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2010.09.14

大手居酒屋チェーンの低価格競争に飲み込まれるな!

 居酒屋業界のリーディングカンパニーによるマーケット争奪戦は、「客単価2000円以下」を目安にした低価格ステージに突入しつつあるようだ。その争奪戦の中、特に注目を集めるのは、全品270円均一の「金の蔵Jr.」(株式会社三光マーケティングフーズ)のような全品均一低価格店舗や、メニューの約70%を250円で提供する「仰天酒場 和っしょい」(ワタミ株式会社)のような一部低価格均一店舗だ。現在は、首都圏を中心に集中出店が進み、マスコミで取り沙汰されることも増えてきた。中でも、「金の蔵Jr.」の急拡大ぶりは目覚ましく、2009年8月の1号店オープン以来、急速に店舗数を増やし、2010年7月末時点で67店舗を出店、将来的には3桁出店を目標に掲げている。三光マーケティングフーズは、「金の蔵Jr.」以外にも「東方見聞録」「月の宴」といった既存店舗の半数以上をここ1年で270円均一に切り替えるなど、低価格均一店舗の拡大を一気に進める様子が窺える。

 低価格均一居酒屋チェーンは、元々20年以上前から存在はしていた。関西で1986年から280円均一業態を続けている「鳥貴族」がそうだ。現在の低価格均一居酒屋の流行は、「鳥貴族」が2005年に東京進出を果たしたことが契機と言われている。2005年当時、同チェーンはフランチャイズと直営を合わせて50ほどの店舗だったが、東京進出をきっかけに2010年8月末現在で165店舗まで一気に拡大し、売上も順調に伸ばしている。不景気の煽りに若者のアルコール離れなどが重なり、売上低迷に悩む大手チェーンが、打開策として「鳥貴族」の躍進に注目したのも自然な流れと言える。低価格均一居酒屋が消費者を呼び戻す起爆剤になることと、経営として成り立つことを、大手チェーンは「鳥貴族」の躍進から理解したのだ。

 低価格均一居酒屋が消費者に受け入れられている背景としては、大きく2点考えられる。
 1つは、「消費者の嗜好や生活スタイルの変化」だ。景気後退により世帯年収が低下する中、生活費節約の1つとして真っ先にカットされてしまうのが「お小遣い」だろう。2010年4月の調査では、一般家庭のサラリーマンの1ヵ月平均小遣いは昨年から5,000円ダウンの40,600円となり、3年連続で減少しているという。最近「節約疲れ」という言葉もよく聞くが、財布の紐が固いサラリーマンにとって、時々の贅沢はあるものの、普段は低価格でヤリクリする、というのが現状だろう。結果、これまでの「くつろげるところでゆっくり美味しく飲みたい」という欲求から、「とにかく安く飲みたい」というシンプルな欲求へと変化していったのだ。
 もう1つは、「消費者心理を突いた巧みな仕掛け」にあると考える。消費者の心理として、通常の居酒屋の半値に近い価格で飲食することに対して「自分は節約をしている」といった自己肯定意識や、均一価格のため支払金額の進捗を確認しながら食事できる、といった安心感が生まれ、生活防衛意識の高まりを見せる消費者も、つい気軽に利用してしまう。「安上がりで賢い消費をしている」、「総額が知れているからいいだろう」という無意識の安心感がそこにはある。そういった心理に低価格均一居酒屋は、うまくはまっているということが人気の背景にあると見ることができる。

 前述の通り半数以上の店舗を低価格均一型に切り替えた三光マーケティングフーズの2010年6月期第3四半期の業績は、売上高197億4600万円(前年同期比2.7%増)、営業利益19億7300万円(同11.8%増)、経常利益18億8800万円(同1.4%増)、純利益9億8600万円(同11.1%増)と増収増益を達成した。
 低価格均一店舗に手応えを掴んだ各大手居酒屋チェーンは、店舗数の3桁出店を目標に掲げており、前述の「鳥貴族」は、2016年までに1000店舗オープンを目標に見据えるなど、出店の勢いを今後さらに加速し、低価格競争は激しさを増すことが考えられる。そのことは、今後の居酒屋業界にどのような影響を及ぼすだろうか。居酒屋には、これまで価格とは別の土俵で勝負をしてきた高中級型居酒屋チェーンも数多く存在する。ただし、消費者の懐事情などから客足が徐々に低価格店舗に移ってしまえば、価格競争に手を出し始める高中価格帯店舗が出てくるのではないだろうか。元々、値頃感がウリだったワタミは、これまで低価格業態への参入に対して「我々が求めるサービスの質が維持できない」(渡邉会長)と否定的だった。前言を翻してまで冒頭で紹介したように低価格業態へ参入するに至った理由は、急速に冷え込んでいく居酒屋需要に対する危機感だ。2009年11月、ワタミの既存店売上高は前年比13.5%減と過去最低レベルの減少を記録した。自社の厳しい実績に、渡邉会長でさえも「他の低価格業態の影響を受けた」と認める。「手をこまねいてはいられない」そんな危機感が、低価格店舗出店へと方針転換を強いた。
 この動きは、今後、他の業績悪化が続く高中級型店舗チェーンにも波及することが考えられる。ただ、価格勝負はそもそも本望でなく、さらにノウハウ含め、大手低価格店舗チェーンに分があり、妥当な戦略ではない。さらに低価格が低価格を呼ぶ勝負となり利益も失われる。
 では、高中級型居酒屋チェーンは価格競争に陥らないために、低価格以外の手段で、今後どのようにして生き延びる術を見出すべきだろうか。そもそも低価格居酒屋は、マスコミ報道で強さばかりが目立っているが、弱みも当然ある。弱みを認識することで、価格競争に巻き込まれたくない居酒屋チェーンは突破口を見出せないだろうか。

 低価格居酒屋チェーンの弱みは以下の通り大きく2つあると考える。
 1つ目は、「サービスレス」である。「サービスレス」は、現状の低価格居酒屋にとって大きなコスト削減要素であり、切っても切り離せないものである。例えば、注文のタッチパネル化や、セルフサービス形式、などにより店員のオペレーションを簡略化している。そのため、個々の従業員の能力に頼る面は少なく、人材育成にそれほど力を入れる必要もないため、人材育成費を抑えることができる。ただ、そんな無機質な居酒屋に物足りなさや寂しさを感じる人も多いのではないだろうか。威勢のいい店員に迎えられ、気持ちのいい接客応対、キビキビ・テキパキとした店員の動き、気の利いた気配りやコミュニケーションといった要素も居酒屋の大きな魅力的要素であり、それらは鍛え上げられた人材によって生み出されるものである。温度のある「活きた」店舗は人によって成り立っており、そこに人を引き寄せる力があるのではないか。
 2つ目は、「納得品質止まりの料理」である。言い換えると「低価格の割には美味しくボリュームもあるため、納得はできるレベルの料理」ということである。それはそれで十分価値が高いことであり、実際に多くの人が満足できる品質レベルであることは間違いないだろう。ただし、調理に手数をかけることができないことや食材もコスト重視であることから「驚くべき品質」の実現までは難しいだろう。店舗にとってファン(=常連客)を作るポイントは、いかに納得してもらえるか、ではなく、いかに良い意味での「驚き」を与えるか、ではないか。納得品質であれば、他の店でも体験できる。ただし、他店が真似できない「驚くべき品質」は、人をがっちり捕まえ離さない力がある。
 以上のように、低価格均一居酒屋の強みと見られていた要素に対して、別の角度から見ることで弱みとして捉えてみた。これらは、低価格均一店舗のデメリットであり、他店が優位性を保つことができるポイントと考えられる。

 居酒屋業界は、1996年以降、既存店の売上が前年比100%を越えた年はないようだ。常に新店が既存店の売上を食う形で業界は成長しているという。今は、低価格均一型の新店が急拡大しており、その流れに乗り、低価格競争に打って出る店舗もますます増えてくるだろう。そんな中、居酒屋経営者は、話題性や人気に翻弄されることなく、今一度冷静に自分の店舗の強みは何か?こだわりは何か?といった点を改めて振り返ってほしい。低価格競争に安易に乗り出すことで、自身が持つ強みやこだわりを薄めることは自殺行為であり、大手チェーン主導の低価格競争は、更なる低価格を呼び、利益が出しづらくなるといった消耗戦へと向かうことが考えられる。
 価格で勝負する店が増えている時だからこそ、自らの強みやこだわりをよりいっそう磨き上げることが重要ではないか。低価格均一居酒屋の流行を契機に、敢えて価格の勝負はせず、個性的で魅力的な居酒屋が増えることを期待したい。


 

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