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KDDIが描くグローバル覇権構想

 KDDIがローソンの株式に対してTOB(株式公開買い付け)することを発表しました。ローソン株は三菱商事が50%を押さえていますが、それ以外の株を公開買い付けして、持ち分法適用会社として共同経営することを目指すことになります。三菱商事は数年前にローソン株を取得して親会社になっていますが、ローソンの成長は狙い通りにはならず、業界首位のセブンイレブンを捉えるどころか、引き離される一方です。さらに伊藤忠商事の傘下のファミリーマートに2位の座を奪われてしまい、資源による成長を掲げる三菱商事においてはお荷物になっていました。

 三菱商事は以前から共同経営や売却先を探していたようですが、KDDIが協業相手として名乗りを上げたことは、三菱商事にとっては「ラッキーというしかない」ということでしょう。そのようなローソンでしたが、通信メガキャリアであるKDDIが5000億近い資金を投入してまで触手を伸ばす理由はどこにあるのでしょうか。

 

 コンビニ業界は、販売額や店舗数は完全に頭打ちとなっており、国内においてはほぼ成長の芽はなくなったとみるべきでしょう。すでに人口減が始まっている日本国内では、競合相手とのゼロサム競争を繰り広げるしかなありませんが、そうなれば業界全体が疲弊するだけです。また国内の労働者事情、フランチャイズビジネスへの不満も噴出し、ビジネスをしにくい環境になっています。そのためコンビニ大手各社は成長の芽を海外に求め、特にアジア圏への進出を加速しています。

 一方の通信キャリア業界も同様の構図に陥っています。国の方針で携帯使用料金やスマホの販売方法への厳しい規制があります。国民のほとんどがスマホを保有している状態では、契約数を劇的に増やすことは難しく、様々なプランを打ち出しては、顧客を取り合っている状況です。携帯電話はインフラでもあり、トラブルなどで止めることは許されず、継続的な設備投資や技術開発への投資が必要であり、極めて利益が出しにくいビジネスになってしまっています。今のビジネスモデル(契約者数に依存する)では、人口減による影響が強く、今後の成長が難しくなることは目に見えています。

 そのため国内の通信キャリアは携帯使用料(通信データ量)以外の収入源を確保すべく、自社の「経済圏」の整備に主軸をシフトしています。「経済圏」に顧客を誘引し、経済圏内での消費を促すことによる収入や決済手数料を含めた新しい収益の確保を狙っています。4大メガキャリアすべてが同じ戦略に走っているというのも珍しい構図でしょう。そのような環境の中でKDDIは「au経済圏」として、決済手段である「auPAY」と、経済圏共通ポイントである「Pontaポイント」をプラットホームとして、経済圏への参画企業を拡げています。

 通信メガキャリアの主戦場が、「経済圏」からの手数料収入に移行しているとした場合、KDDIが擁する「au経済圏」を他社以上に活性化するポイントはどこにあるのでしょうか?ローソンを軸にして考えるとKDDIの戦略が見えてきそうです。

 

 KDDIからみたローソンの魅力のひとつは、国内にて15000店以上のリアル店舗にありますが、KDDIがその店舗網を物販先として活用しようとは思っていないでしょう。ローソンをKDDI色に染めてしまうと他のキャリア経済圏のユーザーがローソンの利用を控えてしまうこと可能性があります。これまで通り他社の決済手段も利用できるようにして、ローソンの売上を毀損するようなことはしないはずです。

 一方ローソンは海外でもすでに5000以上の店舗を構え、中国、タイ、フィリピンなどのアジア圏に強みを持っています。KDDIの狙いが、海外での「au経済圏」の展開だとすれば、海外のローソンを基点に「auPAY」と「Pontaポイント」を拡げ、世界中のローソン利用者が「Pontaポイント」を介してネット上の「au経済圏」利用できるようにして、実質的に顧客を囲い込んでしまう戦略ではないでしょうか。

 その際の取っ掛かりになるのが、現地に展開するローソンのリアル店舗です。世界中の主要地域にローソンを拡げ、「au経済圏」の入り口にできれば、「au経済圏」のグローバル化が可能になります。KDDIからみれば、ローソンのグローバルでの店舗開発力、展開力は大きな魅力に映ることでしょう。これをさらにバックアップするのが、三菱商事の世界中でビジネス展開実績です。商社は各国の行政機関との太いパイプ、骨太の交渉力、進出実績を持っています。これらが有効に機能すれば、他の経済圏にはない海外展開力ができあがります。

 なお、ローソン店舗の高度なDX化は、KDDIが得意とするところです。通信+DXにより徹底した省力化、ローコスト化を実現できれば、海外での出店コストと運用コストを低減でき、他のコンビニチェーンでは実現できない高速レスポンスで一気呵成な展開を実現することができます。

 

 ローソンのもうひとつの魅力は、ローソンが持つ膨大な顧客情報(購買情報)です。これにKDDIの「Pontaポイント」やauユーザーの移動情報などを掛け合わせることで、国内屈指の消費関連のビッグデータが形成されます。このデータに基づいて「au経済圏」や「Ponta」ユーザーに最適なクーポンを配布し、ローソンや「au経済圏」への来店頻度を高め、購買の際は「auPAY」で決済をしてもらいます。購入額に応じて「Pontaポイント」を発行し再来店のインセンティブになります。「Pontaポイント」は、世界中に展開しているローソンで普通に利用できるので、日本へのインバウンド客は馴染のローソンを利用することになります。

 このビッグデータは、新たな活用方法を模索できる可能性を秘めています。人口減の中でコンビニビジネスを成長させるには、客単価をあげるしかありません。セブンイレブンでは、低価格帯商品とセブンプレミアムなどの高価格帯商品を両面展開して客単価をあげています。ローソングループは高価格帯スーパーである成城石井を擁しています(セブンイレブンよりも遥かに高価格で多様な品ぞろえを誇る)が、そのアドバンテージをローソンに活かせていません。成城石井とローソンそれぞれの顧客購買行動を分析することで、コンビニエンスストアに高級路線を展開できる道筋を見出すことができる可能性があります。結果系データであるPOS購買履歴に加えて、動機づけ系のauスマホの位置や移動データを掛け合わせ、AIにより相関関係を分析することで、エリア単位での大くくりな品ぞろえではなく、個店単位で顧客行動に合わせた品ぞろえを実現できるようになります。店舗フォーマットも個店別に調整できるようになると、同じ形態を横展開するという店舗の有り様も変わってきます。理論的にはローソンを訪れる顧客の25%はauスマホのユーザーなので、信頼に足る分析が可能です。

 

 いまのところ、通信メガキャリアであるNTTドコモやソフトバンクが、コンビニ事業に追随するような動きはありません(むしろ明確に否定しています)。またコンビニ大手の「ファミリーマート」は伊藤忠商事と組んではいますが、通信キャリアと組んでいく様子はありません。各社ともにKDDIが描く世界観の行く末を静観する構えです。

 KDDIの描く「世界経済圏」構想が現実のものだったとして、本当に「au経済圏」がグローバルで大きな存在感を発揮できるようになるのでしょうか?

 その結果がでてくるのは10年くらい先になるでしょうが、日本企業が仕掛けるグローバル戦略が成功することを期待せずにはいられません。各社の「経済圏」覇権争いの行方を注視したいと思います。

 

マンデー

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