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世界金融危機における国際経済政策のあり方とは

 10月8日、国際通貨基金(IMF)は世界経済見通しの中で、世界経済が1930年以降で最も深刻な成熟市場における金融ショックに直面し、大幅な減速局面にさしかかっているとの見解を示した。
今回の金融危機では、サブプライムローン問題と原油・食料品価格の高騰などの複合的な要素によって世界中の国が打撃を受けている。サブプライムローン問題の影響の少ないと言われる日本においても10月28日には日経平均株価が一時7000円を割った。一体、市場で何が起こっているのか。市場と政府、制度という3つの観点からその問題を明らかにしたうえで、今後の国際経済政策はどうあるべきなのかを考察する。

 第一に、市場で何が起こったのかを明らかにしていく。
オリビエ・ブランシャールIMF経済顧問兼調査局長は「世界経済は、原油・一次産品価格の高騰と、金融危機の拡大という二つの非常に大きなショックに見舞われ、大幅な減速局面に入った」と述べている。

 原油・一次産品価格の高騰は、新興諸国における経済成長や、それに伴う需要の増大に対し、供給面での対応の遅れが要因としてあげられる。
 まず、原油市場では、生産能力の限界が既に近く、供給が需要の急激な拡大に反応出来ないため価格を押し上げる結果となった。一方で、生産能力の増強に向けた投資は、既存油田の老化や政策上の制約から効果を表すまでに時間を要する。その認識が広まったことで、高価格の維持が将来の需要に必要な投資を促すために必要であるとの予測が立ち、先物市場においても原油価格は高水準で推移していた。
 次に、食糧市場では、いくつかの要因が食料品価格の高騰を招いたと考えられている。新興諸国の経済成長を反映した主要穀物や食用油の需要の伸びは、過去数年間にわたって供給の伸び率を上回ってきたため、これらの食糧在庫は1970年代半ば以来の低水準に落ち込んでいるという。近年の天候不順は、供給能力に更なる打撃となり、価格上昇を加速させる要因となった。加えて、補助金を誘引としたバイオ燃料生産関連の需要増大に伴い、バイオエタノールの原料となるトウモロコシの消費価格が上昇することで、消費代替と作付け代替の影響として他の食用油の価格の上昇や、飼料価格の上昇に伴う鶏肉・精肉の価格上昇に影響している。
また、先述の原油・エネルギー価格の上昇が食品の生産・輸送費用に影響することで商品価格を押し上げるような連鎖反応も見られる。

 金融危機は、米国における低所得者層を対象とした住宅ローン(サブプライムローン)の焦げ付きが発端となっている。元々、米国におけるIT・株式バブルが崩壊した2001年以降、FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)の政策として、景気を下支えするための低金利政策が住宅ローンの金利低下を促し、住宅ブームが発生した。審査が一般の住宅ローンに比べて緩く、金利が比較的高いサブプライムローンにおいても例外ではなかった。サブプライムローンの金利が下がることで、住宅ブームは過熱し、サブプライムローンの残高は一時、米国における住宅ローンの14%を占めるまでになった。しかし、2006年以降の利上げに伴う住宅ローン金利の上昇によって、元来支払能力の低い層を対象としているサブプライムローンは一気に焦げ付き始める。
 サブプライムローン問題がその影響範囲を世界にまで広げた背景には、銀行などがサブプライムローンの債券を裏付けとした小口証券を作り、数多くの金融商品に組み込んでいたことによる。金融商品の買い手は世界中の金融機関であり、ローンの焦げ付きが引き起こした、それら関連証券の価格暴落は、世界中の金融機関に巨額の損失を与えた。

 第二に、こうした市場の動向を受けた対応における「政府」の失敗とは何か。
 サブプライムローンによって引き起こされた損失を埋めるために、各国の金融機関は流動性のある債権や株式の売却に手をつけた。その結果、株価の暴落はサブプライムローン関連証券に留まらず広く伝播した。しかし株式相場の暴落は、金融機関の財務体質を悪化させ、米国における大手金融機関の破綻は金融機関に対する不安を招き、世界的な信用収縮につながっていった。ここでの「政府の失敗」は、米国における対応の一貫性の欠如だ。リーマンブラザーズへの公的支援を拒否して破綻に導いた2日後には、AIGに対する経営支援策を決定するなど、場当たり的な対策は市場の不信感を煽り、更なる株式売却を促す結果となった。そこで、10月3日には、米国において緊急経済安定化法案が可決された。法案の内容は最大7000億ドルの公的資金を注入して不良債権の買い取りを行う内容だ。大統領選挙を前に国民の支持を重視していることから、特定の金融機関への資本注入は回避された。その内容においてなお、選挙を前に税金投入に対する米国民の反発を予測した下院が一旦は否決している。そうした米国の政策運営における内向きな姿勢は市場の失望を誘い、ダウ市場は777ドルという下げ幅を記録した。その後、修正を経て法案は可決されたが、その法案自体の有効性にも疑問の声が上がっている。不良債権の買い取りにおいては、その買い取り価格が低ければ金融機関には売却損が生じるため、資本不足は深刻化する。公的資金を注入することで資本を増強しない限り、金融機関に対する信用不安は安定しないものとして、法案の内容に対する市場の反応は冷ややかなものだった。

 第三に、これらの問題が世界金融危機にまで拡大していった背景として、「制度」の問題が挙げられる。
 信用創造は、景気の変動を増幅する傾向があると言われている。ファンダメンタルズとかけ離れた動きは、投機資金による価格の乱高下を促し、国境を越えて影響を及ぼす。今回の金融危機においても、サブプライムローン問題や原油・食料品価格は、投機マネーが不動産市場や商品市場に投入されたことでその影響を大幅に増幅したと考えられる。投機的な動きや加速度的な市場拡大に対して、金融危機が発生する前の段階で政策的な規制を加えることのできる仕組みがない以上、今回のような問題は何度でも繰り返す可能性がある。

 では、世界金融危機を収束するために、国際経済政策はどうあるべきだろうか?
 現在の国際経済のなかでは、サブプライムローンや原油・食料品価格のような問題が国境を越えて影響しているのに対し、各国の経済政策や金融政策は国別の単位でしか機能せず、金融経済のグローバル化に対応した国際的な政策機関が存在しない。国際機関としては、IMF国際通貨基金の存在があるが、IMFの現時点の役回りは財政破綻の危機に陥った国に対する緊急融資であり、危機の拡大の防止と市場の安定化に向けて十分な役割を発揮しているとは言い難い。グローバル化に対応した政策機関が不在であることで、米国のサブプライムローンが各国の金融機関の収支に多大な影響を与えているにもかかわらず、米国における政策決定は大統領選挙などの内向きの事情に左右されてしまうといった、部分最適に根ざした政策運営がなされるのだ。しかし、部分最適の政策の積み重ねでは、国際的な金融危機を効果的に収束させることは困難だ。
 IMFが10月に発表した「世界経済の見通し」によれば、原油・食料品価格の上昇といった根強いインフレ傾向は、先進国においては景気の悪化と一次産品の安定化に伴い抑制されると考えられている。新興国においても、緩やかではあるがインフレ率は今後低下していくと見込まれる。従って今後の国際経済政策は、サブプライムローンに端を発する信用収縮・景気の減速を中心に検討していく必要がある。IMFに求められるのは、市場の安定化に向けた包括的な取り組みを政策立案し、主導的な立場で各国の取り組みを支援することである。もちろんこれまでにもIMFから各国に政策協調を求めるなどの取り組みが行われてきたが、より強固な政策権限をIMFが持つことが効果的ではないか。例えば、各国の政策運営に対してより積極的にIMFの見解を発言し、その発言に一定の強制力を持たせることを可能にすることなどが考えられる。「内政干渉」という批判は免れないだろうが、既に金融市場のグローバル化は、各国の政策運営に大きな影響をもたらす要因となりうることは、今回の世界金融危機の動向を見ても明らかだ。ウクライナやアイスランドからの支援要請に対する資金供給では対症療法に過ぎず、世界金融危機を未然に防ぐことはできない。政策権限を持つ主体は必ずしもIMFである必要はない。しかし例えばG7に政策権限を与えるとした場合、その影響は既にG7を超えた国々に波及していることから政策決定の妥当性が疑問視されることは避けられないだろう。その他に考えられる主体としてはG20や国際連合における専門家のタスクフォースが挙げられるが、いずれも金融にかかわらず環境・経済・国際関係など様々な議題を取り扱う組織であり、金融の安定化を専門に担っている組織ではない。IMFは元来、国際通貨システムを通じた金融経済の安定化と危機の予防を目的とする組織である。国際経済政策に対する権限を持つ上で、IMF自体の役割や体制を精査する必要はあるが、国際経済政策を決定する組織としては専門組織であるIMFがその役割を担うのが望ましいのではないか。将来の世界経済を拡大・成長させていく観点からも、グローバル経済における新たな政策運営機関の存在の必要性を検討していってもらいたい。
 

馥郁梅香

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