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2010.03.17

消費者のリアルな生活シーンから新たな食の需要を見出せ

 クックパッド株式会社が運営する料理レシピの投稿・検索サイト「クックパッド」は、1997年に開始され、3/5発表によると、投稿レシピ数が69万品(前年同月比40.7%増)を超え、20代、30代の女性を中心に月間858万人(前年同月比56.5%増)が利用する日本最大規模の料理レシピサイトである。最も利用の多い時間帯が16時であることから、夕食の献立の支援メディアとして利用するユーザーが多いことが伺える。クックパッドが扱うレシピは、全てユーザーが投稿した手料理であり、各家庭の創意工夫の詰まった家庭の知恵が集結していると言える。

 クックパッドは、多くの消費者に利用される料理レシピサイトである一方で、食品メーカーや調理器具メーカーにも大きなメリットをもたらしている。自社商品がレシピに掲載されることで大きな認知度アップにつながるだけでなく、メーカーにとって思いもよらない用途の発見が、新たな販促活動につながり、売上が急増する商品が増えている。その代表例の1つに「エバラ焼き肉のたれ」がある。焼き肉のたれとしては、高い認知度を誇る商品だが、核家族化の進展、住宅環境の変化等により、「家族で焼肉」という利用シーンの減少や、一度で使い切れずに余ってしまうケースが多く、購入サイクルが長いという課題を抱えていた。そこで「エバラ焼き肉のたれ」を使ったレシピをクックパッドで募集した結果、150件ものレシピ投稿があり、ビビンバ、ピザ、焼うどん、大根サラダ、おにぎりなど、新たな商品用途を見出す様々なレシピが多数集まった。これを機に、ビビンバに「エバラ焼き肉のたれ」を使うことが主婦の間で定番になり、7000世帯以上の家庭で作られる大ヒットレシピも誕生するなど、需要の底上げにつながったと言える。また、食品以外にも、競合ブランドのシェアが大きく、広告効果の薄かった「クックパー クッキングシート」を使ったレシピを募集した結果、簡単な材料をシートで包み、レンジで3分あれば完成してしまう蒸しパンが大ヒットになり、「朝ごはん」でクックパッドを検索すると「クックパー クッキングシート」を使ったレシピが人気順1位に登場するようになった。単発の料理レシピではなく、「朝ごはん」という生活シーンの中で新たな用途のレシピが生まれた、という点が興味深い。まさに消費者主導の用途開発と言える。

 ここで注目したいのは、クックパッドを通して、消費者の実態を覗いてみると、そこにはメーカーが意図していない用途に商品を使っている消費者が非常に多いという点だ。クックパッドに集まる多種多様なレシピが、新たな需要拡大のきっかけになっていることは、メーカーにとって喜ばしいことであると同時に、クックパッドに投稿されるまで消費者の実態に気付かず、商品の販売機会を逃してきた、と反省すべき側面もある。

 では、なぜメーカーは消費者の実態に気付くことができなかったのだろうか。多くの大手メーカーは、アンケート調査、ホームページ会員、CM、店頭試食・試飲キャンペーンといった消費者とのコミュニケーションの場を積極的に図るも、実態を掴みきれていないようだ。
 その原因の1つとして、「消費者の嗜好、価値観の多様化」が考えられる。現代社会には、モノが溢れ、消費者はその中から自分の価値観に合うものを選ぶ、もしくは、自分なりにアレンジする、といったように、個性ある嗜好、価値観を求める人が増え、従来のワンパターンであった生活様式が多様化してきた。その多様化が、メーカーにとって消費者の実態を見えづらくしていると言える。
 2つ目は、「広く浅い消費者との接点」だ。メーカーは食材プロバイダーという立場にあり、直接の顧客が消費者というより小売店や卸売業者であることから、消費者との距離が遠くなりがちである。その距離を埋めるため、各メーカーは様々な販促活動や調査活動を実施し、消費者とのコミュニケーションを積極的に試みている。しかし、どれも広く浅いものにとどまり、消費者の実態を掴む程に距離を縮めるには至っておらず、消費者の実態に潜む尖った情報が、なかなか浮かび上がってこない。結果、消費者からありきたりな情報しか集まらないといった状況が、自社商品はこのような用途で使われているだろう、もしくは、用途は消費者にお任せする、といったプロダクトアウト志向を助長していると考えられる。

 ここで見えてくるメーカーの課題は、単に「モノを売る」という考え方ではなく、いかにして消費者の満足や喜びを追求するか、といった姿勢の醸成であり、多くのモノで溢れている世の中において、既に満足しきっている消費者を振り向かせるために、いかに彼らの生活実態を掴み、彼らの心に深く迫る商品提供をするか、ということではないだろうか。

 そのためには、これまでのプロダクトアウト志向に陥りがちな広く浅い消費者接点とは違う、消費者の多様化した嗜好、価値観を掴み、消費者との距離を縮める仕組みが必要である。施策としては、「消費者同士の情報交換から情報を披露する仕組み」により、家庭に蓄積された情報を消費者から収集し、「まだ公開されていない隠れた情報を直接取りに行く仕組み」により、消費者から発信されない家庭に隠された情報を掘り起こす。そうすることで、消費者の生活実態を正確かつ幅広く掴むことができる。「消費者同士の情報交換から情報を披露する仕組み」とは、例えばクックパッドのように消費者が自発的に楽しく情報を発信する場を提供し、そこから消費者のリアルな行動や考え方を掴む、といった取り組みである。一方、「まだ公開されていない隠れた情報を直接取りに行く仕組み」では、他業界であるが、P&Gの取り組みが参考になる。P&Gは「Customer Is Boss」(お客様はボス)という原則の下、消費者の日常を観察・理解することでしか消費者が満足する商品は提供できないことを理解している。そのため調査担当者は店頭だけでなく、消費者の家に入り、台所から浴室、洗濯機に至るまでの日常生活を観察する「定性調査」を行うことで、消費者の実態の把握に努めている。ここまで徹底しないと消費者の実態は掴めない、ということだろう。消費者の生活シーンを覗くことで、商品の意外な用途や、声には出ない不満などを掴みとり、そこでの発見が大ヒットにつながった商品は、ファブリーズやジョイなど多岐に渡る。食品メーカー、調理器具メーカーもここまで消費者の生活シーンに入り込むことで、ようやく新たな用途の発掘や隠れたニーズを掴むことができるのではないだろうか。
 なお、これらの取り組みは、単発では終わらせず、継続して実施することで、消費者の変化をいち早く掴むことが重要である。

 料理は、様々な生活シーンの中で行われ、個人の嗜好や価値観が多様化する中、そこには無数の消費者による行動、考え方がある。近年では、家族で食卓を囲むシーンも減り、個食化、孤食化が強まるなど、食事のシーンはますます多様化している。消費者のリアルな生活シーンに触れることでしか、知り得ない情報ばかりだ。今後、メーカーにとって、どれだけ消費者のリアルな生活シーンに触れ、多くの気付きを得ることができるかが、新たな需要を見出し、消費者の心に響く商品提供への大きな鍵になるだろう。


 

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