PMI Consulting Co.,ltd.
scroll down ▼

2008.09.30

飽食日本の闇を照らすフードバンク

  昨年度の食品リサイクル法の改正などもあり、各企業では食品廃棄物を減らすために様々な取り組みが推進されている。例えば、コンビニでは消費期限間近の食品を近くの食堂に提供し、料理の食材として有効活用してもらったり、消費期限切れの食品を家畜の肥料として再利用するといったようなものだ。このような取組みが推進される一方で、食べずに廃棄される食品がどれだけあるのかを調べてみると、食品廃棄物と家庭からの生ゴミの量は年間1500万トンを超え、国内に供給される食品6000万トン強のうち、約4分の1近くが捨てられているのだ。しかし一方で、日本では毎年餓死者が存在し、生活に苦しくて食事を1日1食か2食に我慢しなければならない人が数十万人にも達している状況を考えると、強い矛盾を感じざるを得ない。

 このような中で、フードバンクの存在は今後ますます重要性を増してくるものと思う。フードバンクとは、食べられる食品を捨てずに生かそうとするボランティア活動である。これまで企業が捨てるしかなかったラベルの貼り間違えなどの店頭に商品として出せないものをもらい受け、児童福祉施設や母子緊急生活支援施設などに届けて、日々の食事に困っている人々を助けようとするものだ。日本では2000年頃から取り組まれており、2007年度の活動実績では、370万トン以上(115万食以上に該当する)の余剰食品を回収し社会に還元している。

 フードバンクはもともと米国でFight to hungerというキャッチフレーズで、40年以上前から取り組まれているものであり、現在では200か所以上の組織が5万以上の団体を支援している。特に最近ではサブプライム問題やガソリン・食品の高騰などからフードバンクを頼る人がかつてないほどに増えており、アメリカ社会にとって欠かせない存在となっている。しかし、日本ではまだまだ認知度は低く、テレビ番組やニュースなどで何度か報道されているが、私の周囲でもその名前すら聞いたことがない人が大半という状況である。

まだまだ認知度の低いフードバンクだが、日本社会に浸透していくうえで、どのような問題があるのだろうか。

 まず食品を提供する企業がフードバンクに協力する場合、メリットとしては食品の廃棄コストを削減できることやコストをかけずに社会貢献に参加できるということがある。しかし一方で、フードバンクに食品を提供した後でも何か問題が起きた場合には企業側が責任を負わなければならないことや提供した食品が転売されてしまうリスクがある。このため各企業はフードバンクの使命に賛同しても、今一歩踏み出せない状況にあると考えられる。現状では転売のリスクはフードバンクと各企業の信頼関係によって、問題発生時のリスクについてはフードバンクと食品を受け取る各団体との間で、何か問題が起きても訴訟は起こさないという約束を行い対応している状況である。しかし多くの企業を活動に巻き込んでいくためには、アメリカのように企業が食品を提供した後はフードバンクに責任が移るなど、法律によって環境を整備することが必要である。  またフードバンクを推進するNPO法人に目を向けると、違った問題が見えてくる。フードバンクに取り組むNPO法人では、余った食品を預かって必要なところに届けるという金銭の介在しない活動を行っているため、事業収益がない。フードバンクの活動が認知され食品を提供する企業が増加するに従い、食品の輸送費や保管費などが膨らみ、経営が厳しくなってしまうという矛盾を抱えた事業構造となっている。フードバンクの盛んなアメリカでは、民間団体からの援助だけでなく援助の半分近くを占める個人の寄付に支えられて成り立っている。しかし寄付文化の根付いていない日本では、単に個人に直接寄付を呼びかけても現状を打開することは難しいだろう。まずは他のNPO法人と同様に自力で事業収益を生み出すか、活動に賛同して寄付金を提供してくれる企業を数多く探すことが必要だ。日本のNPO法人の現状は、活動資金の7割を自らの事業収益で賄っている状況である。しかしフードバンクの事業構造や活動意義から考えると、自力で事業収益を生み出していくことは難しい。今後の方向性としては企業が行う社会貢献活動におけるフードバンクの存在感を高め各企業から支援をもらうこと、さらに食品提供先の各企業と連携し個人が寄付しやすい環境を作り上げていくが必要と考える。例えば各食品会社と協力し、フードバンクのロゴマークの入った商品を購入すれば寄付できるようにすることもその1つだ。またフードバンクの活動を地産地消型で、地域単位で余剰食品を循環できるようにしていくことも有効である。全国各地にフードバンク組織を作っていくことによって、輸送費や組織の維持費・食品の保管料などを抑えることができるようになる。いずれにせよ、まずはフードバンク活動を全国各地に広めて、フードバンクの存在感を高めていくことが何よりも先決である。

 最後にフードバンクが日本社会に浸透していくためには、われわれ消費者の担うべき役割も大きい。食品を提供することに二の足を踏む企業の中には、フードバンクに提供していることで「そんなに無駄が多いのか」というマイナスの企業イメージに繋がってしまうことを懸念する声もあるという。消費者がフードバンクや食品事情を正しく理解することも必要である。また家庭であまった食料品を持ち寄り食料の確保が困難な団体や個人を支援する、フードドライブに参加するということもできる。誰にでもできる身近な社会貢献活動であり、既に取り組まれているフードドライブ活動に加わったり、周囲に呼びかけて食品を集めて独自に活動を行うこともできる。フードドライブを通してフードバンクの活動を多くの消費者が正しく認識し、地域や社会にフードバンクの考え方が浸透していく意義は非常に大きい。消費者の認識が高まれば、フードバンクの社会貢献活動としての存在感が高まり、企業が食品を提供しやすくなることや各フードバンクのNPO法人も事業運営を行いやすくなる。

 上記のように企業やフードバンク組織、我々消費者とそれぞれに行うべきことはある。

 しかし食品廃棄の是正や廃棄される食品を有効活用し食事に困っている人々を救済していくためには、地域レベル・国レベルの協力態勢が欠かせない。そのためには公的機関の援助や環境整備を行うことが何よりも必要だと考える。例えば、フードバンクの活動は企業にとっては食品廃棄物を減少させることに繋がり、食品リサイクル法の趣旨である食品廃棄物の発生を抑制させる効果がある。企業がフードバンクの活動に参加することが食品リサイクル法で定める食品廃棄物の発生抑制としてカウントされるようになれば、参加する企業にとっても大きなメリットとなる。また日本では飽食や生活水準の高さから生活困窮者(社会的弱者)への対応が社会的に軽視される傾向があり、多くの日本人がその存在すら認識できていないという問題もある。フードバンクの活動趣旨に賛同する企業や消費者を増やしていくためには、このような問題(食品廃棄や生活困窮者の存在)に対する理解を促していく事が欠かせない。フードバンクのような活動は、本来であれば国が主導すべき活動領域である。しかし現段階では公的機関による施策や援助は全く行われていない。国が早急にこれらの問題に対応し、企業やフードバンク組織が取り組みやすい環境を作っていくことを期待したい。

モンブラン

Recruit

採用情報

お客様と共に成長し続ける新しい仲間を求めています

Contact

お問い合わせ