疲れるが。)
さて、こうした社会貢献活動に積極的な企業は年々増えてきており、特に環境に関する社会貢献に取り組む企業は増えている。一方で、企業の社会貢献活動は、企業毎に特色を出しながら多様化も見せている。例えば、地域活動や福祉、また教育や芸術など様々な分野に広がっている。このように多様化する社会貢献活動の中でも、特に興味深く感じているものに「フェアトレード」という運動がある。最近、徐々にではあるが「フェアトレード」商品の販売や使用を通じた社会貢献活動を行おうという企業が、増えているのだ。
こうした問題を解消するために生まれた「フェアトレード」だが、私がこの運動が非常に興味深いと感じるのは、ただモノを与えるだけでなく、より良い作物を生産するための技術を教えている他、仲買人との交渉も生産者自らが行えるようにしていくなど、生産者の自立を目的としている点にある。また、「フェアトレード」は、商品を販売する企業や商品を大量購入する企業だけでなく、消費者個人がそれらの購入を通して参加可能な運動であり、多数の人間が参加しやすい運動であるという点でも、大変意義深い運動だと感じている。何しろ、安いものを求めるのは消費者自身の欲求からきているのだ。これらの問題は、日本人が大好きなチョコレート(カカオ)、コーヒー、バナナを生産している途上国で顕著になっており、一大消費地である日本にとって、決して他人事ではない。
しかし、欧米のように商品群が増え、どこのお店でも商品棚に並ぶようになって買える機会が増えれば日本でも普及するかというと、それにも疑問がある。というのも、「フェアトレード」商品は、その特性上他の商品と比べて価格は高いというハンデがあり、ただ商品群を増やしても、商品の意義や良さが伝わらなければ消費者の購買意欲を掻き立てるのは、なかなか難しいと思われるからだ。そもそも、「フェアトレード」は、そもそも搾取する側と搾取される側の間で起きている問題が発端となっている。アフリカ諸国や中南米諸国と古くから貿易を行ってきた欧米では、自らが搾取する側にいたという意識があり、消費者の間にもその事に対する反省があるからこそ、「フェアトレード」商品を購入する消費者も多いように思う。一方、日本の消費者には、自らがよりやすい商品を追い求め続けた結果、知らず知らずの内に実は搾取する側に立っているという意識がほとんどない。ましてや、原油高・原材料費高で物価の高騰に悲鳴を上げている今、まさか自分が搾取する側にいるとは、到底思いつくまい。「フェアトレード」が日本で普及しない理由は、ここにこそある。「フェアトレード」を日本で普及させるためには、それが必要とされる背景が消費者から認知されることが重要なのだ。
例えば、最近は普通に見かけるようになったエコ商品も、その商品を購入する必要性が理解されず、価格の高さも手伝って最初はあまり普及しなかった。しかし、エコ商品は、それを使った結果が最終的には自分自身の生活環境(更には地球環境)に反映されてくるものだ、という事が消費者に認知されるようになると、徐々に普及していったはずだ。「フェアトレード」商品についても同様に、まずは消費者がその重要性などを正しく理解し、購入に対して動機付けられることが重要である。「フェアトレード」を経済における自由競争という側面から見た場合、それを阻害する要因を含んでいるかも知れない。しかし、過度な競争が結果的に一部の人々に不当な負担を強いてきた歴史を顧みれば、こうした運動が必要である事は明らかだ。
企業などが社会貢献という名目で「フェアトレード」商品を販売、または使用するのであれば商品の説明だけでなく、さらに一歩踏み込んで、その背景についても正しく理解し、周知することを期待したい。そうした活動と供に商品群が増え、それが日常生活により近いところにある商品ともなれば、消費者は商品を選びながら学習する機会を得るだろう。
また、今年は洞爺湖サミットの他、横浜でもアフリカ開発会議が開催されていることをご存知だろうか。先進国と開発途上国との格差問題は、このような会議で取り上げられる議題の1つのはずだが、消費者が会議の内容や成果を目にする機会は少ない。政府からも、こうした情報をもっと積極的に周知することを期待したい。今、世界でどのような問題が起きているかを国民に伝え、グローバルな社会貢献に参加するよう国民を促すのも、国際貢献の1つと言える。
ところで、この「フェアトレード」商品について、生産者の権利確保や自立を促すことを目的としている点ばかりに目が言ってしまうが、見逃してはいけないことがある。「フェアトレード商品」の作物は、有機農法によって栽培されていることが多く、品質が高いのである。例えば、有機農法のバナナは味が良く安心と評判で、有機農法の綿花から作った衣類も乳幼児の肌にも安心だと、これも評判はいいらしい。まずは購入して、実際に使ってみてはどうだろうか。ちなみに私は、コーヒーやお茶を愛用している。味は良いし、確かに飲むときの安心感がある。