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2015.11.08

伝承と伝統

 急な肌寒さも感じられ、樹々の葉も装いを変え始めているこの季節。
 ”食欲の秋””運動の秋”など、各者各様な日々の過ごし方があると思うが、”芸術の秋”とでもいうのだろうか。最近、自分のフェイスブックのフィードを眺めていると、「ワンピース歌舞伎」を観に行ったという投稿をよく目にする。それも概して普段歌舞伎などの伝統芸能には全く興味を示さなそうな友人が投稿しており、興味を駆り立てられている。
 「ワンピース歌舞伎」とは、尾田栄一郎先生が描く有名な漫画「ワンピース」を歌舞伎の世界で表現している演目である。歌舞伎をこよなく愛する昔からの歌舞伎ファンの方々の中には、いわゆる”今風”にアレンジしてしまったことで世界観が崩れるのではないか、といった否定的な声を上げる方もおり、賛否両論様々あるようだが、実際に観に行った友人の話を聞く限りでは、なかなかの高評価を得ているのではないかと推察される。

 先に述べた通り、「ワンピース歌舞伎」の面白い点は、様々なルールやお作法が存在する伝統芸能の世界に、現代の漫画の世界観を融合させた点であり、いわゆる”型破り”な演目となっている点である。この”型破り”という点について、今回は考察をしてみたいと思う。
 この点を議論する上では、「伝承」と「伝統」の言葉の違いが一つポイントになる。

 それぞれの意味の違いについては種々の解釈があるようだが、「伝承」とは「伝え承ること」であり、「伝統」とは「伝え統べること」であるため、「伝承」は古くからのものをそのまま受け取って後世に伝えていくことであるのに対し、「伝統」は軸となる考え方を継承し、同じ技術や材料を使いつつも新しいことに挑戦し革新していくものだと考えられる。
 より端的に言うならば、「伝承」は「既存の技術やモノ」など有形なハード的資産を受け継いでいくことを指すケースが多く、「伝統」は「ノウハウやモノの考え方、コンセプト」など無形のソフト的資産を受け継いでいくことを指すケースが多いのではないだろうか。
その考え方で見たときに、先述の「ワンピース歌舞伎」はまさに「伝統的」な歌舞伎であるといえる。

 さて、この「伝承」と「伝統」の考え方であるが、一般企業に対しても重要な示唆を投げかけてくれる。
 情報技術の革新に伴い人々の働き方や生活の在り方が多様化し変化している今の世界では、従来通りのやり方で勝ち残っていける企業は非常に少ない。自社の軸をぶらさずに変化の波に敏感に対応していける企業が勝ち残っていける世の中になってきている。
 すなわち、「伝承的」な側面だけでなく「伝統的」な側面を発揮して革新を続けていかなければ、社会に対する価値創出が難しい世の中になってきているのだと考えられる。
 そのような考え方を実践している企業として、日清食品HDがある。
 日清食品HDの安藤宏基社長は日経ビジネスのインタビューでこう答えている。

『若者をターゲットにしたコマーシャルを打つと、お客様相談室にたくさんのクレームが寄せられます。特に、私と同じくらいの年の方からの批判が、非常に多い。「なっとらん」「日清らしくない」「スピリッツも経営方針もない」って、もうボコボコですよ。 それでも、一部の批判を覚悟で意識的にブランドを若返らせていかないと、ロングセラーにはならない。だから、私やほかの取締役も、もう忍耐ですよ。我々の世代が「ひどい」と思っても、ターゲットに即したマーケティングならやむなしです。』
 「意識的にブランドを若返らせる」という考え方は、いかにも「伝統的」な考え方であるといえる。『人類を「食」の楽しみや喜びで満たす』という軸のコンセプトは変えずに、お客様の在り方に合わせて商品を作りCMを投じることで売り上げを伸ばすことに成功しているからだ。カップヌードルのパスタ版を商品化した際も、「イタリア人にパスタじゃないといわれても、イタリア人がおいしいと言えればそれでいい」というまさに”型破り”な考え方で商品化に踏み出した、という点も面白い。

 日清食品HDのように、既存の技術や商品を「伝承」するだけではなく、会社としての軸(コンセプト)に則って、顧客の変化に合わせて革新を行い「伝統」を築く姿勢は、競争力をもって勝ち残っていく企業になる為に重要なポイントになる。

 「ワンピース歌舞伎」のルフィも千変万化する大海原で海賊王を目指す主人公であるが、荒れ狂う波を乗りこなしながら成功をおさめ社会をより豊かにする企業をこれからも応援していきたいと思う。

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