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「転売ヤー」によって突き崩されてしまった流通マーケットの再生方法とは?

 SNS、フリマサイトの浸透で、情報をうまく活用した個人売買にて、誰でも手軽にお金を稼げる時代になりました。特に通常よりも安く販売されている商品の情報を早期にキャッチして大量に買い付け、通常価格で販売して利ザヤ稼ぐビジネスや、需要に対する供給量が極端に少なく争奪戦になるような商品を入手し、高値で売りつける転売ビジネス「通称:転売ヤー」が社会的な問題になって数年が経過しています。

 

 転売ヤーの暗躍で記憶に新しいのは、コロナ蔓延の端緒だった2019年、当時品不足になっていたマスクやアルコール消毒薬を大量に買い集め、市場にマスクが出回らない状況の中で、フリマサイトにて信じられないほどの高値でマスクを販売するような行為がありました。通常時であれば一箱1000円前後のマスクが、1万円ほどの高値で取引されることになり、国もマスク増産を後押しするなど、国会でも議論されるような問題になりました。コロナから身を守りたいという市民の声を逆手に取ったビジネスでした。

 

 転売ヤーが目をつけるのは、商品を求めるユーザーは多いが、製造能力やキャパシティの問題で全ユーザーの需要を満たすことができないような人気商品か、定価と実売価格の差が大きな商品です。例えば、人気アーティストのライブチケット、USJなどの入場制限があるアミューズメントパークのチケット、任天堂SWITCHやソニーPS5などのゲーム機、最近では高額なデジタルカメラやトヨタのランドクルーザーやアルファードのように数百万円を超えるクルマまでも転売の対象にされています。サントリーのウイスキー「山崎」などは、希少性もあって高値がつきやすく、転売ヤーの餌食にされています。

 また、総務省の規制が入って今はなくなりましたが、0円で販売されるスマホやセールなどで一時的に極端に値引きされる商品などは、定価と実売価格の差が激しい商品の好例でしょう。

 

 ちなみに新型がリリースされて1年ほどのトヨタのランドクルーザーは、1000万近い高額商品ですが、あまりにも高い人気と人気に見合わない生産数の少なさから、注文しても納車まで3年以上待たなくてはならない(注文すら受け付けていない)といわれている商品です。どうしても欲しいと考える人は、定価よりもかなりの高額であっても購入するでしょう。また、同車は海外でも人気が高いので、輸出して転売すれば国内価格の3~4倍ほどの価格で取引されるという話もあります。盗難車が多いのも同様の理由です。このような商品を転売目的(乗りたいと思っていない)で購入されてしまうと、本当に欲しい人が買えないという事態になります。

 

 転売ヤーが問題にされているのは、流通量が少ない商品を買い占めて売値を釣り上げてしまうことで、本当に欲している消費者に商品が届かなくなることです。また、メーカーが健全に成長させようという市場の形成を歪めてしまうことにもなります。例えば、中古市場のほうが新品市場よりも高くなってしまうような逆転現象の発生、つまり新品よりも高く取引される「闇」マーケットが形成されてしまうことです。これではメーカーの価格戦略も機能しません。ゲーム機などは、新品と中古品のマーケットがあり、それぞれの価格帯の範囲で市場を形成しているので、機種の代替えがしやすくなり、新品の流通が促進されるのです。中古マーケットが健全であれば、また新品マーケットも活性化するのです。

 

 こういった転売ヤーや転売行為を抑制することはできないのでしょうか?

 転売行為の善悪の見極めには難しい側面があります。例えば、所有している美術品や骨董品を高く売却することも転売といえるので、安く調達したものを価格が上がったときに高く売却する行為すべてを悪とすることはできません。広義にとらえれば、小売業もメーカーから仕入れたものに利益を上乗せて販売して利ザヤを稼ぐというビジネスであり、転売ビジネスだといえるでしょう。健全なビジネスと転売の見分けや区別がつきにくくいので、法規制が難しくなっていることもあります。

 

 転売行為を抑制するには、転売がビジネスにならないようにする必要があります。これには、メーカーが十分な流通量を供給できる製造体制をとること、希望小売価格と実際の販売価格に著しい差が出ないようなモラルを持って販売をすること、そして消費者が転売ルートを利用しないという3点に尽きます。しかしこれができないので、転売ヤーが暗躍することになるのです。ここで転売ヤーや不当な転売行為を抑止する方法を3つ提言したいと思います。

 

① 販売者側の強い姿勢

 こちらはすでに実現されている手法なので、採用する販売者側を増やしていくことで、販売サイドの強い意志が浸透することを願うばかりです。ヨドバシカメラでは、ポイントカード情報を利用して、同じカテゴリーの商品を何度も購入する人は転売ヤーの可能性があるとして、販売停止の措置をとったりしています。ある量販店では、IPHONEを販売する際には、外箱に購入者の氏名を書かせることで、新品ではなくなるような措置をとって、転売対策をしています。これらの各販売店の工夫が、全国的に広がれば有効な転売対策になるでしょう。

 また、某有名アーティストのコンサートでは、チケット販売の際に購入時に登録した名前でないと入場できないようなルールを設け、入場の際に購入者本人であることを証明できるものがないと入場できないという強い施策を導入しました。未成年が親の名前で買った場合など、入り口でいくつかもめ事があったようですが、主催側が強い姿勢を打ち出し、それを徹底しました。これによって転売ヤーからチケットを購入しても入場することができないということになります。主催者側が、都合が悪くなった人のチケットの定価買戻しと定価再販売などの仕組みを整備し、徹底した価格統制を行いました。このような主催側の強い姿勢が転売ヤーと利用者を駆逐することにつながります。

 

② ITによる転売対策

 電子的なデバイスを組み込むことが可能な商品には、適正価格で購入したかどうかの証明がないと使用できないような仕組みを取り入れることを検討してもいいでしょう。例えば先のランドクルーザーなどは、納車から一定期間(2年程度)は、転売できないようなキーコードを組み込み、メーカーや販売会社が一定期間所有者を管理する方法が考えられます。クルマには半年ごとに点検する必要があるので、点検の際に所有者確認を行い、半年ごとの確認ができていない車両は一定期間が過ぎると起動できなくなるような処置を施します。転売ではなく仕方ない理由で手放す場合は、メーカーや販売会社に持ち込んで車両の状態をみて買い取ってもらい、中古マーケットに流します。その際に所有者の変更などのシステムを書き換えます。このような個人の所有物に対して制限を設ける仕組みの導入には、難色を示す所有者も多いでしょう。例えば、協力する旨の誓約書にサインしていただける消費者を優先的に納車し、そうでない方々は納車の優先順位を下げるなどの方法も考えられます。何より超人気車をできるだけ早く手に入れるための一環ということで賛同してもらえる方がほとんどではないでしょうか。

 

③ 法規制の強化

 商品が市場に投入されてから一定の期間内は、希望小売価格以上で販売してはいけないという法を設け、それ以上の価格で販売されるような場合は、消費者庁で取り締まるような法律です。商品が欲しい消費者がフリマサイトを利用する際は、価格をみて消費者庁に相談することができ、フリマサイトでは定価以上の価格設定ができないような機能制限をかけるなどです。一定期間が経過した商品や該当商品の後継モデルが出れば、この規制の対象外にするなど、弾力的な運用も必要でしょう。このような法規制により、希望小売価格以上で市場に出回る商品はなくなります。そもそも製品が製造されている期間内に、小売価格を上回るような流通形態が併存している状態がおかしいので、小売価格を上限とした規制を設けることで、転売することで大きな利ザヤを稼げなくなり、ビジネスのうまみがなくなります。

 

 転売ビジネスを活性化させてしまったのは、コロナの影響で半導体不足に陥り製品を製造できない状態が長く続き、人気商品の品薄が常態化して転売ヤーに美味しい想いをさせてしまったという側面があります。半導体不足も解消に向かっている現状もあり、そろそろ健全な市場に戻すことも必要でしょう。そのためには、法規制だけでなく、製造者、販売者、消費者の3者が共同で取り組むことで、「不適切な」転売ビジネスは次第に沈静化され、その後には、新品や中古品をその価値に見合った価格で流通させられるような、健全な転売市場が形成されてくることでしょう。

 

 商品を本当に欲しい人が、適正なタイミングで適正な価格で購入できるような市場が形成されんことを望みます。

 

<注意>

本コラムでは、転売行為や転売ヤーのすべてが「悪」だという主張ではありません。中古品の市場流通を活性化させることで、産業廃棄物の削減や資源の有効活用にもつながります。個人が不要になったものを転売し、その対価を得ることで、アクションの活性化につながります。商品を買占めたり、価格高騰を狙って欲しくもない商品を買うことで、欲しい人に商品が渡らない状態を助長するような転売行為は「悪」だと考え論を進めました。

 

マンデー

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