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この先の生成AI

 春先にChat GPTがメディアで大きく報じられると、生成AIに関する話題は、手軽で人間味を感じさせるパフォーマンスへの驚きとともに世界中を駆け巡った。私のような世代の人間はすぐにアトムを想起した。数か月も経つとメディアの論調も落ち着きを取り戻し、恐る恐る使い始める企業や自治体も現れだした。そして今は、出力結果の真偽、生成物の所有権、入力された情報の著作権、あるいはガバナンスなどの政治的な課題に論点が移っている。

 初めてChat GPTに触れた時、一つの問いが頭をよぎった。「君は何から学んできたのかい?」と。それは生成AIの出自に対する問いだった。生成AIがそのパフォーマンスを可能にするためには学習が必要だ。学習をするためには教材が必要となる。となれば、教材次第でパフォーマンスが大きく左右されるのではないか。ここに言う教材とは、ネット上に存在する数多のデータだ。そして二つ目の問いが頭をよぎる。「君が学んできた教材は、信頼できるのかい?」と。

 生成AIの活用を、当面は医療や財務や社内業務などの分野に限定しようとする企業もある。“教材はジャンクデータが混入していない出自のはっきりしたクオリティデータであることが好ましい…”という至極当然の判断だ。例えば医療分野であれば、科学的な裏付けのないデータは排除して、カルテや学術論文などだけから学習させれば、生成物への信頼性は担保できる。

 クオリティデータという観点を考えると、「君に学習をさせたのは誰なのかい?」と、三つ目の問いも頭をよぎる。ネット上に存在する数多のデータから学習するのだから「みんなから学習した」という答えが想定できるが、ネット上に存在する数多のデータを「みんな」と言ってよいだろうか。性別、年齢、人種、国籍、政治信条、価値観などの分布によって、生成する解は変わるはずであり、少なくとも「みんな」を言うのであれば、デモグラフィックにもサイコグラフィックにも、人口統計に合致したデータ構成で学習して欲しいと私は思うし、母集団を分けた解が欲しい。そう言えば、生前の美空ひばりをAIが生成して歌わせるというプロジェクトがあった。美空ひばりに関するあらゆるデータでAIに学習させたそうだ。ところがコアなファンは、生成された美空ひばりにはどこか違和感があると言う。結局最後は、エンジニアがコアなファンの意見に重みをつけて調整していた。

 するとこんな問いも頭をよぎる。「君は私のことを分かっているのかい?私を分かったうえで、解って答えているのかい?」と。つまり私は、私にとって適切な生成物を求めていたわけだ。私がAIに描かせたいのは、誰のものかも分からない美意識による絵画ではなく、私の美意識にパーソナライズされた絵画だ。

 

 さて、この先を紐解こう。

 生成AIの発展は、教材づくりから仕切り直されることになるだろう。つまり学習する教材を限定することで、生成物の出自を明らかにするわけだ。しかし、やがて生成AIは、自らがネット上に数多存在するデータをジャンクデータとクオリティデータに分けることで自らの出自を証明するようになるだろう。更には、様々な母集団を切り分けて、生成物の信頼性をも証明するようになるだろう。それは、生成AI“開発”の最前線を垣間見れば容易に想像のつくこの先だ。

 開発の次にくる生成AI“活用”の最前線を垣間見ると、パーソナルAIへの発展も、容易に想像がつくこの先だ。しかし、私たちはまだ、AIに私を深く理解させる教材を持ち得ていない。そこで登場するのが、人が生まれた時からその人のパーソナルライフレコードを教材にして、その人と共に育つAIだ。そんなAIには、その人にとって信頼できる生成を可能とするために、その人の家庭や地域や国についても学習させる必要があるだろう。それらに客観性を持たせる意味で、世界中の様々なセグメンテーションや歴史上の位置づけについて学習できるようにする必要がある。つまり生成AIの学校だ。やがて生成AIは、各国が設立する学校にアクセスし、学習するようになる。そして、その人が生涯を閉じるまで寄り添ってくれるパートナーになる。

 大国主命が国造りをする際に、波の彼方から植物の実の舟に乗ってやってきた少彦名命(すくなひこなのみこと)が大国主命と義兄弟の関係になり、国造りを手伝ったとされる神話がある。やがて生成AIは、一人ひとりに寄り添う少彦名命のような存在になるだろう。

 

方丈の庵

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