2010.12.26
「進化を伴った原点回帰」を遂げたネットスーパーが生活者を支える!
日本チェーンストア協会が発表した今年11月の全国のスーパー(スーパーマーケット、総合スーパー)の売上高は1兆137億円、既存店ベースで前年同月比0.5%減となり、24カ月連続前年割れとなった。年ベースでは1997年以来、売上高は連続下降を辿っている。同協会は「消費者の節約志向は根強い」と厳しい見方を示している。そんなスーパー業界全体が停滞している中、業界全体の動きに逆行する形で、急成長している事業領域がある。ネットスーパー事業だ。ネットスーパーとは、インターネットで商品を注文すると、実店舗から指定した時間帯に自宅まで届けてくれる宅配サービスのことだ。ちなみに、商品の価格は店頭価格と変わらず、一定金額以上買い物をすると配送料は無料になる。 ネットスーパーの市場規模は2007年以降急拡大しており、2009年の市場規模は食品の販売額で前年比25%増の292億円、2012年には09年比1.5倍の435億円になると予想されており、年率2ケタペースで成長の勢いを続けている。最大手のイトーヨーカ堂のネット会員は月2万人ペースで増えており、来春には85万人に達する見込みだ。会員の6~7割が30代~40代の主婦であるという。 ネットスーパー急成長の背景には、実店舗にはない利点がある。それは「時間」と「距離」といった2つの制約からの解放である。生活者にとって、スーパーはほぼ毎日利用する身近な存在であり、「時間」と「距離」を気にせず利用できることは大きな利点である。 ネットスーパーの登場で、店に行かずとも自宅から日用食品が買えるようになり、大変便利な時代になった。しかし、ネットスーパーの原点は詰まる所「御用聞き」である。「御用聞き」はご存知の通り、昔から存在するものであり、多くの人に馴染み深い例としては、サザエさんに登場する三河屋のサブちゃんだろう。磯野家の酢、油、醤油などは全て三河屋に配達してもらっており、そろそろ切れそう、というタイミングを見計らって御用聞きに来てくれる。ネットスーパーは、サブちゃんの代わりを担っており、御用聞きの本質と言える「必要なものを適切なタイミングで注文を受け」「家まで品を届ける」と言った部分は変わっていない。変わった点は、インターネットを活用して御用聞きを行う点であり、ネットスーパーは進化を伴った原点回帰と言える。 「御用聞き」が進化したネットスーパーの普及は、今後、少子高齢化が進展する日本社会において、高齢者を救う一助になるだろう。では、ネットスーパーは今後どのような課題を克服する必要があるだろうか。 ネットスーパーは、まだ利用経験率が低いため、まずは認知、理解、購入意向を上げる方法について考えてみたが、いずれにおいても共通して大事なことは「ネットスーパーによって多くの人に喜んでもらえるようにするにはどうすればいいか」といった利用者視点からの発想である。 近年、郊外型の大規模店との競争や深刻な不況による経営難から商店街、スーパーの相次ぐ閉店やバスなど公共交通機関の廃止により、日常の買い物が困難になった「買い物難民」と呼ばれる高齢者を中心とする地域住民が増え始め、深刻な社会問題となっている。高齢化社会は今後ますます進展が見込まれ、このような人達は今後も増えると思われる。外出が自由にできない人にとって日用食品を届ける御用聞きビジネスの役割は決して小さなものではない。行政も「買い物難民」支援に乗り出し、宅配サービス、移動販売など、支援活動が活発になりつつある。そんな中、ネットスーパーの役割は小さなものではなく、ネットスーパーの存在は「買い物難民」にとっても有益なものであるはずだ。 フェニックス
「時間」制約からの解放に関しては、主に帰宅時間が遅い単身者、共働き世帯にとって大きな利点である。このような人達は、仕事帰り、夜遅くにスーパーに寄ってから帰宅することが多い。ただ、遅い時間帯は、生鮮食品や総菜のほとんどが売り切れており、欲しい物を買えないこともよくある。ネットスーパーであれば、仕事の休憩時間などに注文し、配達時間を帰宅時間に合わせておけば、欲しいものを帰宅時間に関係なく購入することができる。また、家事に忙しく買い物する時間がなかなか取れない小さな子供がいる主婦にとっても便利な存在である。
「距離」制約からの解放に関しては、主に自由に外出できない高齢者や妊婦にとって大きな利点である。距離は「移動の手間」と「持ち運びの手間」を生む。家からスーパーまで距離が遠い場合、車や自転車を使えない人にとっては、家から店舗までの往復に非常に多くの労力を使うことになる。特に、飲料、野菜、米など重い物を購入した時はなおさらであり、さらに雨が降っている日は買い物に行く気すら起きないだろう。ネットスーパーであれば、店舗に行かなくとも注文が可能であり、自宅まで配達してくれるため、自宅から店舗までの移動やその間の荷物の持ち運びを気にする必要がない。その時必要なものを必要なだけ購入することができる。
ある調査によると、ネットスーパーを現在利用している人は、メインユーザーの30代~40代の主婦でさえ約12%で、1度も利用したことがない人は約80%もいる。60代では約85%に至る。ネットスーパーの利用者は急拡大しているとはいえ、まだ一部の人が利用している状態であり、全体で見ると普及率は低い。
人が商品やサービスを購入する際、「①認知②理解③購入意向④購入⑤継続」といった手順を踏むことが一般的であるが、ネットスーパーに関しては利用経験率が低いことから、まず①~③を強化することが今後の課題と考える。
1つ目の「認知」は、とにかく多くの人にネットスーパーの存在を知ってもらうことが重要である。1都3県のシニア世代507人を対象にした電話調査では、ネットスーパーについて「詳しく知っている」が22.7%、「名前程度は知っている」が56.8%と、約8割の人が知っており、全体的に認知度は高い。一方で、年代別に見ると、年齢が上がるほど認知度は低く、70代では7割、80代では5割と高齢者の認知度向上は課題である。高齢者が普段よく目を通すもの(テレビ、新聞、雑誌、近所の回覧板など)、よく通う場所(病院など)などでネットスーパーの存在をアピールしたり、家族を通じて知ってもらうための家族に向けた働きかけが必要である。
2つ目の「理解」は、ネットスーパーの特徴・利点を知ってもらうことが重要である。ある調査によると、ネットスーパーを利用しない理由には「実際に自分の目で選びたい」「賞味期限が近い商品を送ってくるのではないか」といった声が大半を占めている。ただ、これらの意見は、ネットスーパーを正しく理解していないが故の思い込みとも言える。ネットスーパーが配達する商品は、誰よりも売り場と商品を知っている売り場担当者、訓練を受けたピッキング担当者の目で選んだ良質なものであり、素人が自分の目で選ぶよりもいいものが選べる。そして、もちろん鮮度が高く安全なものである、ということをネットスーパー側は生活者にきちんと伝えなければならない。これらを正しく理解してもらうことができれば、上記2つの声は緩和されると考える。ネットスーパーの裏で何が行われているのか、といったことを丁寧に伝えることが重要である。もちろん従業員教育の手を緩めることなく、信頼の向上に力を注ぎ続けなければならない。
3つ目の「購入意向」は、ネットスーパーを使ってみようと思ってもらうことが重要である。例えば、「実店舗が好きで信頼しており、あの店舗から自宅まで送ってもらえるのならネットでも任せられる」「ホームページ上で対象商品の収穫日、賞味期限、収穫地が表示されていて好感が持てる、安心できる」「ネット限定のお得サービスがある」など、信頼、安心、お得といった要素が消費者を買う気にさせる。これらの買う気にさせる要素の拡充とさらなる深堀が多くの生活者の心を刺すようになる。
ネットスーパーは、21世紀型「御用聞き」ビジネスとして、「買い物難民」を始めとする多くの生活者を支えるパートナーとなり、今後進展する高齢化社会に欠かせない存在になるのではないだろうか。ネットスーパーを皮切りに、再びスーパー業界が活性化すると共に、多くの生活者が不自由なく買い物できる基盤が早く出来上がることを願う。