2020.08.03
戦が変わった外食産業
新型コロナ感染拡大の第2波がもう来ているといってもおかしくない昨今、5,6月頃から多くの企業がウィズコロナ、アフターコロナに向けてのスピーディな対応を迫られ、働き方改革やジョブ型への雇用転換、DX加速とその施策のいくつかが最近ニュースでも毎日取り沙汰されている。そのような中、新型コロナによる外出自粛や在宅勤務が定着浸透する中で、大きな脅威にさらされている業界の一つに外食産業が挙げられる。
実際、大手居酒屋チェーンであるワタミは6月以降大規模閉店に動き出し、ファミレスチェーンを運営するロイヤルホールディングスも時短営業の実施に加え、「天丼 てんや」など不採算の店舗を2021年12月までに約70店舗閉店すると発表している。飲食経営者のインタビュー記事などでも「『繁華街の(道路に接して見つけやすい)路面店』という外食業界の成功の方程式が崩れてしまった。従来の『勝ち筋』がゼロどころか、マイナスに陥ってしまった」「ちょっと前までインターネット予約のウェブページが(空席を示す)『○』だと集客にならなかったが、今は『○』が多い方が安心して来店してもらえる」と顧客の消費価値観やライフスタイル、それに伴う消費行動が大きくパラダイムシフトしている中で、外食産業全体の勝ち方やセオリーも大きなパラダイムシフトが求められている。象徴的に言えば、新型コロナ影響下ではもはや「満員御礼」から「満員御免」にシフトしているのだ。
では、このように顕著な変化がみられている外食産業において、参入各社はどのような戦い方が求められていくのか。
まず、最も大きな競争環境(≒戦)の転換点は、「人が外に出る機会が減少し、それが習慣化すること」による外食市場自体のパイの大幅減少に起因するものだ。すなわち、今までは順調に拡大傾向にある外食市場の中で、いかに他の外食店舗と差別化し、付加価値を訴求し、コストを削って売上・利益を最大化するかが経営の論点であったところから、もはや外食市場の中だけでは十分な成長が見込めない時期に来ているのだ。一方で、デリバリーやスーパーの総菜など、いわゆる内食・中食市場は拡大傾向にある。つまり、今までは外食市場の中での競争を考えていればよかったが、競争相手が内食・中食市場への参入企業群(例えば、デリバリー中心の企業やスーパーなどの小売りなど)にまで大きく拡がり、これまでにないプレイヤーとの戦いが強いられるようになってきているのだ。
そのような環境変化の中で、外食市場で戦う企業各社はどのように競争に勝ち残る戦略を練っていけばよいのか。
まずは消費者の観点から「外食する」という行為がどのように変容してきているのかを改めて考えてみたい。新型コロナの影響下では消費者において大きく「生活環境」「生活価値観」「生活水準」の3点で変化がみられる。
「生活環境」については、テレワークの浸透などにより在宅時間が増加し、可処分時間(可処分所得の概念を時間に置き換えたもの)が増加している。これは家族と過ごす時間や家事に費やす時間が増えてくることをさし、いわゆる“イエナカの充実”を模索する層が拡大していくことを意味する。また、同時に通勤・通学という概念が消失することで、生活圏が狭小化してきており、「外食する」という行為においても自宅近所の店舗探索行動が増えてきている。
「生活価値観」については、健康意識の拡大が顕著な傾向である。ウィズコロナという短期的な視点でいえば、非対面・非接触購買の増加などに結びつく。さらに、アフターコロナという長期的な視点でいえば少し見え方が変わってくる。というのも、ビッグデータ活用の流れも受けると、自身や家族の健康のためなら、個人データの企業提供を厭わないという層が増加傾向にあり、データ利用に関して、セキュリティ重視より健康重視、という概念変化がすこしずつ起きはじめている。「外食する」という行為に限らず食事全般において、これらの個人データを活用した個別最適な健康食の提供など、今後もニーズがどんどん高まっていくことが想像できる。
「生活水準」については、経済活動自粛層とそうでない層との所得格差が拡大してきている。それにより「外食する」という行為においても、高付加価値を追求していく高所得者層と、より安く便利なサービスを希求する低所得者層の開きはいっそう大きくなることが想像できる。
もちろん、戦略を検討する上では、自社の強み弱みも含めて積み上げていく必要があるが、あくまで一般論として、外食企業各社は、ウィズコロナの環境変化の中でいかにして生き残るかを模索しつつ、アフターコロナを見据えて爪を研ぎ澄ます、というのが基本的な姿勢となるだろう。
上記の消費者変化を踏まえ、まずウィズコロナ時代をどう生き抜くかについては、内食・中食市場と対峙しながら少しでも利用してもらえるチャンスを探り、ものにしていく戦略が必要になる。その意味では、①生活圏の狭小化をチャンスと捉え、都市型大型店舗ではなく、地場密着型店舗を積極的に展開する、②非対面・非接触での食事提供サービスを強化していく、この2つが直近利用者を獲得していく上では重要だろう。そして、その中でアフターコロナ時代を見据えてエリア顧客の囲い込み(ブランド認知を高める)を進めていくことで、アフターコロナ時代での固定客獲得につなげていくことが求められる。エリア顧客をしっかり囲い込み、ブランド認知を広げていく上では、デリバリー対応によって内食・中食市場に幅を広げていくというのも、必然的に求められる企業が多いだろう。(現在ブランド認知が圧倒的に確立できている企業群であれば、わざわざリスクをとって手を広げずにウィズコロナはじっと耐え抜くということが可能かもしれないが)
そして、アフターコロナ時代で戦い抜くためには、消費者の内食・中食利用が本格的に確立している状況でもなお利用してもらえるように、競争戦略を練って準備を進める必要がある。競争戦略の基本セオリーは、大きく分けて差別化戦略(如何に生み出す付加価値=利益を最大化するか)とコストリーダーシップ戦略(如何に生み出すためのコストを最小化するか)があり、それぞれの観点から考察を試みる。
アフターコロナ時代を見据えた差別化戦略の観点では、定着するであろう消費者性向をどのように捉え、それに応じた付加価値をどのようにつけていくかが重要になる。例えば健康意識の高まりやデータ活用意向の拡大などを想定するのであれば、個別の生活者データ活用により、内食・中食では実現できない圧倒的な高付加価値を出せる商品・サービスの開発を進めていくこと、格差が拡大する状況を想定するのであれば、ターゲットを高所得者層か低所得者層に絞って商品・サービスを検討していくことが考えられる。
コストリーダーシップ戦略の観点では、内食・中食事業と伍するだけの体制を作っていくことが重要になる。例えばDXに伴う省人化・省力化やデリバリー展開も見据えたバリューチェーン全体のコスト最適化が考えられる。
いままでの話を振り返ると、アフターコロナ時代の消費者性向がどうなるかはまだわからないのであくまで想像の範囲を脱することはできないが、外食企業各社の戦い方が大きく変化していくであろうことは間違いないだろう。
余談にはなるが、今後デジタルが主流となりデータをとれる顧客接点を多く持つ企業が市場の先導者となりうるアフターデジタルの世界では、新規参入者として既存のITプラットフォーマーが食市場に乗り込んできたらどうなっていくのかを想像してみるのも面白い。あくまで妄想に過ぎないが、家庭の冷蔵庫に余っている食材を自動的に把握して、企業からお知らせが届き、それをみて近くのコンビニなどに設置されているサービス受付に食材をもっていくと、買い物などの用事を済ませ帰るころには家族に最適な料理に加工されて受け取ることができる、といったようなサービスも顧客データをつかみ活用している企業であれば実現できるのではないだろうか。
食というのは衣・住と並んでくらしを構成する三大要素の一つであり、その市場はなくなる(つまり、人が食料を取らなくてもよくなる)ということは今はまだ想像できない。そのような中、様々な企業がどのように市場に参入し、今後戦い抜いていくのか、どのように淘汰が進むのか、興味深く今後も注視していきたい。
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