2018.11.19
あの機械のない未来
ロボットやAIの発達により機械による自動化が進むという世の中の大きな流れは大方の予想を覆すことはないだろう。しかし、古くからある機械装置の中には、それらの技術革新によってその存在意義を脅かされ、全てと言って良いほどその姿を消さざるを得ない未来を待ち構えているモノもある。普段何気なく使っているモノが気づけばなくなっていたという経験は皆さんの中にもあるのではないだろうか。例えば、公衆電話もその一例かと思う。携帯電話、ひいてはスマホの普及により、昔は家や友人の電話番号を覚え、公衆電話を使っていた日常もすっかり景色を変え、今、公衆電話を使用する人やシーンはかなり限定されたものになっているといえる。時代の変化や技術革新とともに新たに登場するモノの陰で姿を消しゆくモノはこれからも数多く存在するかと思うが、(私の個人的な嗜好になるが)本コラムでは特に、自動販売機についてフォーカスして考察を試みたいと思う。その上で、今存在する様々なモノが陳腐化し消えゆく可能性のある将来に対し、どのようなことを考えておくべきかの示唆を見出したい。始めに断っておくが、想像の域を出ない話も多分に含まれるため業界関係者の方の細かいご指摘などはご容赦願いたい。 自動販売機は今や日本全国に約500万台近く存在し、食料品自販機や物品自販機など様々存在するが、その半数近くを飲料自販機が占める。飲料自販機の動向だけを見ても、もともと「台数至上主義」であったメーカーやオペレーター各社も採算のとれない自販機については撤退し利益志向への転換を推し進めていることもあり、最近街角にある飲料自販機はどんどん姿を消して行っている。実際、日本自動販売システム機械工業会によると、全国の飲料自販機の設置台数は2005年の267万台をピークに減少基調が続き、2016年は247万台で、ピークから20万台も減少した。飲料自販機に関しては、自動販売機に補充を行うルート人材の確保など、その他の課題も山積しており、関係各社は今後の戦略について、撤退も含めて未来に活路を見出す検討を余儀なくされていることではないかと推察される。 私は自動販売機の未来に活路を見出す上では、何らかのイノベーションが求められると考えている。イノベーションとは、”経済的な価値を生み出す新しいモノ・コト”と定義することができ、イノベーションはめまぐるしく環境変化する昨今において、どの企業も積極的に模索している。挙げ句、人事の領域では“イノベーション人材”などという言葉まで生まれてきている。イノベーションは製品やバリューチェーンプロセスなど、様々な部分で起こるが、今まで見てきた・体験してきた景色が大きくがらっと変わるとイノベーションが起きたといっても過言ではない。iPhoneから始まったスマホの普及などは製品のイノベーションが起きたポピュラーな例といえる。スマホの普及によって、通勤電車内やイベント会場、日常のカフェの店内など、これまでの景色が大きく変わった。では、自動販売機の置かれている景色ががらっと変わるとすればどのようなことが考えられるのだろうか。 「イノベーションのジレンマ」を語ったクリステンセン氏によれば、イノベーションには持続的イノベーションと破壊的イノベーションの2種類が存在する。簡潔に言うならば、前者は現在市場で求められている価値を向上させるイノベーションのことであり、後者は現在市場で求められている以外の価値を向上させることで既存の価値を陳腐化させるイノベーションのことである。 現在の自動販売機に起きている技術革新を見てみると、省エネ化や顔面認証による商品提案システム、天気情報やニュースなどを流す機械など、既存の利用価値を向上させるための持続的イノベーションに終始している印象を受ける。携帯電話業界に対するiPhoneの登場のように、破壊的イノベーションを模索していくことが必要ではないだろうか。そのためには、自動販売機が取り巻く景色がどのように変わるか、また自動販売機自体の価値がどのように変容するべきかをイメージすることが重要である。イノベーションは、既存のモノ・コトの異質な組み合わせや今までの視点を180度変えることで発想できることも多い。 例えば、東日本大震災のときに電気の無駄遣いをしていると批判されていた自動販売機の見方をチャンスと捉え、これからの売電市場の盛り上がりと掛け合わせることで売電機器として進化させることはできないだろうか。現在駐車場には自動販売機が必ず設置されているが、これから伸びゆく自動運転市場やEV市場との相乗効果も期待できるかもしれないし、売電量をポイント化して既存の飲料販売と組み合わせるなどの新たな販売スキームを築き上げることもできるかもしれない。 他にも今まで自動「販売」機というのは「販売」という売り手視点の存在価値であったが、買い手視点の存在価値として、自動「購入」機というものを考えるとどうだろうか。そうするとコンビニエンスストアと競合する利便性のレッドオーシャンから脱却し、新たな存在価値を手にすることができるかもしれない。(Amazon Dash Buttonなどはもしかしたらその先駆け的存在といえるかもしれない) 幾分か突飛な発想も含まれているが、自動販売機に限らず、例えば駅の券売機やエレベーター/エスカレーターなど、今普通に使っている機械がこれからどうなっていくか、どうなると私たちの暮らしの風景は劇的に変化するのか、それらを想像することで新しい豊かな未来が拓けてくるのではないだろうか。これらの陳腐化し消えゆく可能性のあるモノについては、イノベーションの中でも破壊的イノベーションによって今までの存在価値を大きく変容させることが求められる。変容させる上では、自動販売機の例で挙げたように、既存の問題点と言われている部分に対して全く異なる領域から光を当ててチャンスに変え、発揮できる価値を模索することや、売り手視点で語られていたモノを買い手視点で捉え直すことで新しい形態や機能に進化させることなどが重要になってくるだろう。技術革新が加速度的に進みゆく昨今において、これから自動化が進む領域はどこか、だけではなく、これから陳腐化してゆく可能性のあるモノに対してこのような視点を常に持ち、新たな未来の可能性についてこれからも模索を続けていきたい。 ハッピーホーム