PMI Consulting Co.,ltd.
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2007.07.19

NOVAとコムスンの不祥事に見る負の学習

 企業の不正行為に関する報道が喧しい。中でもNOVAとコムスンの不祥事は、組織が持つ危うさを象徴的に示すものだった。

両社の不祥事は、経済的な成長を追求する経営に、サービスの供給を担う組織の成長が追いつかなくなったことに起因する。急成長を遂げている企業を見ると、不祥事にまでは発展しなくとも、似たような状況に陥っているケースが少なくない。無論、経済活動の上に成り立つ企業が利潤を追求するのは否定すべきことではない。成長を求める経営者の欲望も企業を支える大切な要素だ。しかしながら、あらゆるビジネスが顧客の需要を満たすことによって成り立っている以上、供給能力の不備を無視した経済的成長の追求は必ず破綻する。NOVAもコムスンも、明らかにその点において判断を誤っていた。
 注目しなければならないのは、いかに優れた経営者も、常識を持ち合わせた社会人が構成する組織であっても、時として正気を失う可能性があることだ。あらゆる組織は、閉鎖系の共同体としての性質を持っており、閉鎖的であるがゆえに負の学習を止められなくなることがある。両社に関する一連の報道を見ると、現場を預かる社員が、何かおかしいと感じていたことがわかる。問題なのは、何かおかしいと感じながらも軌道修正をすることができなくなるような力学が組織を支配していたことだ。ミートホープの不祥事には、その極端な例を見ることができる。ここに言う負の学習とは、社員が経営者や上司の顔色だけしか見なくなり、ごまかしやつくろいに向かうような学習を指す。そのような学習を常とする組織には、決して顧客の声は届かない。当然のことながら、需要の本質を理解して、適切な供給を行うための前向きな学習は忘れ去られて行く。
 三菱UFJフィナンシャル・グループは、この半年間で5件もの業務改善命令を受けている。もし一部のマスコミが指摘しているように、出世に響くような悪い情報を上には報告しないとする内向きの体質や、統合前の組織間でのパワーゲームが主な要因だとすれば、その組織は、顧客の需要に応えるというビジネスの本懐を忘れ、正気を失っているとしか思えない。また、国家的な問題を起している社会保険庁の場合、自分達がまともな仕事をしていなかったことに対する自覚すらないように見える。もしそうであれば、まさしく閉鎖系の共同体が持つ負の学習がもたらした不祥事に他ならない。メガバンクも、官僚機構も、優れた頭脳を集めることに成功しているが、その頭脳にこのような学習しかさせていないとすれば、日本の産業の発展にとって極めて重大な機会損失ではないか。

 しかしながら、あらゆる組織は、閉鎖系の共同体としての性質だけでなく、市場や顧客に対する開放系の共同体としての性質を併せ持っている。経営者も、社員も、一歩会社を出ればひとりの消費者なのだ。経営者は、常に需要の本質を見失わないように、組織の学習を導いていかなければならない。それが唯一正気を保つ方法だからだ。また、そのような学習を常とする企業は、正気を失わないだけではなく、新たなビジネスチャンスを発見することにも成功している。日本マクドナルドは、需要の本質を探るための組織的な学習を重視して、次から次へと新たな商品を開発し、着実に業績を伸ばしている。いつの時代も、いかなる市場においても、組織の学習を助成する最も有効な教材は顧客の声だ。
 NOVAは、膨大な広告投資を回収するために店舗を拡大することに固執した。しかしながら、顧客の声に真摯に耳を傾け、需要の本質を見極めていれば、本当に投資を集中すべきことは何かに気付くことができたはずだ。
 コムスンも、現場をノルマで追い込むだけではなく、サービスの供給体制を強化することに、組織的な学習を集中させるべきではなかっただろうか。介護市場の動きに目を凝らすと、地域の住民によるコミュニティー型介護ビジネスへの様々な試みが台頭していることがわかる。これは脅威ではなく機会だ。例えば、この様な動きをフランチャイズ・ビジネスとして支援し、コミュニティーに対して不足しているノウハウやリソースを供給しながら、自社の供給体制として取り込んで行く方法もあるだろう。介護市場は、今日の供給者が明日の受給者になるような性質も持っており、その循環構造を活かすことで、サービスの供給体制を強化する方法もあったはずだ。コムスンは、世界に先行する新たな成長セクターを創出する可能性を持っていただけに、今回の不祥事は残念でならない。
 90年代の後半に、米国は、IT産業に優れた人材を流入させることに成功しているが、いつの時代も、新たな成長セクターの形成には、優れた人材を流入させることが不可欠だ。政府の協力も必要だが、基本となるのは企業努力だ。成長分野に取り組む企業や有望な需要に対応する企業には、新たな雇用を創出する使命がある。雇用を創出するということは、供給体制を強化することと同義だ。

 知識が競争優位を左右する今日、絶え間ない知識の生産を可能とする学習の場づくりが不可欠だ。当然のことながら、その学習は、需要の本質を追及するものでなければならない。正しく理解された需要は、決して企業を裏切らないだろう。そして、優れた学習の場には、必ず優れた人材が集まってくる。

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