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2009.10.14

スマートグリッドは温室効果ガス25%削減への妙手となるか?

 近年、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の取り組みとして、「環境経営」を掲げる企業が増えてきている。一口に「環境経営」と言っても、企業によって様々な取り組みを行っているが、日本では、「チームマイナス6%」に代表されるような温暖化防止に取り組む企業が多いように見受けられる。それだけ、地球の温暖化が切実で重要な問題であるということが、人々の実感として浸透してきているということだろう。
 こうした地球温暖化防止に対して、積極的な動きを見せているのは企業だけではない。今夏の衆議院選挙後、民主党政権となった日本政府は、2009年9月22日にニューヨークの国連本部で開催された国連気候変動首脳会合で、主要国の参加による「意欲的な目標の合意」を前提としながらも、前政権が掲げた目標を上回る「1990年比で2020年までに25%削減を目指す」と表明したのは記憶に新しい。しかし、2020年までに1990年比で25%削減という高い目標が明らかにされた一方で、それを実現する具体策はまだ見えてこない。

 「25%削減」という、達成困難な目標の実現方法を考えた時、例えば規制の強化といった温室効果ガスの排出を抑止するような施策も当然考えられる。しかし、規制のような抑止を中心とした施策ばかりでは、必ずしも生産的とは言い難く、それを守る企業側も疲弊してしまい、ともすれば規制の合間を掻い潜るような、いたちごっこにもなってしまうかもしれない。もし、「25%削減」に積極的に取り組むのであれば、新たな付加価値を生み出しうる、新しい技術の研究開発に取り組むことの方が、とても意義のあることだと言えるだろう。

 そこで、この「25%削減」をどのように実現していくかを考えた時に、これを支えうる重要な一つの手段として、スマートグリッドに注目している。スマートグリッドとは、通信技術・IT技術により高機能な送電力網を構築することで、停電などの障害発生を防止し、且つ高効率な送電を実現するといった、供給者と消費者の間における電力の伝送の問題を解決しようという概念である。米国のオバマ政権が、国内の環境対策と景気回復の両立を狙うグリーン・ニューディール政策において、重点投資策として取り上げており、耳にした事がある人も多いだろう。

 また、スマートグリッドが「25%削減」に対する重要な手段の一つになりうると考えている理由には、以下の3つがある。
 1つ目は、供給側と利用者側の間で双方向の情報交換が可能となることで、必要な時、必要なエリアに最適な送電が可能になる他、電力が不足してきた場合には供給者側から自動的に利用者側のエアコンの温度設定を変えるなど、必要に応じて電力消費量をコントロールできるようになることである。これによって、常に最適な発電を行う事が可能となり、発電による温室効果ガスの発生の削減が期待される。
 2つ目は、温室効果ガスを発生させない自然エネルギーを利用した発電の利用を増やすことが可能になる。太陽光発電などの自然エネルギーを利用した発電は、自然条件によって発電量が変動してしまうために電圧などが不安定になることによって、現在の送電網のままでは、工場などの機械が故障するなどの重大な問題を引き起こす可能性があるのだ。そこで、スマートグリッドによって、発電量が変動しても一定の安定した電圧で送電が可能になれば、太陽光や風力といった、自然エネルギーを利用した発電への依存度を高めることができ、温室効果ガスの発生を伴う火力発電などの割合を減らすことが期待される。
 3つ目は、電気自動車の普及・利用促進を支えるインフラ整備である。現在、温室効果ガスを発生しない電気自動車の開発が各メーカーによって進んでおり、徐々にではあるが市場にも出回っている。現在は、自治体などで利用しているケースが多いようだが、将来的にガソリンが枯渇し、温暖化もいよいよ深刻化するとなると、一般家庭においても電気自動車を利用することが普通の事になる日も、そう遠くないだろう。そうなった時に、一般家庭はもちろん、現在のガソリンスタンドのように、どこでも簡単に電気自動車に充電できるようなインフラが必要になってくる。つまり、従来とは負荷の異なる電力網が出来上がるはずだが、その電力網の整備にもスマートグリッドの技術は不可欠だ。

 このように、スマートグリッドは、温室効果ガスの削減に大いに寄与する可能性がある。また、この技術を日本が追求し、インフラ整備を実現させた暁には、国際競争力のある技術を手にすることにもなる。というのも、電力消費量の多い先進国だけでなく、例えば、中国やインドなどの広大な国土をもった国にとっては、高効率な送電網の構築と太陽光発電等の自然エネルギーによる発電は、とても重要なものであるはずだからだ。
自然エネルギーによる発電とスマートグリッドによる高効率な送電網の構築の組み合わせは、日本にとって新たなビジネスチャンスを世界中で創出するものとなるに違いない。そのような観点からも、日本はもっと積極的にスマートグリッドの研究・開発を推進すべきなのだ。

 ところが、スマートグリッドに積極的な米国と比べると、日本ではスマートグリッドは不要であるという見方もある。2009年2月12日に、経済産業省の望月事務次官が記者会見において、「日本にはスマートグリッドは不要」という趣旨の発言をしている。この発言は、米国の送電網は日本に比べて脆弱で、ハリケーンなど天災によって停電などの障害も多く発生しており、それらを改善するためにはスマートグリッドは必要となる。しかし、日本の送電網は天災などに強く堅牢であり、停電などの発生も少なく、すでにスマートグリッドとして十分に機能している。ということを示唆していたようである。
 確かに、電機事業連合会が発表した2006年度のお客様1軒あたりの事故停電時間を見ると、日本が19時間、フランスが51時間、イギリスが88時間、米国が97時間となっており、日本は圧倒的に少ないことがわかる。
 だが、現時点で日本の送電網が堅牢で事故停電が少ないことが、スマートグリッドが不要、または十分に機能している、という理由にはならないはずだ。望月事務次官の発言は、前政権当時のものであるため、「25%削減」目標は念頭になかったにせよ、例えば、もっと高効率な電力供給を実現し、毎年夏に発生する電力不足の防止に寄与する、といった発想はあってしかるべきである。
 このように、政府のスマートグリッドに対する取り組みは、必ずしも積極的とは言い難い。今は、一部の電力会社、大学、企業の間で実証実験が進められているのが現状で、実用化に向けて政府が強力に主導しているような段階には至っていない。新たに政権を握った民主党も、マニフェストではスマートグリッドの技術開発・普及を促進すると謳ってはいるが、具体策はまだこれからだ。是非、具体的な検討に着手してもらいたい。
ちなみに、スマートグリッドを重点投資策の1つとしているオバマ政権では、110億ドルを拠出することを決定している。元々のインフラの整備状況など日米の違いはあるが、予算を見る限り、スマートグリッドに関するオバマ政権の本気度が伝わってくる。このままでは、スマートグリッドの技術に関して、日本が後塵を拝することにもなるかもしれない。
 新政権には、「25%削減」といったスローガンばかりが先行することなく、具体的に何に取り組み、それにどれだけを予算をかけるつもりなのか、新政権の本気度が伝わってくるような妙手が出てくる事を期待している。

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