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2010.06.23

日本方式を世界標準へ!~日本企業が世界の中で「勝ち残る」為に~

 2010年6月11日、総務省は、フィリピンの電気通信委員会が、地上デジタルテレビ放送(以下、地デジ)の規格として、日本方式(ISDB-T)を採用する規則に署名したと発表した。
 国際的に見ると、地デジの規格は、アメリカ方式(ATSC)、ヨーロッパ方式(DVB-T/DVB-H)、日本方式の大きく3つに大別される。フィリピンでは、一時はヨーロッパ方式を導入する方向で検討が進んでいたが、最終的には、日本方式が電波干渉に強く山岳地域や車内といった環境に強い事、ワンセグといった移動体端末にも対応可能であることなどが決め手になり、日本方式の採用となった。フィリピンが日本方式を採用するまでには、総務省を初めとする関係官庁、放送事業者、メーカーなどが連携して、フィリピン政府に対して専門家によりセミナーの開催、試験放送の実施などを行っており、日本方式の良さを官民一体となってアピールしたことで、もたらされた結果である。日本方式の地デジの規格を採用した事例は、これで9カ国目であり、アジアではフィリピンが初となる。これまでは、南米を中心に日本方式の導入が続いており、ブラジル、ペルー、アルゼンチン、チリ、ベネズエラ、エクアドル、コスタリカ、パラグアイが導入を決定している。いずれの場合も、官民一体となって日本方式の利点をアピールしてきた結果である。

 日本方式の地デジが海外に普及していくメリットは、単にその国のインフラ開発に関与できることだけに留まらない。当然、そのインフラが整った後には、日本方式の規格に準拠した放送機材や地デジ対応のTV、地デジ対応の携帯電話といった移動体端末の市場が生まれる。つまり、日本方式の規格の導入を決めた国では、その後に生まれる市場に対して、製品やサービスのノウハウを持っている日本の企業が大きなアドバンテージを持つこととなり、その市場のシェアを獲得できる可能性が高まる。官民一体となって、日本方式の普及に取り組んでいるのも、そういった市場創造の狙いがあってのことである。
 ところが、そのように官民一体となって、様々な苦労をしながら他国に日本方式のインフラを導入にしたにも関わらず、その後の市場に対しては、日本企業はアドバンテージを活かすことができていない。実際に、日本方式が席巻している南米の家電量販店で見かけるのは韓国企業の製品が多く、日本企業の製品はほとんどない、というのが現地の日本大使館職員の感想である。実際、日本方式の規格が採用された際に、放送事業者向けには日本企業の放送機材などが導入されている一方で、TVや携帯電話などの移動体端末の市場では、現地の人が実感できる程、日本企業の製品は店頭には増えていない。つまり、せっかく自ら作った市場に対する自分たちのアドバンテージを活かすことができないうちに、他国の企業に市場を奪われつつあるということであり、これでは日本方式に準拠した製品を持つ他国の企業の為に、市場を創造しているようなものだ。
 
 日本が世界基準や世界市場から取り残されないように、官民一体となって諸外国に働きかけることで、海外における市場を創造するという段階までは成果を上げてきているものの、その後の市場のシェアを獲得していく段階においては、まだ詰めが甘い。極端な言い方であるが、今のままでは日本方式の規格の優秀さをアピールして回っているだけの宣伝活動で終わってしまう。日本方式の規格を導入し、インフラの構築や技術者育成を支援しながら地デジの運用を開始させることで、日本方式の地デジ対応機器の「市場創造」まではどうにか漕ぎつけているのだが、「市場のシェア獲得」までには、どうしても次の一手が足りない。
 南米でよく見かけると言われる韓国製品であるが、韓国の地デジは実はアメリカ方式である。さらに言うと、韓国には自国の方式の地デジもある(但し、移動体通信向けに採用されている)が、それに囚われることなく、「郷に入れば郷に従え」ということなのか、韓国企業は現地に対する十分なマーケティング戦略を練り上げつつ、その国の方式に準拠した製品をいち早く開発し、他国へ送りこんでいる。これは地デジ対応TVに限らず、携帯電話端末などでも、北米やヨーロッパ地域に準拠した方式の端末を開発し送りこんでいくことで、今ではシェアランキングの上位を占めるまでに成長している。
 また、日本方式を導入したブラジルも、日本方式が自国の環境にあった優秀な方式だから、という理由だけで導入を決めたわけではない。南米では、ブラジルが日本方式の地デジ導入を決めた最初の国であり、世界全体で見ても、日本方式の導入を決めた最初の国であった。そして、その当時ブラジルの周辺国では地デジをどの方式とするかまだ決まっていなかった。つまり、ブラジルにとっては、南米以外ではまだ導入されていない日本方式を導入し、他の国によりも先に日本方式に準拠した製品を開発することで、日本方式の地デジ市場に対する優位を確保することができる。その上で、周辺国に対して日本方式の導入を奨めていくことで、ブラジル企業が優位性を持った市場を国外に創造することにも繋がる、という狙いもあったはずである。

 日本の官民一体の施策は、後発組である(地デジは、アメリカ方式、ヨーロッパ方式の方が先行して開発、運用されていた)せいなのか、日本方式の規格を採用してもらう事が目的化してしまい、韓国企業やブラジルに見られるような、他国の規格でもあっても自分たちの成長の糧になると思えば、積極的に取り入れていこうとする「大胆さ」や「スピード」、将来を見通して選択を変える「賢さ」が、今一つ足りないのではないか。

 日本が非常に優れた技術や製品を開発しながらも、それらの規格が日本独自のものであるが為に、海外では通用しないという「日本のガラパゴス化」が指摘されるようになって久しい。ガラパゴス化の象徴のように言われていた携帯電話も、ついに日本国内では市場が飽和し、今では各キャリア同士のシェアの奪い合いが激しくなり、携帯電話端末のメーカーの中でも、携帯電話事業から撤退する企業や企業間で事業を統合するという動きも出てきた。もはや「生き残り」を掛けた争いの様相を呈している。だが、これも日本企業同士で争っていたうちは、まだマシだったかもしれない。今ではガラパゴス化した日本に、i-p Phoneという外来種が現れ、生態系を崩し始めている。この外来種に対して、国内市場を守りきれなくなったとしたら、海外に市場を持たない日本企業は目も当てられなくなってしまうだろう。

 日本だから生まれた技術がある、日本だからできたことがある、ということは日本人として誇らしく、是非とも海外での日本企業の活躍・成長を見たいと思う。地デジや携帯電話といったエレクトロニクス分野に限らず、交通や医療、農業や水産業などでも世界に誇れる技術は多々あり、官民一体となって進出する事が非常に有効な分野もあるだろう。それを積極的に海外に展開していき、人々の生活にとってなくてならないシステムや製品を日本方式にしていくことで、かつては「ガラパゴス」と揶揄されたような独自色の強い技術であっても、徐々に世界に浸透し、いずれは世界標準として扱われることにもなるだろう。
 そういう環境を作ることができれば、日本企業は日本国内での「生き残り」を掛けた争いから、世界を相手にした「勝ち残り」を掛けた争いにも、有利な条件で挑戦していける。その為には、相手の国にインフラだけを構築し、技術者を育成して終わり、といったような慈善事業のような形で終わらせないことが重要だ。今後は、日本方式の規格導入後に生まれる市場における「勝ち残り」戦略までが描かれた官民一体の施策が展開されることを期待したい。

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