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2018.12.08

昆虫食が秘める可能性

 2018年1月1日に「新規食品(ノベルフード)」に関するEU規則が施行され、昆虫が新規食品として規定された。養殖された昆虫についてのみ、食用として輸入することが認められ、食品としてEU全域での流通が可能となり、市場の拡大が期待されている。今世界で昆虫食や人工肉等、タンパク質を摂取できる代替食品を手がけるスタートアップ企業が増えている。昆虫食は食糧危機対策になるだけでなく環境に優しいタンパク質を摂取できる代替食品として注目され始めているが、本当に将来の食を支える食材になる可能性はあるのだろうか。

 

 今日の地球環境は爆発的な人口増加に圧迫されている。人口増加の勢いは衰えることなく2018年現在、70億人を突破し、2050年に98億人に増えると予測されている(※1)。この98億人社会の到来により、様々な問題が懸念されており、食糧問題がその中でも最も深刻な問題の一つとして挙げられている。2050年に98億人に増える人類を養うためには、地球上の食糧生産を約70%(※2)増やす必要があると試算されている。

 このような状況で、食糧増産を実現させるための取り組みが様々な方面で行われている。農作物の場合は、品種改良や遺伝子組み換え、植物工場のような機械設備等の開発、また効率的な農地の利用方法や、海水を真水還元して利用する灌漑システム、乾燥地帯の農地化などの開発が進められている。農作物に関しては、様々な取り組みがみられ成果が期待される分野であることから、投資や研究費の投入も盛んだ。

 これとは対照的に将来を不安視されているのが、動物性タンパク質の供給である。動物性タンパク質の供給は畜産業と漁業が主に担っているが、昨今両産業ともに問題が多く指摘されている。漁業においては近年アジア諸国の成長や欧米でのアジアブームによる魚食文化の拡大に伴い、魚の漁獲量が爆発的に増えた。そこで、乱獲による環境問題や、大衆魚の資源枯渇への対策の一端として、水産養殖が成長し2014年には養殖量が漁獲量を超えている。水産養殖産業は動物性タンパク質供給の期待が持てる領域だが、その水産養殖産業も沿岸地域では有効であるが、遠い内陸部への供給は、輸送やエネルギーの面で効率ロスが生じる。内陸部における動物性タンパク質の供給がまだ課題として残されている。

 もう一方の畜産業は、多大なエネルギーを必要とし、環境に負荷をかける行為であり、増産はおろか持続可能ですら無いと指摘されている。国連食糧農業機関(FAO)は、家畜動物達が全世界の交通機関(全ての自動車・飛行機・船)から産出される温室効果ガスよりも40%も多くの温室効果ガスを産出しており(温室効果ガス全体の18%は畜産からの産出)、排泄物に含まれる抗生物質やホルモン剤、食肉解体場からの廃水に含まれる硝酸塩は土壌や水質の劣化の主要な原因にもなっていると報告している(※3)。牧草地は地球の陸地総面積の23%という広大なエリアを既に覆っており、これ以上の拡大は難しく、限られた土地の中で飼育密度を上げての効率化は、大規模な疫病の発症や、倫理的な問題、遺伝子等先端技術や抗生物質等の導入などによる安全性や健康面への懸念がある。このように、様々な問題に阻まれ、畜産業は効率的かつ革新的な増産方法の開発があまり進んでいないという状況にある。

 

 このような状況の中、既存の畜産業・漁業にかわる新たな動物性タンパク質の源として注目されている食材の一つが昆虫食だ。昆虫食の優れた機能性を見てみると、牛肉1キロの生産に8キロの飼料が必要なのに対して、昆虫は2キロと4分の1。温暖化ガスの排出量も10分の1から100分の1という。大量の糞尿もなく、必要な土地もずっと小さい。また牛の可食部位は全体のわずか40%にとどまり、60%の不可食部位を廃棄しているが昆虫の可食部位は平均80%で、タンパク質の量という面でも、牛肉に含まれるタンパク質量は17%であるのに対し、昆虫は80%とほとんどタンパク質のカタマリである。途上国における飢餓環境において、未熟なインフラでも生産が可能で、安価に提供できる可能性を秘めており、高タンパク、低脂肪、高カロリーで、アミノ酸を多く含んでおり、優れた食材といえる。

 

 人口98億人社会に到達するといわれる2050年には、既存の畜産業・漁業より省資源で生産でき環境面への負荷が少なくタンパク質危機に対し有効な食材である昆虫食は、今後、活躍の場を広げる可能性が高いといえるだろう。しかしながら、普及拡大していくうえでは昆虫食への嫌悪感が課題の一つだ。昆虫食の習慣がない消費者は昆虫を食糧として認識するハードルが高く、大衆に受け入れられるまでには時間を要するだろう。しかしエビやカニなどと同様に姿形は印象が悪くとも習慣化されることで抵抗感がなくなるかもしれない。また粉末化し、小麦粉やプロテインバーなどの代替として抵抗感を抑えた商品化することで普及を後押しするかもしれない。

さらに昆虫食は畜産、漁業の飼料としても活用できるかもしれない。例えば廃棄される食糧で昆虫を大量飼育し、家畜飼料では魚粉や穀物類が多く使用されているが、これを昆虫で代替できれば、人間の食べる食糧を実質的に増産したのと同じ効果が得られることになる。世界的に昆虫食文化が普及するのが最も近道なのだろうが、既に昆虫食文化を持つといわれる世界人口の3分の1が安定的・安全に昆虫を調達できる環境が整備されるだけでも、穀物や畜産物に対する需要抑制と言う形で、食糧需給の安定化につながるだろう。

 

※1国際連合 世界都市人口予測・2018年改訂版

※2国連食糧農業機関(FAO) 食料と農業のための世界土地・水資源白書

※3国連食糧農業機関(FAO) 世界の食料安全保障と栄養の現状 2018

 

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