2017.02.20
「喫煙者天国」日本が大きく変われる日、2020年東京オリンピック
2020年の東京オリンピックまで3年を切り、東京はその準備を加速し始めました。そんな中でオリンピック開催に向けて飲食店での喫煙は、喫緊の課題としてにわかにクローズアップされはじめました。
IOC(国際オリンピック委員会)は、健康の祭典であるオリンピックにはタバコはふさわしくないとの考えのもとで、1988年にオリンピック大会での禁煙方針を採択しました。また2010年には、WHO(世界保健機関)との間で、オリンピックを「タバコフリー」、つまり、たばこの煙のない環境で実施する合意文書に調印しています。これらのこと踏まえて、北京、ソチ、リオデジャネイロ、平昌(ピョンチャン)は、受動喫煙防止法か防止条例(と同様のもの)を制定し、マナーに問題があるとれた北京でさえ禁煙対策を実行しました。それらのことを考えると、東京オリンピックでの全面禁煙は不可避であり、議論の余地はないものです。
政府は、IOCの意向を受けて罰則付きの受動喫煙防止策について検討を始めましたが、これに対して飲食業界、旅館・ホテル業界などの団体が猛反発。緊急集会を開き、一律禁煙でなく分煙など自主的取り組みへの理解を求める決議をまとめました。受動喫煙の対策強化をめぐっては、厚労省が2016年10月に法整備の「たたき台」を公表し、飲食店や旅館、ホテルなどのサービス業施設は店の規模などによらず、「原則建物内は禁煙(喫煙室が設置してある場合は可)」としています。
これに対して、飲食店側の反応は、飲食店は客が嗜好(しこう)にあわせて選ぶもので、公共施設と同じ次元の規制は不適当であること、一律の喫煙室設置は場所確保や費用面で困難であり、スペースを区切った 「分煙」や店内の喫煙環境の掲示など、「これまでの業界の取り組みに理解と支援を求める」としました。 全面禁煙にすることで、廃業に追い込まれる飲食店が出るとの声が多く寄せられていることもあり、小規模店を規制対象外とすることや、分煙推進の財政支援を政府に求める意見も出たようです。喫煙者に便宜を図りたいという、およそグローバルスタンダードからかけ離れた考えに驚くばかりです。
飲食店側が提起している問題は以下の3点に集約されます。
① 飲食店は嗜好にあわせてお客が選択するものであり、公共施設と同じ次元で一律禁煙などと考えるべきではない
② 全面禁煙に踏み切った場合、(喫煙者)利用客が減ることが予想され、経営に打撃を被ることになる
③ 全面禁煙の免除要件として、分煙設備があれば喫煙可能だとされているが、それらの設備の導入には大きなコストがかかり、投資ができない小規模店には死活問題なので、小規模店に限っては全面禁煙を免除すべき
いずれにしても、性急な全面禁煙導入は飲食店(特に小規模な)には大きな経営的打撃をもたらすというもので、店内を仕切った分煙ということで折り合いをつけ、小規模店は免除すべきだという考えです。
ポイントは、完全禁煙にするか、飲食店側の方針や意向によって分煙を選べるようにするかどうかですが、この問題はすでに結論がでており、オリンピック招致に成功した時点(いや、招致活動を開始した時点)で、完全禁煙を実施するしかないということです。前でも述べているように、IOCの方針が全面禁煙である以上は、議論の余地はないのです。それ以上に公共の場(例えば一般道路)での喫煙も厳しく制限されるのは間違いなく、そういう意味では東京もオリンピックを機に、世界に自慢できる受動喫煙ゼロ国家に変貌するチャンスでもあります。
そもそも日本人の喫煙者は、人口の18%で毎年下がり続けており、現在でもすでにマイノリティです。しかし18%のマイノリティの権利を主張し、マジョリティである非喫煙者の権利を反故にしているということこそが本来の考え方であって、飲食店での完全禁煙に反発するような団体の考え方が異常であることを認識すべきでしょう。WHOによれば、2020年に世界死亡原因第三位に達すると予測されている慢性閉塞性肺疾患(COPD)の主要原因はタバコであり、しかも、受動喫煙でも被害を受けるとされています。
ここで飲食店側が提起している問題を検証してみます。まず②の全面禁煙になった場合に本当にお客が減るかどうかです。これまで喫煙可能としているお店が全面禁煙になれば、喫煙客が来なくなるので売上減につながるという考えですが、そもそも全面禁煙になれば、愛煙家といえども禁煙のお店に行かなければならないので、喫煙の可否がお店の選択の要素にならなくなるということです。またこれまでは喫煙可能だということで、敬遠していた非喫煙者や家族連れ客の利用が見込めるので、むしろ売上機会は大きくなります。18%の喫煙者を優遇して82%の顧客を逃すかは、考えなくても答えはでているのではないでしょうか。②の完全禁煙によってお客が減ることがないとすると、分煙設備を導入すれば喫煙可能という「抜け道」を設けることは意味をなさなくなります。むしろ積極的に完全禁煙を推進するほうが無駄な設備投資をしなくて済み、小規模飲食店の経営を支えることにつながるのです。このことから、②が成立することで、③の問題自体が存在しないことになります。
なお、今の分煙と謳っているお店のほとんどは、喫煙エリアと禁煙エリアを分けているだけで、物理的な仕切りがありません。禁煙エリアのすぐ横でモクモクと煙をあげてもよいというお店がほとんどです。分煙というからには、物理的な仕切りをつくって、煙の移動がない状態を確保してはじめて成立します。観光立国を標榜して海外からの旅行者を2000万人以上にすることを目標にしていますが、日本を訪れた彼らは日本の飲食店も自国と同じように禁煙であると思って利用することになります。しかし、分煙と称してすぐ横で煙草を吸っているような環境では、外国人とのトラブルを引き起こすことにもつながることでしょう。
残った①は、お客の趣味趣向でお店を選べるようにすべきだという考え方です。確かに「優雅にシガーの煙をくゆらせながらブランデーを愉しむ」という趣味もあり、それらの楽しみまでを否定するものではありません。そこで、以下のような施策を提案します。
・原則として、飲食店として営業許可されているお店は、完全禁煙とし、分煙も認めない。店の外で喫煙して再度入店も禁止(服についた煙粒子によって受動喫煙によって受動喫煙につながる)
・ただし以下の点を満たしたお店は喫煙可能とする。
・空気浄化設備を導入し、煙草の煙を店の外に出さないようにし、役所の許認可を得ること。(出入り口、排気口での煙濃度基準値以下とする)
・店頭に喫煙可能の看板やステッカーを貼り、非喫煙者の入店を避けること
・喫煙店営業税ということで、売上に対して数%の課税を行うこと。
・従業員は成人限定で未成年の雇用は禁止。
・従業員には通常の給与に加え。受動喫煙手当を支給すること。
これであれば、「喫煙者のために非喫煙者を排除する」という店主の心意気に賛同できる客筋が、高い料金を払って利用することになり、煙を外に出すこともないので、喫煙営業を行っても文句を言われないでしょう。堂々と喫煙者を対象にした飲食店を営業できます。お客は喫煙前提の自己責任で利用するので、隣の非禁煙者を気にすることなく、いくらでも煙草を吸うことができます。このような飲食店業態が支持されて大繁盛すれば、そのような店が増えていくことになるでしょう。
以前は飛行機や新幹線の中でも喫煙可能だったことを考えると、愛煙家は煙草を吸う場所も限られ、高い税金を負担し、相当に肩身の狭い思いをしていることと思います。その証拠に、嫌煙者による愛煙家差別などという言葉なども生まれています。
子供のいる自宅では煙草を吸わないか、ベランダにでて吸うという人も大勢いるので、喫煙者も煙草が有害であることを認識しているということになります。それにもかかわらず、飲食店では平気で喫煙するというのは、家族以外の健康軽視か他人の迷惑などどうでもいいと考えているとしか言えません。
1964年の第18回東京オリンピックは、日本の高度成長を促す大きな起爆材になりましたが、2020年の第32回東京オリンピックは、日本人の健康マナーと社会インフラが、グローバルスタンダードまで昇華する絶好のチャンスになることを期待します。
マンデー