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2021.02.01

パーパス実現の盲点

 近年パーパス(Purpose)の重要性を説く書籍や雑誌を多く目にする。パーパスとは、“企業や組織が何のために存在するのか”という存在意義を示すものだ。パーパスの事例と言えば、V字回復を遂げたソニーが思いつく。ソニーは2019年1月に、“クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす”というパーパスを掲げた。

 

 ソニーは、多様な事業に関わる世界約11万人の全社員が、同じ視点を持って価値を創出していくために、共通認識が必要であると考え、あらゆる事業の軸は“人”にあり、“人の心を動かすこと”の重要性をパーパスに明文化した。昨年のCES(デジタル技術見本市)で、ソニーがEV「Vision-S」を発表し世界を驚かせたことも記憶に新しいが、まさに掲げたパーパスを体現しているように思える。

 

 ソニーの事例はなぜうまくいったのだろか。それは、ソニーが“個”を尊重して社員のパーパスを明確にしようとし、企業のパーパスとかみ合わせたことにあるのではないか。ソニーはパーパスを作るプロセスで、社内ブログで世界中の社員からパーパスの意見を募り社員の思いを明確にしたそうだ。裏を返せば、社員のパーパスを明確にしていない企業がパーパスを実現することは難しい。なぜなら、企業のパーパスを実現するのは社員個々人であり、社員のパーパスが曖昧な状態では、企業のパーパスとかみ合うことすらないからだ。

 

 このようなことを禅問答しているうちに、パーパスを実現するには、企業のパーパスと個人のパーパスをかみ合わせるために、企業は社員個人のパーパスを明確にするように働きかけることが重要であると考えた。

 

 では、企業はどのように社員個人のパーパスを明確にすればよいのだろうか。そもそも個人のパーパスは、“自身のやりたいこと”と“世の中に提供したいこと”の2つの要素があり、個人のパーパスを明確にするということは、この2つの要素を満たすことで“生きる楽しみを見出していくこと”だと考える。すなわち、個人のパーパスとは“志“なのではないか。”志“を辞書で引くと、”自身が心に決めた目標”や“相手を思う気持ち”とある。また、生きる楽しみは自身の心が決めるものだ。つまり、個人のパーパスを明確にするためには、“志”を創り・育むことに他ならないのだ。

 

 グロービズ経営大学院の田久保氏著の「志を育てる」によると、“志”を創るにはステップがあるという。まず、日常や仕事の“実体験”や思想・研修などの“仮想体験”を通じて形成された価値観やその体験を丁寧に意味づけることから始まる。次に、目標を定めて実行し、様々な要因により取り組みの終焉を迎えるが、その目標の位置づけを客観的に見て、「定めた目標に対して自身が何を成し遂げたかったのか」、「自身にとっての目標の意味は何か」などの自問自答を繰り返すサイクルを通じて、“志”を育んでいくことができるそうだ。

 

 この考え方を見て、企業が社員個人の“志”を創り・育むには、社員の価値観を明確にすることから始めるとよいと思えた。例えば、社員に嬉しかったことや悲しかったことなどの原体験を通じて得た価値観を言語化させる。その価値観を基に、自身が短期的に成し遂げたいこと、一生涯かけて成し遂げたいことを自問自答させて、“志”を紡いでいく。メンバー同士でエピソードと紡いだ“志”をアウトプットし合ってもよい。

 

 別の観点からも“志”の創り方・育み方を見てみよう。明治時代の偉人は、共通して寺子屋の教育を受けていたと言われている。生徒(寺子)達は、善意や使命感を持った教師により教育を施され、実社会で役立つ技術を習得するとともに、家族や仲間、社会に役立つことの大切さを学んだ。

 

 寺子屋では、千年間読まれ続けてきた“実語教”と言う教科書を使い、生徒に世の中の役に立つ人としての生き方を徹底的に叩き込んだ。年長者は師匠の代理として後輩に教え、後輩は年長者が写経した教科書を使用し暗唱するのだそうだ。生徒達は、“人間とはいかなるものか、世界はいかなるものか、人間はいかに生きるべきか”といったことを考えることで“志”を創り・育んだ。この“志”が幕末の志士や明治期を支えた官僚を多数輩出し、日本を大国に成長させた。

 

 温故知新ではあるが、寺子屋で学んでいた教育の要素は“志”を創り・育むヒントとなるのではないか。例えば、“実語教”のようなものをテキスト化し、定期的に社員同士で議論する場を作ることで、社員の生き方や価値観を明確にし、“志”を創り・育むことができると考える。これは、京セラの稲盛氏の書籍「心」の朗読会を実施する企業や推薦図書にしている企業が存在することの理由にも通じるものがある。

 

 このように、企業がパーパスを実現するには、「企業のパーパスを掲げること」に加えて、「“志”を創り・育み、個人のパーパスを明確にすること」という両輪を回していくことが重要である。両輪がかみ合うことで、個人は自身の能力を最大限発揮し、パーパスの実現や社会への貢献度を高めることを通して、組織と個人が螺旋を描いて成長していくことができる。

 

 企業には社員個人に寄り添い、個々の“志”を創り・育むように働きかけ、よりよい社会を形成するために掲げたパーパスを実現してもらいたい。今後の企業の動向に注目してみてはいかがだろうか。

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