2010.03.03
JAL再生の深層
1961年の東証2部上場から48年余り続いたJAL株の取引 が2月20日、東京、大阪、名古屋各証券取引所で上場廃止となり終値1円で幕を閉じた。法的整理という結論の下、株式会社企業再生支援機構をスポンサーに経営再建をはかる。当件における政府の目論見は企業再生支援機構を通じて日本政策投資銀行に金融を賄わせることであり、言いかえると国営再建策で、もし失敗すればそのツケは国民が税金で支払うことになるということだ。 そもそも当問題に対して筆者は、JAL社内に内在する負の遺産を清算すべくJAL自身 が全身全霊を傾けて取り組むだけではなく、この問題を生み出している国の航空行政にメスを入れなくては根源的な解決には至らないと考えている。 JAL問題を契機に、不採算空港を造り続けてきた航空行政の弊害が徐々に白日の下に曝されており、地方空港の大量閉鎖も現実味を帯びてきた。特別会計を舞台とした「国と地方自治体の無責任の構図からの脱却が図られるべき」との論調も勢いを増している。一方で、「住民の交通の『足』を守るため、大きな社会的責任がある」とする意見にも耳を貸さねばならないであろう。筆者は、その審判は我々自身が下すべきであると考える。個々人が自分の懐を割いてでも存続させ使いたいと思う空港であれば、その空港は存続させればよい。特別会計は全廃し、地方空港は国の直接管理から地方主導の管理に権限を切り変える。地方主導で運営するための個人負担額見積りを算出した上で、投票等により地方空港の存続の是非を問い、利用者自身が毎年支払ってでもその空港を存続すべきであると判断するなら、直接負担で運営すればよい。その前提のもと、離島や過疎地など特に利用者の負担過多になる空港に対して適切に税金を配分すればよいのだ。自分の財布で空港が運営されるとなれば、積極的に空港を利用しようとするし、利用してもらおうと努力もする。空港運営の生産性も飛躍的に向上するはずだ。 これは、端的に言えば、お金の回し方を少し変えて、国民一人一人の意識に働きかけて事態を改善するという意識改革の手法に他ならない。国庫金プールという、見えにくく搾取を積み重ねて出来上がったようなお金を政府の指揮のもとにばらまくのではなく、透明で実感のある自分達のお金として可視化して支出するだけで、人の意識に十分に働きかけ、事態をずいぶん向上させられるのではなかろうか。。 企業再生は『借金を減らすだけでなく、事業モデルを転換できるか』の勝負である。財務リストラで一時的にファイナンスが健全になっただけでは、その企業のコンティンジェンシーが担保されたとは言い難い。 ユートピア
1987年11月からJALは表向き民営化を果たしてはいたが、実情は中途半端なものであり、運輸族議員の顔色をうかがいながら経営にあたるという官僚的な会社の仕組みは、最後まで改善されなかったという。公表された再建計画は、経営陣の総退陣、社員1万6千人の削減、企業年金の大幅カットにより、3年後までにⅤ字回復を果たすというもの。
再建計画の見積もりの甘さは各所で指摘されている通りであり言及は割愛するが、このような、単なる財務リストラ的な従来と同じ発想の策 で果たして本当の意味でのJAL再建は成るのであろうか。
例えば国鉄を例に見てみると、1987年の分割民営化に至るまでに4回もの再建計画が次々に失敗し、5回目の再建計画でやっとこれまでと同様の小手先の再建では破たんするとの危機感から、抜本的な施策である分割・民営化に舵を切ったという過去がある。 もともと国有企業であったという同じ成り立ちを持つ両社には、共通する部分が多くあるであろう。今回のJALの再建策を見る限りは、かつての国鉄のごとく、失敗の繰り返しに突入しているかのように思える。
航空行政問題の主役は狭い国土に都道府県の倍以上も乱立する地方空港と、それを支える空港整備特別会計の存在。地方空港はもともと利用者が少なく9割超は基本的収支(ターミナルビル収支などを除いた純粋な航空機の離発着に関する収支)が赤字であると言われている。驚くべきことに、国管理空港以外の個別空港の収支開示の義務は無く、国管理空港26港のうち22港が、東洋経済の独自調査に回答した地方空港53港のうち51港が赤字となっている。このような空港の濫造を支えてきたカラクリに特別会計制度の存在がある。長らく日本の空港整備は、1970年に創設された空港整備特別会計が担ってきた。08年度からは道路特会等と一本化されたが勘定として残り、実態は変わっていない。道路と同じプール制としたことで、羽田空港を中心とした人気路線の空港使用料や着陸料、航空機燃料税等の利用者負担をその原資として国庫にいったんプールした後、政府が地方空港の赤字補てんのためにばらまくという仕組みだ。既存の地方空港の赤字を補填し維持管理するため、乗り入れてくれる航空会社(その多くがJAL)に対して空港使用料や着陸料の割引、搭乗率保証の補填や、地方空港自身の人件費などにも充てられている。特別会計であらかじめ一定の資金が確保されているから、甘い需要予測に基づいて採算が見込めない地域にも空港が造られる。鉄道や道路など交通網の整備が行き渡り、国内航空路線の利用者数が伸び悩んでいるのに、空港を造り続ける仕組みは40年間温存され続け、狭い国土に空港が乱立する事態を招いた。
国鉄(現JR)の現在の成功は、分割・民営化により国の補助金が一切期待できなくなったことが契機となった。今回の件に関しても、地方空港廃港や運営形態の転換といった航空行政の改革抜きには根本的な解決はあり得ない。市場の原理を無視し、税金を使って利益が出るように見せかけられた路線を配分したり、安易に独占的な航路の航空運賃の値上げを認めるといった、不公平な国の支援を一切排除してもなお、JALが自分の足で立つことができれば、一定の成功を得たと評価できるであろう。約束の3年後、それでもまだ旧態然とした風土のまま、国に依存してJALが存続しているようであれば、そのツケは国民が税金で支払い続けているということだ。
企業再生支援機構とほぼ同じ機能を持ち、2007年に解散した産業再生機構では、卒業銘柄のうち、決算がとれる7社において、事業モデルの転換を評価する上での一つの指標である営業損益が改善 したのは2社だけであった。(典型はダイエー。不採算店舗の削減や遊休資産の売却で、4%だった自己資本比率は30%超に高まった半面、店舗改装などの本業投資が手薄になり、売上高は支援前の半分、営業利益は約9分の1と縮小均衡に陥った。
企業再生支援機構の得意技は財務リストラであったが、事業立て直しは殆どの場合中途半端に終わっているといっても過言ではなかろう。JALは自社事業だけではなく航空行政が一体となった問題でありハードルははるかに高い。企業再生支援機構が同じ中途半端な結果を繰り返さないことを切に願いたい。