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2010.10.01

自身が生きた証とは ~“記録”には残らない自分自身が生きたという“記憶”~

 ある調査によると、自らが亡くなった後、1年に1度以上は墓参りをしてほしいと回答した人が80%以上、さらにそれはなぜかとの問いに、墓参りすることで生前の自分を思い出してほしいという回答が多かったという。年にほんの数分でもよいので生きていた時の自分を思い出してほしいという希望だ。

 自分自身が後世の人たち(特に身内)に、自分が生きていたという記録を遺しておこうと思うのは自然なことだ。いや、むしろ自分自身が何かを残そうと考えたわけではなく、無意識のうちに様々な記録が残こっていると考えるべきだろう。記録の中でも代表的なものは現在であれば写真や動画である。また生前に関わった創作物(文字を介した手紙や書状、制作物)、さらに仕事の結果として(書物や特許、建築物など)現世に遺してきたもの、最近ではツイッターやブログなどの電子メモリー上のデータなども含まれる。そして最後の足跡は火葬されて埋葬されたあとに墓標の横に刻まれる戒名と俗名だ。それらも故人が生きていたという物的証拠だ。 しかし生前の故人を思い出すということを前提とすると、それらの遺品類だけでは十分ではない。 例えば、図書館に行けばすでに亡くなった方が生前に書いた書物で一杯だし、黒部ダムに行けばトンネルを掘削した人たちの集合写真が残っている。それらは故人の仕事の結果としての遺品であることは間違いないが、書物を読んで主人公に感情移入することはあっても作者を懐かしむことはないし、写真をみて大変な苦労の末に偉業を成し遂げた人たちだということは理解できるが、写真の中のひとりひとりに思いを馳せることは無いだろう。 我々がそれらの遺品に触れても故人を懐かしく思い起こすことが無いのは、その故人との接触がないことから、生前の彼らに対する記憶を持たないからである。

 では生前の故人の記憶とはどのようなものだろう。故人との美しい記憶とは過去に故人と接触したときの思い出であり、目を閉じれば頭の中に思い浮かべることのできる、生きている故人のことだ。その思い出すという行為によって頭の中に蘇った映像や音声が、まぎれもなく故人が生きていた証なのである。本当の意味での故人が生きていた証とは、現世に生きている人の脳に刻まれた故人との記憶そのものであり、どれだけ沢山の生きていた物理的証拠を遺してたとしても、現世の人々に記憶がなければ、若しくは人々の記憶から忘れ去られてしまえば、故人が生きていた証も単なる物にしかすぎないのである。

 記憶の奥底を探ってみると、誰にも故人の思い出というものがあるはずだ。頭の中に結像される映像や音声は、故人との忘れられ得ぬ思い出だと思うが、良きにつけ悪きにつけ故人の行動や言動、そして人格が記憶に残っているのではないだろうか。ちょっとしたなんでもない故人との風景であっても、思い出として記憶しているのは自分自身に何か鮮烈な要素があったからだろう。 結局のところ、故人の最も大切な遺品は他人に与えた“故人の人格の記憶”そのものであって、それは故人に会ったときの行動や言動、さらには感じた人格そのものなのである。

 それらの生きていた証は思い出として頭の中に記録されることによってのみ保存され、頭の中でいつでも思い出すことができる。故人の遺品を見たり、ちょっとしたことで思いを馳せたりすることにつながるのである。 しかし、それらの脳内記憶は次第に風化しセピア色や脚色され美化されたものなっていくこともあるだろうし、また記憶を持っている人が亡くなれば消滅してしまうような儚く脆いものだ、故人の記憶を持っている人すべてが途絶えれば、故人の生きていた証そのものも消滅し、あとは遺品だけが風化を待つことになる。故人の生きていた証とは永くても数代しか残らないほどに脆いものなのである。

 地球上には60億を超える人間が住んでいる。そのうち歴史に名を残すことができるのはほんの一握りだろう。歴史を作っていく将来の歴史上の人物を支えている何十億もの歴史に残らない人物があってこそだが、無名である一般人が末代までの記憶を遺すことは本当に難しいことだ。自分が歴史に名を残す側であれば己の名声や功績が後世まで語り継がれるだろう。 いつまでも思い出してもらう、それが自己が生きていた証を遺す唯一の方法であるならば、より多くの人の記憶に残る自分を作っていこう。どうせ記憶に残るなら自分との良い思い出を遺してほしいものだ。すくなくとも自己の周りにいる思い出を刻んでくれる人たちには、美しかったと思える人格を遺したい。思いだしてもらえる自己を創る、まずは恥ずかしくない人格をもった無名の偉人になるのが先だ。そしてお彼岸は故人の記憶を呼び覚ますいい機会だ。


 

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