2018.03.26
無期転換をきっかけに、社会全体の人材の適切配置を考えるべき
2018年1月31日財務省が発表した「人手不足の現状及び対応策」(1)によると、人手不足感のある企業が71%であり、去年の67%からさらに拡がっている。1年前より人手不足が深刻になったと答えた企業が31%にあがった。人手不足をいかに解消するかを考えている企業が少なくないだろう。
話しは変わるが、2018年4月から施行される「無期転換」の話題が最近よく新聞やニュースで見られる。無期転換ルールとは、2013年4月1日に施行された改正労働契約法により、有期労働契約が反復更新されて、通算5年を超えた場合、労働者の申し込みによって使用者はその労働者を無期労働契約に転換しなければならないというルールである。背景としては、08年のリーマンショックで雇止めが社会問題化したのを機に、有期社員の雇用安定を図るために、法改正が行われた。
今年の無期転換の対象者は約450万人と推計されている。継続的に契約を続けている有期社員は、実は多くの会社にとって重要な戦力として定着している。そんな有期社員を確保するために、無期転換に対して、企業が積極的に受け入れるようとしているように見られる。
2018年4月からは、いよいよ有期契約労働者による無期転換ルールに基づいて、申込権の行使が可能となる。有期契約労働者が無期転換すれば、有期労働者が雇止めの不安から解放され、企業も必要な人材を確保することができるようにと思われる。
労働政策研究・研修機構が2017年5月に「改正労働契約法とその特例への対応状況等に関するアンケート調査」(2)を行っている。フルタイム契約労働者あるいはパートタイム契約労働者を雇用している企業を対象に、無期転換ルールにどのような対応を検討しているかについて調査した結果、「なんらかの形(通算5年超から+5年を超える前に+雇入れの段階から)で無期にしていく企業が、フルタイム契約労働者で計62.9%、パートタイム契約労働者でも計58.9%であるのに対し、「有期契約が更新を含めて通算5年を超えないように運用していく」企業が、フル契約労働者が計8.5%であり、パートタイム契約労働者が計8.0%であった。
小売業や物流業のように、深刻な人手不足で困っている業界では、すでに無期転換を実施している。
2018年2月14日の日本経済新聞で「ジョイフル、全パート・アルバイト1.7万人無期雇用」という記事に、「人手不足の中で、優秀な人材を囲いこむために先んじてすべてのパート・アルバイトを対象に無期雇用に切り替える」との記述があった。
また2018年3月16日の同新聞には、「ヤマト、全運転手を正社員に」という記事に、ヤマト運輸は、春季労使交渉で、契約社員の約5000人(その中フルタイムで働く運転手が3000人)を5月に正社員登用することで合意したとの記事が掲載されていたが、待遇改善で士気を高め、人材確保につなげることが狙いのようだ。
ただ、今後益々人材不足が進む中で、無期転換だけで、本当に人材の確保はできるのだろうか。
有期社員を全員正社員か無期化にしても、人手不足に問題は根本的に解消されるわけではないし、他社がより良い条件(給与やその他)を提示すれば、辞める人がやはり辞める。
日本社会全体から見れば、自社内に人材を抱え込もうとすることは、さらに人手不足を深刻化させ、人の奪い合いになるだけかもしれない。
無期転換を機に、各企業が人材の奪い合いの「競争」ではなく、社会全体の生産性を上げるための人材の活用の「共創」ができるように、構造的な解決策を真剣に考えるべき時代に来ているのかもしれない。
では、どのような検討が必要になるのでしょうか。
まず、自社の業務の棚卸。今社内で行われている業務が本当にやらないといけない業務なのか、業務を細分化して、その中で、本当にコア人材を配置して、行うべきものと、そうではないものを決める。コア人材がやらなくてもいい業務を、自動化やAIで解決するか、場合によって、完全にアウトソーシングすることや、業務自体をやめることも考えられるだろう。つまり、本当にコア人材がやらなければいけない業務だけを抽出して、人員配置を考えることが必要だ。
その上で、一人の人材を一つの部署や一つの会社にとらわれず、活用できるようにすることは人手不足の解消につながるかもしれない。社内で、組織横断的に戦略的な人事配置や人材開発を図り、タレントマネジメントを導入する企業も増えている。
一方、社員の方も、固定的な雇用にとらわれず、社会全体に自身の能力を提供する発想で、柔軟な働き方をすることも求められるようになるだろう。
2017年3月に、働き方改革実現会議決定で、「働き方改革計画」が発表された。労働参加率向上、労働生産性向上、非正規の待遇改善、ワークライフバランス実現などが目的である。働き方改革実行計画では、実際に「柔軟な働き方がしやすい環境整備」が入っている。日本では在宅勤務、副業や兼業を認めている企業がきわめて少ないようで、個人の事情に合わせて働き方を選ぶという柔軟な状況とは程遠い。
副業や兼業が解禁になり、まだ認めていない企業が少ない現状がありつつも、これから社会全体の生産性を考えたときに、まさに人材の「シェアリング」が進むかもしれない。真の人手不足の解消には、企業のエゴから脱出し、社会全体の人材の適切配置を考えるべきだし、社員の方も、自分の社会的な価値を見つめ直す必要がある。
(1)「人手不足の現状及び対応策」
http://www.mof.go.jp/about_mof/zaimu/kannai/201704/hitodebusoku088.pdf
(2) 「改正労働契約法とその特例への対応状況等に関するアンケート調査」
http://www.jil.go.jp/press/documents/20170523.pdf
(3)働き方改革計画
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/pdf/20170328/05.pdf
Glory